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『素敵なリニア』について

呆です。

僕の楽曲『素敵なリニア』についての自己満足の解説です。


背景

新名義「呆」となり、激励も批判もごた混ぜに携えて活動を続ける中で、僕の音楽に宿る「僕らしさ」(良くも悪くも)を解放していきたい気持ちが芽生えていました。

それはメロディ然りリズム然り、色んな所に潜んでいるのでしょうが、その正体が何なのかは自分には解らない。僕の音楽をずっと好きでいてくれる貴重なリスナーの方々が、各々の中で想ってくれている物だと思いました。

ならば僕は小細工を使わず、自らの指揮棒が振れるままに音を積み重ねていけば、その集合体の中に普遍的に現れるクセや偏りがそのまま僕の音楽の「僕らしさ」へと昇華される、そういう音楽群を目指したいと考え、作ったのが『素敵なリニア』(以下『リニア』)でした。

一発音が鳴ってすぐ「これは何か面白いぞ」というインパクトを与えられる曲が僕には少ないなと常々思っていたので、今回は最初からバキバキで行こうとした結果、いつの間にか5/4拍子のリフが出来上がってました。

コードワークを務めているのはクラビネットの音です。別に構想段階でクラビの音が欲しかったわけではないのですが、シンセより暖かみがあり、それでいて歯切れの良いクラビの音が『リニア』のコードワークと相性が良く、採用しました。

イントロのリフは、「この曲は5/4拍子の曲ですよ」と親切に教えてくれない、起・承・転・結が順番を守らず入り乱れるような物にしたつもりです。8拍で1度事務的に完結し、かと思いきや残りの2拍で自由に爪痕を残していく。曲自身が変拍子の制約に縛られないための、割とトリッキーなリフが作れたと思っています。


歌メロですが、最初に思い付いたのはBメロ(きっと ずっと〜の部分)でした。まだ伴奏もBメロに手をつけてない段階で、Bメロの構想が一気に湧き、メロディはそこから膨らませて行った物です。Bメロ以外のメロディは起伏が少ないというか、僕の中であまり活き活きとしたメロディではありません。それは態となのですが、理由は後述します。

公開後、「拍子が分からない」という声を意外と頂きました。もちろんこれは嬉しい声もあるのですが、リズムを作る中で「拍子を分からなくさせる」という目的はありませんでした。ただ、「1!2!3!4!5!1!2!3!4!5!」みたいなビート、ダサいじゃないですか。しっかり拍を数えてくれるビートというか、そういうのは嫌だなと思った結果だと思います。

サビの後半(とても強く甘く素晴らしい〜の部分)だけ、少し態と変な事をしています。その部分は、5/4拍子で進むコード進行の中で、メロディ以外4/4拍子のリズムで鳴っています。これはこの部分の歌詞のパワーに寄り添ったアンサンブルにするには、4/4拍子のビートを叩く以外方法が無いと判断したからです。

歌詞

僕は純文学が好きなんですけど(めちゃくちゃ冊数読んでるという意味ではなく)、淡々とした暮らしの中でも人間の感情や想いがグルグル駆け巡っていて、それを文字として具現化する作家の表現に感動するんですよね。

そういう物が影響してか、僕は女の子が自分の感情を客観的に語る歌詞が好きです。繊細な生き物が、その繊細さに振り回されながらも自分と向き合う。そのいじらしさが好きです。

左手として活動してた時も、『ダイナソー』という曲でそんな歌詞を書きました。『リニア』も、そういう歌詞です。

しかし僕は歌詞に明確なひとつのストーリーとか正解を持たせたくない人間です。僕の紡ぐ言葉が、聴いてくれた1人ひとりの経験や思想とリンクして、そこで初めてその人なりの意味が生まれるという作用を求めます。

......曲解説という名目で書いている記事なので、これから僕はこの歌詞の背景を説明するのですが、ちょっと今回のはクセが強いです。なので、既に『リニア』の歌詞があなたにとって大切になってる方や、自分なりの答えに辿り着いている方は、是非そちらを優先してください。そういう方は何ならここから先は読まなくてもいいです。



この歌詞のキーワードは所謂、「性行為」です。

人が人を好いている気持ちって、とても神聖な物ですよね。そういう気持ちを誰かに伝えたいとき、やっぱりそれ相応の準備や覚悟をしますよね。とても理性的な行為だと感じます。

かたや性行為って、文字通りふしだらな行為というか、善も悪も一緒くたな本能的で雑然とした雰囲気を帯びています。

しかし、大抵恋愛関係に於いて性行為はどうしても発生するイベントで、むしろ恋愛によって生まれる感情の拠り所を性行為に見出している方もたくさんいるんじゃないかなって、ふと思ったんですよね。

この歌詞の語り部の女の子は、僕の中でそういう人です。「ヤリモク」とか「セックスフレンド」とか、とんでもない。本気で好きだし、本気で憧れている。でもやはり、彼との一番充実した時間は、そういう事をしている時間。


そんな自分に、彼女はふんわりと淡いコンプレックスを抱いている。そんな設定を苗床にして、キャラクターと話し合って、少しずつ書いた歌詞です。

性的な行為から生まれる感情を不潔に、不純に、グロテスクに描く作品って沢山ありますが、僕は絶対それだけが正解じゃないと思ってるんです。ヒトが普遍的に行う行為である事には変わりないし、渦巻いている感情が神聖な物なら、セックスだろうと何だろうと奥ゆかしく描いてあげるべきだと、僕は思いました。

メロディが比較的活き活きとしていないのは、そういう思いからです。
この歌詞を「それそれ〜!」「いけいけ〜!」と囃し立てるメロディを絶対書きたくなかったから。女の子の大事な打ち明け話ですから、繊細に。それとなく。でも強かに。みたいなメロディが良かったんです。

何度も言いますが、上記のストーリー・設定がこの歌詞の全てというわけではありません。あくまでも着想です。ただただ出来事を羅列するような歌詞は大嫌いだし、上記の設定自体にパワーがあるだなんてさらさら思っていません。

ただ、日常の中を生きる人の心で渦巻く非日常的な想いをしたためた歌詞が、どういうパワーを持つか試したかったんです。

なのでこの歌詞を聴いてあなた自身が連想したストーリーやメッセージが、上記の内容より遥かに正解です。上のやつは数ある正解の内、ひとつの公式サンプルみたいな物だと思ってください。

まとめ

つらつらと書き連ねてみました。この解説が、あなたが『リニア』をもう一度聴く時間をより充実させてくれる事を願います。

僕はこの曲が好きです。伸びようが伸びまいが、この曲を作ったという思い出が僕に力をくれると信じてます。

皆さんがこの曲を心の片隅に置いてあげてくれさえしてくれたら、僕は幸せです。


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