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貯まる十周年

「ケンちゃん、10歳の誕生日おめでとう!」
10本の蝋燭の炎が揺らぐケーキを前に、一人息子のケンジが満面の笑みを浮かべた。
「もう10歳か。早いもんだな」

夫の呟きにじんと目頭が熱くなる。
泣き続ける息子を腕に、母親失格かと涙した日々も今となっては懐かしい。
彼が生を享けて10周年。それは親となった10周年でもある。
おめでとう、ケンちゃん。
おめでとう、私たち。
今日ばかりは心ゆくまで食べて祝おう。

「ねえ、ママ。もしかしてママのお腹に僕の弟か妹がいるの?」
息子の唐突な発言に、私は思わずむせ込んだ。
「な…何を…」
「だってママのお腹、最近大きくなってきたんだもん」
ぷっと吹き出した夫を横目で睨みつける。

―愛する息子よ。
それは君を産んだあと、10年間に亘って貯め込んだ私の脂肪だ。
「いいさ、家族が健康なら。なあ?」
私は曖昧に頷くと、やけくそで残ったケーキを丸ごと口の中へ押し込んだ。

*この作品は、以下の企画に参加しております。

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