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北の夏。日本の果て。

「魔女はもうみんな死んだってエムおばさんは言ってたわ──何年も何年も前に死んだんだって」

オズの魔法使い

四極
しきょく
東・西・南・北の果て。

デジタル大辞泉

おれは追いかけるべき夢も、養うべき家族も、愛を捧げるべき人も居ない中年男性だ。

ただ幸せな事に気の合う友人は居る。

そんな友人と2人、バイクに跨り旅に出た。

免許取得1年未満、バイク納車半年以内、往復760km弱、ノーインカム、43歳児2人。

目指したのは日本四極の一角、日本本土最北端、宗谷岬。

おれたちは、この国の果てが見たかった。

出発前の打ち合わせのようす。
札幌からオロロンラインをひたすらに北上。
抜海線を越え宗谷岬を目指す。
当日は4時に起床。
悪夢を見て最低最悪の気分で目覚めた。
AM5時に石狩新港近くのコンビニで待ち合わせる。
雲の高さが、流れる早さが夏のそれだった。
おじたちは隙あらば煙草休憩を目論むのだ。
バイクに乗る時は紙巻煙草一択でしょう。
屈託を抱え込んでまま走り続け、気がつけば天塩に。
ポケふた。をゲット。
なんで天塩にドムが...?
同じツィマット社製ならヅダにしろヅダに!
抜海線を北上してゆく。サロベツ原野に突入した。
これが赤い煉瓦の道ならよかったのになと思いながら走り続けた。

海の向こうに利尻岳が見える。
日本百名山、最北の女王。

宗谷岬に向かう前に“ポケふた”の回収に稚内市内を訪れた。

稚内駅横の駐車場に停める。
6月末までストーブを使用し、盆明けからまたストーブを使い出すと言われていた稚内でこの気温である。
日本最北のポケふたをゲット。

ーーー

ここで報告したい事がある。

ここまでの先導役は稚内方面に詳しい相方おじにお願いしていた。

行きに留萌で山岡家!稚内で山岡家!帰りにもう一丁留萌で山岡家!
最高のプランだべな〜!

そう言っていた相方おじは当日朝、待ち合わせ場所に到着するや否や、奥様が握ってくれたであろうおにぎりをカバンから取り出し食べ出しやがったのだ。(しかも2つも。)

留萌通過時のセリフ。

あきニキはお腹すいた?すいてない?
じゃあ別に山岡家寄らなくてもいいな^〜?
(寄る素振り皆無の態度と表情で)

このおっさんは...!

そんな所が好きなんだけどさ。

そんな相方おじに宗谷岬への案内を引き続きお願いする。

任せなさい。
稚内は庭みたいなもんだからな。
すぐに着くから。
ヒュッと行ってヒュヒュよ!

ほんとかなぁ...?

不安になりながら相方おじについて行くと...

おい。山岡家じゃねえか!

着いたよ〜!
宗谷岬!

え、いや山岡家じゃんここ?

何?宗谷岬って書いてあるべや。

あっ、ウン...ウン...書いてあるね...。

宗谷岬と書いてあります!(号泣絶叫)
期間限定焦がし醤油味!


退店後。

相方おじ「宗谷岬も到達したし帰るべ!」

おれ「あっ、ウン...いいよ、じゃあ帰ろうか。」

相方おじ「オメー宗谷岬直前で山岡家だけ食べて帰るとか頭おかしいべや!」

おれ(おかしいよこのおっさん...)

おれ「そうだね、ごめんね。」

相方おじ「おう。」

そして到着、日本の果て。
波内際でいちゃつく2人。

波打ち際でセルフィーを撮りつつ馬鹿話をしながらおじ同士いちゃついていると近くにいた老夫婦の奥方が

「あらあら楽しそうね〜。仲がいいのね。」

そう話しかけてきた。

少しばかり世間話を交わした。

奥方は去り際

「いいわね〜。多様性ね〜。素敵よ。」
などと微笑みながらこぼし、夫らしき人と手を繋ぎ去って行った。

おれ「多様性...おい、おれたちゲイカップルと間違えられたぞ。」

相方おじ「エッ?!」

数秒の沈黙。

相方おじ「あきニキ、おれは妻がいるので好きとかチューとかダメだぞ?そういうのは!(ガチ目に怯えた表情でおれから距離を取りながら)」

おれ「いやおれはストレートだから...」

相方おじ「ストレート?」

おれ「おんな好き!」

相方おじ「あーーーー!はいはい!アンタ女が大好きだもんな!」

おれ(もういいや...)

宗谷岬から宗谷丘陵の“白い道”を目指す。

夾雑物が目立つが。
何もかもが遠い。
果ての果てまで。
既視感があるなと思ったけど、それは当たり前の話。


行きに抱えていた屈託は宗谷丘陵によって振り払われた。

家路に着く。

留萌の夕日。
おれ「山岡家行かなくていいの?」
相方おじ「稚内で食べたもん。ハンバーグがいい。」
おれ「はいはい。」
20時の道の駅で。
血のように赤い月は雲を抜け、昇り、黄金色に輝いていた。
この雲に乗っけて飛ばしたんだ。
彼方にいるあなたの人生の物語がハッピーエンドで終わりますように。
黄金色に輝きますように。


往復760km弱、行動時間17時間45分。
よき旅路だった。

以上。

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