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秋田柴子の聖地巡礼 vol.3 ~百年厨房〈1640字〉

いよいよ、旅の最終日である。

この日は、小学館の仲間である村崎なぎこさんにお会いする予定になっていた。
村崎なぎこさんとは、2020年に小学館の『第2回 日本おいしい小説大賞』で共に最終選考に残った間柄だ。そして彼女は続く第3回で、見事大賞を取った。その受賞作品が『百年厨房』である。

詳しくはネタバレになるので書けないが、『百年厨房』は栃木を舞台にした郷土小説だ。宇都宮市の北西にある大谷おおや市で産出される「大谷石おおやいし」と、大正時代のグルメレシピが物語の重要なモチーフになる、同賞にふさわしい非常に「おいしい小説」だ。

その大谷を、著者自らご案内いただいたのである。

大谷は、その独特な地形にまず圧倒される。
大正時代からほぼ人力で地下から採石した跡が残る『大谷資料館』は圧巻だった。たとえば映画『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』に出てくる地下宮殿の迫力を思い出していただけると、かなり近いかもしれない。
実際、様々な映画やCMのロケが行われている場所だ。

大谷石の採石や加工については、今はかなり職人さんが減ってしまっているという。だが街を走れば家の蔵や石垣などのあちこちに、ごく自然に大谷石が使われている。恐らく県外の人間でも、見れば「ああ、これか!」と思う方は多いに違いない。
ちなみに昨日見た宇都宮駅前の餃子像も、ちゃんと(?)大谷石でできている(笑)

ちょうどこの日は「フェスタイン大谷」の最終日だったとかで、あちこちにこんな幟がはためいていた。なぎこさんの『百年厨房』が、いかに地元で愛されているかの証だ。

迫力の大谷資料館。
ピンぼけが残念

さて大谷資料館のあとは、実際に『百年厨房』で出てきたレシピに忠実に作られた食事を食べに行く、というお楽しみが待っている。
今回、連れて行っていただいたのは、こちら!
大谷石で作られた蔵をリノベーションした『キジハジメテナク』さん!
いただいたのは物語の中に登場する『源氏飯げんじめし』である。

「晒しネギと、さっと炙ってもみほぐした海苔をご飯の上にのせ、その上から蕎麦醤油そばしたじをかけたもの」と物語の中では説明されている。
いやあ、もうこれが美味しくて美味しくて!
もともとは茶人の間で食べられるものだそうだが、ほんのり香るだしがネギや海苔やゴマの風味と合わさって、舌にくうううっと沁みてくるようだった。そのあとに食べたモンブランも、栗本来のまろやかな甘さに満ちた絶品だった。

源氏飯、本当に美味しかった!!
登場人物と同じように
「ウマいいいい!」と叫びたくなる。

かつての同志であり、今やプロ作家となられた大先輩でもあるなぎこさんと、あれやこれやと楽しく話した時間は、旅の最後に相応しく、本当に楽しいひとときだった。

なぎこさんは『百年厨房』に続いて、やはり地元の高校の水産科をモデルにした『ナカスイ! ~海なし県の水産高校』を上梓、見事重版出来となった。
そしてこの12月8日、続編の『ナカスイ! 海なし県の海洋実習』が発売。
『百年厨房』とはだいぶ異なるカラーながら、やはり郷土への愛が溢れた楽しい一冊になっている。

若い世代向けにはなっているものの、実のところは「むかしを思い出して懐かしい」あるいは「こんな青春が送りたかった」という、我々のような世代にも人気らしい。
ご興味のある方は、ぜひ読んでみてください!

コウペンちゃんに始まり、焼きたての餃子を堪能し、珠玉の物語の舞台を味わう旅は、こうして終わった。

もちろん万事順調というわけにはいかない。
熱々の餃子で口の中をひどく火傷したり、なぜかホテルの部屋のトイレの水がなくなって部屋中に下水の匂いが充満したり(これは本当に参った)、こちらの旅行中を狙いすましたようなタイミングで、非常にありがたくない相手から電話がかかってきたり、と困ったことも起きはした。

だがやっぱり、心の底から思うのだ。
旅はいいものだな、と。

今回の旅に関わってくださったすべての方々に、改めて感謝申し上げます。
ありがとう、いつかまた必ず、お会いしましょう。
どうかその日まで、お元気で。

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