はぐれミーシャ純情派 第四話 スパニッシュオムレツ in 世田谷

日曜日に行ったウズベキスタン物産展。
かなりおもしろかったけど、もっと印象に残ったのはグーリャとの食事。
僕にとっては、初めてできたロシア語ネイティブの知り合い。
ロシア語で話すのって、こんなに面白かったんだ。
それまでは文法ばっかりやってて、会話するのが怖かったんだけど、これでちょっと自信がついた、かな。

数日後、グーリャから電話。
「こんばんわ~。げんき~?」
まあ、元気だけど。
「いつ料理、作ってくれるの~?」
そうだ。
日曜日、昼ごはんを食べたとき「今度、料理作ってあげるよ」って言ったんだった。

僕「いつでもいいんだけど、ちょっと忙しいんだよね」
グーリャ「なんで~? なんで忙しいの?」
僕「翻訳の仕事がたまってるんだよね。それがすごく難しい内容で」
グーリャ「じゃあ、手伝ってあげる。どこでやる?」
あのー、まだOKしてないんですけど・・・

僕「えー!? でも、悪いよ」
グーリャ「何が悪いの~? 二人でやったほうが早く終わるでしょ。終わったら、遊びに行けるでしょ」
そんなわけで、グーリャがうちに来ることになったのです。

彼女が来ることになったのは二日後の昼。
僕は三軒茶屋のバス停まで彼女を迎えに。
10分ほど遅れて、グーリャ到着。
「こんにちは~。げんき~?」
それにしても、我々、かなり目立ってる。
だって、グーリャは結構かわいいからねえ。
彼女はお母さんがロシア人で、お父さんがウズベク人。
西洋人の顔なんだけど、ウズベク人のような東洋っぽい感じも残っていて。
それにまだ18歳。
18歳のきれいな外国人と26歳の風采の上がらない日本人じゃあ、目立つのも無理はないか。

歩いて東急世田谷線の駅へ。
世田谷線は路面電車のような趣を残した風情のある電車。
僕は大好き。
そんなレトロな電車にゆられて、世田谷駅へ。
そこから、僕が住んでいる豪徳寺のアパートへ。
二人でいると、みんな見るから、僕も思わず背筋を伸ばしちゃう。
歩きながら、僕は「僕の部屋はものすごく汚いから、今のうちに謝っておくよ」と言うと、「全然、大丈夫ね」。

程なくして、アパートに到着。
一応掃除したんだけど、うちはCDや本があふれていて、片付けようもない。
万年床の布団は片付けたけど、部屋には古典楽器のスピネット(チェンバロの小型版みたいなもの)があったりで、とても人を招待できるような部屋じゃない。
でも、グーリャは「CDとか本がたくさんあってすごいね~!」と大喜び。

自分の部屋に外国人を入れたのは初めて。
何か不思議な感じ。

早速、翻訳開始。
ガラスや光ファイバーの特許のテキストをロシア語から日本語に訳す仕事。
これが本当に難しい。
専門用語も満載だし、文法的にもぐちゃぐちゃ。
なんせ、2ページが一つの文だったりするんだから。
どこまで進んでも、文が終わらない。

グーリャと二人で翻訳をすると、やっぱりスピードが違う。
例えば、ガラスを曲げるための機械についての文章だと、彼女が「ここにローラーがあって、そこから溶けたガラスが出てきて・・・」と説明してくれたのを、二人で絵を描きながら考えるので、イメージがしやすい。
いつもよりも速いスピードで翻訳は進んだ

でも、その翻訳の仕事はかなり量があって、その日だけではとても終わらない。
すると、グーリャが「じゃあ、次はいつにする~?」
僕「でも、いいの? 面白くないでしょ?」
グーリャ「ううん、そんなことないね。すごくおもしろいね」
なので、三日後にまた翻訳をする約束になった。

さて、肝心の夕食。
その日のメニューは「スパニッシュオムレツ」
フライパンの形そのままに焼き上げたジャガイモ入りのオムレツ。
中には玉ねぎのみじん切りとベーコンも入っていて、これがなかなか美味。
ケチャップは使いたくないから、ちゃんとトマトソースを作ったりして。

グーリャは「おいしい~!」を連発して、パクパクとよく食べる。
作った僕としても、見ていて気持ちがいい。
食べるのを終わったときには、「ちょっと食べ過ぎて、お腹がきつい」と言って苦しんでいた。

それから僕は三軒茶屋のバス停までグーリャを送って、その日は「さようなら~」。

早くまた会いたい。
その願いだけが心を満たしていく。
その単純な心の動きを「恋」と名づけることができなかったのは、僕が極端に鈍感なせいだったのかもしれない・・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?