はぐれミーシャ純情派 第三話 焼き物からカルボナーラへ

グーリャと二人で浅草に行ったのは金曜日。
その二日後の日曜日、私たちはまた会う約束をしていた。
それは僕がアルバイトをしていた三軒茶屋のキャロットタワーで開催されていた「ウズベキスタン物産展」に行くため。
グーリャの両親はウズベキスタン大使館の人だから、その物産展の企画にも関わっているのだそうで。
彼女に「もう見たんだったら、面白くないんじゃない?」と言うと、「私は見たけど、あなたとはまだ見ていないね」という答え。

待ち合わせは13時。
彼女は僕の姿を「こんにちは~」というユルい挨拶。
早速、物産展に向かう。

中に入ると、まあ、いろんなものがあるわあるわ。
最初に目に付いたのがきらびやかな民族衣装の数々。
「グーリャはこういうの、着たことあるの?」「ううん、まだないね」

壁に飾ってあった絵はたいしたことはなかったかな。

僕が一番気に入ったのは陶芸。
確かに向こうのものなんだけど、何か日本的な感じのする作品も多くて。
グーリャが他のものを見ている間も、一人でずっと焼き物を見ていると、私のところに一人の男性が。
ロシア語で「そんなに気に入ったんですか?」
僕「ええ。すごく」
男性「うれしいです。これ全部、私の作品なんです」
その人、この物産展のためにわざわざウズベキスタンから来日したのだそうで。

男性「どれが一番気に入りましたか?」
僕「この黒いのが一番好きです。すごく日本的なものを感じます。日本にもこういう感じの黒の焼き物があるんですよ」
それは花瓶というか壺というか、そこそこ大きい黒い焼き物でした。
すると、その男性が「じゃあ、どうぞ」。
僕「『どうぞ』って、どういう意味ですか?」
男性「どうぞお持ち帰りになってください。そんなにほめてもらって、私はとてもうれしいです。これは私からのプレゼントです」
えー!!!
僕は「そんなすばらしいもの、受け取れませんよ」と断ったのですが、男性はぜひ持っていけと言って聞かないので、もらっていくことにしました。

いつの間にか私が花瓶を抱えているのを見て、グーリャもびっくり。
グーリャ「それ、どうしたの~?」
僕「今、そこの陶芸家の人にもらっちゃって・・・」
グーリャ「あっ、そう。よかったね~」

よく見ると、その花瓶には値札がついていて「2万円」!
いいのかなあ。
でも、返すわけにもいかないし・・・ということで、ありがたく頂戴しました。

その日も夜は世田谷パブリックシアターでアルバイト。
なので、それまで時間をつぶすことに。
とりあえず、昼ごはんを食べようと思ったのですが、グーリャと一緒にどこに行ったらいいのか、全くわからず。
だって、私が三軒茶屋で食事をするところと言ったら、立ち食いそばやとか、吉野家とかですから。
明らかに外国人の女の子と行くところじゃないですよね。
あ、でも、青山のほうの吉野家に入ったとき、お客が全員外国人でびっくりしたことがあるなあ。
いや、あれは例外だろう。

ということで、キャロットタワーの地下にある不二家レストランへ。
ファミレス系のほうが無難だろうと思ったから。
食事をしながら、二人でダラダラと会話。
僕が注文したカルボナーラが全然おいしくなくて、「こんなのだったら、僕が作ったカルボナーラのほうが100倍おいしい」と言ったら、グーリャ「え~、すごいね~。今度、作って~」
僕「うん、いいよ。今度、作ってあげる」
グーリャ「『今度』っていつ?」
いつものように、話が早いなあ。
僕「近いうちにうちに招待するよ」
グーリャ「え~、ほんと~? ありがと」

アルバイトの出勤時間、17時近くにグーリャとはさようなら。
でも、アルバイトに入ってみると、その日は夜の公演が全くなかったので、30分後には開放されてしまった。
こんなことなら、グーリャをちょっと待たせておいて、また会えばよかった・・・


ここから先は追記です。

そのときぐらいから、少しずつ彼女を意識するようになっていて、いつ電話しようかとか、一緒にどこに行こうかなどと考えるようになっていたのです。
彼女は携帯電話を持っていなかったので、連絡がとりにくかったんですよね。
なので、自宅の電話にかけるしかないのですが、両親は私の存在すら知らないらしく、もし両親のうちのどちらかが電話に出たら、何と言ったらいいかわからない状態。
土日は家族全員がうちにいるため、電話はNG。
平日の昼はうちにいるのは彼女だけなので、気楽に電話ができました。

でも、よく僕の招待を受けてくれたなあ。
例えばベラルーシでは、一人暮らしの男が「ご飯、食べにおいで」と女の子を誘っても、そう簡単にはOKしないんですよ。
というのは、「この人は下心があるに違いない」と思うらしく、ただ単に「一緒に食事を」と思っているだけでも、すごく勘ぐられることが多いんです。

グーリャに対しては、ただ単に「一緒にご飯を食べよう」という意識でした。
僕は料理がすごく好きなので、クラスメイトや友達を呼んで、一緒に晩ご飯を食べるのは普通のことだったのです。
グーリャは「すごい楽しみ! 絶対行くから」と本当に楽しそうな声で言っていました。

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