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君に贈る火星の
小さな頃、君はとんでもない泣き虫だった。
幼稚園はおろか、小学校に入学した時さえ「ママ、ママ」と後ろを振り返って泣いていた君。
友達に意地悪されたと言っては泣き、野球の決勝戦で負けたと言っては泣く。さすがに東京の大学に行く時は泣かなかったけどね。
そしてたくさんたくさん勉強した君は、ついに子供の頃からの夢を実現させた。正直な話、僕たちはまさかと思っていたんだ。でも知らなかったよ。君はいつの間にかこんなに強く、逞しくなっていたんだな。
あの日、家に電話がかかってきた時のことは、今でもはっきり覚えてるよ。
「おめでとう、ユージ。君に火星行きのチケットを贈るよ」
人類初の火星有人飛行。ミッションが決定した時、受話器を握りしめたまま硬直したように立ち尽くしていた君。
僕たちが君の涙を見たのは、実に久しぶりだった。
その君が今日、はるか宇宙へと出発する。
頑張れ、息子よ。
その大きな翼を広げて、精一杯、飛んでこい。
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