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『第60回 宣伝会議賞』に思う〈1351字〉

先週『第60回 宣伝会議賞』の最終結果が発表された。
『宣伝会議賞』とは、毎年の応募総数が60万本を超える、キャッチコピー業界の登竜門と言われる非常に大規模なコンテストだ。

私は、コピーに関してはまったくの門外漢である。だがあちらの世界で猛者と呼ばれる方々のお名前は何人か存じ上げている。
と言うのも、SSの世界にはコピー界隈でも力を発揮する、いわゆる「両刀使い」が何人もいるからだ。たらはさんとか、殿(makihide00さん)とか、だら子さんとか。そういう方々を通じて、自然にお名前ぐらいは覚えてしまう。

さらにTwitterでは『Twitterキャッチコピーグランプリ』、通称コピグラと呼ばれるコンテスト(と言っていいのか…ごめんなさい。何と表現すればいいのか判らなくて)がある。私が存じ上げているのも、大半がこのコピグラ参加者の方々だ(そして皆さん、めちゃくちゃレベルが高い!)。


『宣伝会議賞』の募集が始まってから結果が発表されるまでの約半年間、あまたの挑戦者たちの想いがあちこちに流れてくる。
9月1日、一斉にスタート切った時の意気込み。締切間近の壮絶なラストスパート。そして運命の発表へと舞台は続いていく。

先週その発表が終わり、すべての結果が出た。
賞を獲れたかどうかだけでなく、何本通過したか、一次・二次・三次・最終のどこまで到達したかと、挑戦者たちは自らの結果を振り返る(三次までは事前に発表されている)。
何しろ人によっては1000本単位で応募するのだ。それでも一次すら通らないという現実だって充分あり得る、非常に厳しい世界である。

やはりあちらの世界にも中心的存在レジェンドという方々は何人もいて、みんなその人たちの背中を追いかけている。時に競い、時に励まし合い、何よりみんなが「コピーの世界」を楽しんでいる。
それは傍から見ていても、ちょっと羨ましくなるぐらいの連帯感だ。
(もっとも小説の世界でも『坊っちゃん文学賞』なんかは、結構近いものがあるのかもしれないけれど)

そんな彼ら、彼女らの闘いぶりを見ていると、自分は120%の部外者にもかかわらずじん……とくる。そこでは自分がいつもいる場所と、まったく同じ光景が繰り広げられているからだ。

自分の方向性を見定め、どうやって挑戦していくのか思いを巡らせる日々。
納得いくものを書き上げて「これしかない!」と拳を握りしめることもあれば、何の閃きも浮かばなくて絶望にまみれる時もある。
賞を獲って嬉しいのも、思うような結果が出ずに自分だけが置いていかれたような焦りや悔しさを覚えるのも、我々小説勢と何ら変わらない。

他の人が賞を獲った時、もちろんそれ自体は嬉しく、とてもおめでたいことではあるのだけれど「なのに自分は……」と忸怩たる思いに駆られた覚えがある人は、小説の世界にも多かろうと思う。
私自身、まったく成果の出なかった2021年は、そのじっとりとした粘着性の感情との闘いだった。

じわじわ湧き上がる楽しさと砂を噛むような苦々しさを味わいながら、勇敢に闘った人たちの姿は熱い。
今の私は諸事情あってちょっと停滞気味だけど、その姿を見ているとまた頑張ろうと思えてくる。

『第60回宣伝会議賞』に挑戦したすべてのコピー戦士の皆さん、お疲れ様でした。

素晴らしい闘いを、ありがとう。


【あとがき】
現在、終末期にある義父の調子が思わしくなく、落ち着かない日々を過ごしています。時間はあるのですが、なかなか頭が「小説を書く」モードにならないというか……(それはそれで仕方ないのですが)。

そんな中で3月10日に発表された『第60回 宣伝会議賞』の結果を巡る様々な呟きや記事を目にして、新たに心動かされるものを感じました。
小説は無理でも、こういったエッセイのようなものはまだ書けるので、忘れないうちに形にした次第です。
コピーとは何の関係もない身ではありますが、その世界で体を張って闘う方々に、心からの敬意を捧げます。

【コピー関係者の皆様へ】
本記事を書くにあたり、宣伝会議賞の公式サイト等を調べるなどはしましたが、もしも重大な事実誤認等がございましたら、お手数ですがご指摘頂けると大変にありがたいです。
部外者感想のご無礼、平にご容赦下さいませ。

秋田柴子


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