見出し画像

愛にカニばさみ・脱出編【毎週ショートショートnote・裏お題の続編】

本作品は、以下の記事の続編となります。
大変恐れ入りますが、まずこちらとそのコメント欄をお目通しの上、本作品をお読みくださいますよう、お願いいたします(笑)
なお410字の文字数をはるかに超過していることを、あらかじめお詫びいたします……。

「ここは……?」

目覚めた新婦は、さっきまでの記憶を必死で辿った。
確かとんでもないケーキとカニばさみが……
そこまで思い出して、はっと気づく。
あの人はどうなったんだろう。夫婦になると誓ったはずのあの人は……
だが新婦は自分の手を見て、激しく首を振った。ドレスの袖から覗く手は、ひどく赤く腫れ上がっている。

――あんな人、もうどうだっていい。私が甲殻類アレルギーと知っていながら、平然とカニばさみを握らせる人なんて……!

その時、どこからか声がした。

「ああ、気がついたんだね。ここが僕らの新居だよ」

聞き慣れたはずの声に、新婦の背筋がぞくりと冷える。
冗談じゃない、何としてもここから、この人から逃げなければ。
でもどうやって……!

「無駄だよ。ここからは出られない。君は永遠にここで僕と……」

新婦は青と白のクリームにまみれたドレスの裾を跳ね上げて立ち上がるや、横の壁に飛びついた。つるりとした四方の壁のそこだけに、割り箸のような形の不可解な突起が5本飛び出していたのだ。

「おやおや、ずいぶんお転婆なんだね。でもどこにも出口なんてないんだよ」
「ないなら作るまでよ!」

新婦は割り箸突起の一番上まで昇るや、思い切り手を伸ばした。
夢中でつかみ取った物体を、声のする方に向かって投げつける。

「うわあっ!」

半ば賭けだったが、どうやら読みが当たったようだった。

「ひどいじゃないか! 僕が卵アレルギーなことを知っていて!」
「お互い様でしょ! このだし巻き卵を食べ尽くせば、ここから出られるわ!」
「そうはさせるか!」

――ぶん!

さっきのカニばさみが空を切って飛んできた。

「くっ!」

新婦は歯を食いしばって足元の割り箸を壁からつかみ取ると、無我夢中で切り返した。

――ニカーン!!!

不気味な音を立てて、カニばさみは得体の知れない空間に飲み込まれていく。

新婦は再び手を伸ばしてだし巻き卵をちぎり取るや、今度は自分の口に押し込んだ。ほんのりと温かいだしが口の中にじゅわりと広がる。

「何これ、うっま……」

夢中でちぎっては頬張るうちに、少しずつ視界に光が差し込んでくる。

「よし、完食!」

巨大なだし巻き卵を食べ尽くした穴からクリームだらけのドレスをふわりとたなびかせ、新婦は懐かしい外の世界へと軽やかに飛び立っていった。

(933字)

【あとがき】
すんません、すんません。
前作のコメント欄で反応いただけたのが嬉しくて、つい調子に乗って書いちゃったんです。

ついでに遠い遠い昔、たらはさんとへいたさんと三人で、だし巻き卵Barやったこともあるんです。良かったらこちらもご賞味くださいませ。


*この記事は、以下の企画に参加しております(規格外)


お読み下さってありがとうございます。 よろしければサポート頂けると、とても励みになります! 頂いたサポートは、書籍購入費として大切に使わせて頂きます。