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コロコロ変わる名探偵

ずらりと並ぶ関係者を前に、名探偵X氏は高らかに宣言した。
「この事件の犯人は、Aさん。あなたです」
そしてAが犯人である証拠を滔々と並べ立てる。刑事や遺族、他の容疑者B・C・Dは神妙に聞き入った。

ところが翌日、再びX氏が自信たっぷりに言った。
「やはり私の思ったとおり、犯人はBさんです」
ざわつく人々を無視して、X氏は完璧な推理を展開してみせた。

更に翌日。
「犯人は彼しかあり得ない。そうですね、Cさん」
みな呆れて顔を見合わせたが、X氏の理論的な説明には強い説得力があった。

またも翌日。
「見事な計略です、Dさん。でもこれまでですよ」
X氏の豹変ぶりに、もはや誰もがげんなりとしていた。
いったい誰が真犯人なのか……。


僕は溜息と共に本を閉じた。
ああ、誰もが犯人に思えてしまう。だから僕はダメなんだ……!
表紙には、デカデカとこれ見よがしにタイトルが踊っている。

「もう他人の意見に振り回されない!
〜ロジックに騙されやすいあなたを変える本」

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