空飛ぶストレート

いよいよ『全国本音で叫ぼう大会』決勝戦だ。
この大会は単なる絶叫ではなく「普段は言えない本音を伝える」ことを目的としていた。
まず出場者が自分の本音をストレートに叫ぶ。するとその叫びは審査員の点数や観客の拍手によって空中で１個のボールと変化へんげし、遥か遠くの相手の元へ飛んでいくのだ。

『ほんとはすげえ感謝してる！』
『残業しなきゃできない仕事なんて異常です！！』
『店員を大声で怒鳴るのは営業妨害です！！！』

どの叫びも真剣で切実だ。審査員も観客も大きく頷きながら、その本音ボールが彼方に飛び去っていくのを熱い期待を込めて見守る。やがて想いの相手に届いたボールは、どれもまっすぐその人の心へ飛び込んだ。

だが唯一届かなかったボールがあった。
それは『我々は派閥ではなく、政策で戦うべきです！』と叫んだ若手議員のボールである。
どうやら議会に届いた途端、直球ストレートではなく＂消える魔球＂になった、というのが事の真相らしかった。