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横浜F・マリノスvsマンチェスター・シティ【20230723観戦メモ】

2023年7月23日、19時1分。

国立競技場のセンターサークルで蹴られたボールは、その後2時間にわたって、6万人の観衆を熱狂させた。

2023-24シーズンのUEFAチャンピオンズリーグなど、主要タイトルを次々と獲得したマンチェスター・シティ。対するは、2023シーズンの明治安田生命J1リーグを制した横浜F・マリノス。

この夏続々と来日する欧州ビッグクラブツアーの中でも、個人的に本命としていた試合だった。この試合は、この先マリノスの行く先を左右することになる――そう期待し、そう信じて、この試合だけは何としてもこの目で観たかった。全身で、この日の試合を体感したかったのだ。


1458日後の“第2話”

この日のシティ戦にこだわった理由。それは、4年前の夏に遡る。

2019年7月27日。横浜・日産スタジアムで、マリノスはシティと対戦した。当時のシティは、コパ・アメリカの影響で南米系の一部選手を欠いていたものの、主力メンバーの多くが来日したことで話題になった。

あの頃のマリノスは、まさに発展途上。アンジェ・ポステコグルー監督の指揮下、チームのスタイルを転換し、『アタッキングフットボール』の大義を掲げていた頃である。一時は降格の危険性もあった2018シーズンを経て、リーグ戦で上位につけるなど、着実に前進していた。

が、その前進に「待った」をかけたのはシティだった。今やすっかり定着した『ポジショナルプレー』に、選手一人ひとりの精密な技術やアスリート能力が加わり、マリノスに試合の主導権を渡さなかった。

しかし、マリノスは何もできなかったわけではない。1点ビハインドで迎えた前半23分、当時チーム内で徐々に頭角を現し始めていたMF遠藤渓太が一矢報いたのだ。たとえ一瞬でも「いけるぞ!勝てるかもしれない!」と思えたように、2019年7月のシティ戦では、トリコロールの大きなポテンシャルが見られた。そして、その後の2019シーズンのJ1リーグ優勝に少なからず影響したのではないかと思っている。

あれから、実に1458日。マリノスはリーグタイトルを2つ獲得し、右袖に金色のバッジを着け、シティとの“第2話”を演じることとなった。

試合がいかに素晴らしかったかを、ここに詳しく綴るつもりはない。マリノスは4年分の成長と進化、そしてさらなる可能性を垣間見せ、シティはそれを堂々とねじ伏せてきた。やはり試合の主導権を握ることはできなかったが、2点を先制した衝撃は、6万1618人の胸中に刻まれたことだろう。

それよりも、ここに残しておきたいのは、当日の過ごし方と、国立競技場を包んでいたムードだ。

非日常、そして移りゆく日常

スカイブルーのユニフォームを着る人は4年前よりも多く、そしてティーンや大学生がかなり増えていた。そのためか、シティファン――“シティズン”ではなく、あえてこう呼ぶことにする――からは、Jリーグクラブのサポーターにとってはやや珍しい、カジュアルな雰囲気を感じた。

グッズショップは長蛇の列を成し、フードやドリンク売り場にも人だかり。そんな中、わたしは国立競技場から程近いお店『DEENEY'S』でハンバーガーをテイクアウトした。聞けば、この日はこの場所での最終営業日なのだそう。国立恒例のお店は、これから『ホープ軒』だけになってしまうのだろうか。

さて、国立競技場付近の様子に話を戻そう。あれこれしているうちにキックオフまでの時間が意外となくなっていたので、外苑門から代々木門付近を通って、千駄ヶ谷門のほうへ抜けていくことにした。すると、途中ガラス張りになっていた辺りに、マリノスとシティのエンブレムがデカデカと貼られており、ここで記念撮影がしたいと、人だかりができていた。

人だかりが多かったのはシティのほう。そして、そこにいたのも、やはり年齢層が若めな人々。ここ最近、マリノスのホームゲームに来る人も若い人々が増えているが、それを凌駕するほどの多さを感じた。そしてふと、シティ・フットボール・グループ(CFG)が参入する以前からのシティファンは、現在のファンベースに何を想っているのか気になった。時代とは、常に移りゆくものなのだろうか。

そんなことを考えていたら、千駄ヶ谷門の入場口にたどり着いた。チケットチェックはハンディ端末のバーコード読み取りで、備え付けの回転バー付き改札はこの日もただバーを回すだけ。本来の機能が使われているのを、まだ見たことがない。

エスカレーターで3層部分まで上がり、そこそこ幅のあるコンコースを歩いて、着席した場所からの眺めは壮観だった。まばらに空いていた席も、時間を追うごとに埋まっていって、キックオフの瞬間にはまさに超満員。そんな中で聞こえてきた、いつものマリノスゴール裏チャントには、国立という非日常空間において“日常”を感じさせる、何とも不思議な感覚に陥った。

「この相手に勝ちたい」と思う心境

さすがに6万人も入っていると、試合中のムードも素晴らしいものになる。見た目にド派手なフィジカルコンタクトから、わずか数センチ差のプレーまで、まさしく一挙手一投足に反応するスタンド席。気づけば自分もその一部になっていた。

こう言ってはなんだが、普段の公式戦以上に「勝ちたい」と思っていたかもしれない。この試合に勝ってもリーグ戦の勝ち点はもらえないし、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)やクラブワールドカップに出場できるわけでもない。それでも「勝ちたい」と思っていた。このマンチェスター・シティに勝てれば、必ず世界が見えてくる。本気でそう思っていた。

こういう感情になることは、しばしばある。そして、そのどれもが決まって大舞台だ。この大海原を越えられれば、その先に見えるものが必ずある――直感的になればなるほど、この口から自然と気持ちがあふれ出ていく。年月を重ね、多少は落ち着いて観られるようになったけれど、この感情の高ぶりは今でも変わらないし、この感覚を思い出すのが楽しみになってきている。

とにかく、わたしにとってはそれほど大きな価値のある試合だった。ピッチ上の選手たちがどう感じていたかは分からないが、いつも以上に躍動している選手がほとんどだったように思う。サッカーとは不思議なもので、相手に引きずり込まれることもあれば、引き上げられることもある。この試合は後者だった。そして、わたしの確信めいたものの正体は、きっとこれだったんだろう。

夢と、その先

選手たちは夢を見せてくれた。シティ相手に2点を先制し、追いつかれ、やがて2点引き離されたものの、カウンター攻撃に舵を切ってから、気迫で1点をもぎ取った。あと1点。あと1点取って同点に追いつければ、残り時間を考えても、勝てるチャンスは十分ある。

相手は前後半でメンバーをごっそりと代えていたが、最早そんなことは関係なかった。この日、国立のグラウンドに立ったマリノスの選手たちが、この90分間を勝ち取ることに何よりも意義があると、心の底から思っていた。そして、そこから遠ざからず、まだ近い距離を保てていることに、何よりワクワクしていた。

そして、そんな夢のような時間は終わりを迎えた。

まだまだ、世界との距離は存在していた。けれど、この距離は必ず埋められるものだと感じた。

思えば、4年前の対戦でも似たようなことを感じていた。しかし、今回はあの時よりもずっとリアルに、ずっと鮮明にビジョンを描くことができた。アジアの強豪たちを破り、世界の舞台でビッグクラブと対戦し、横浜のクラブとして存在感を示す未来。数十年先ではなく、数年先にそんな未来がきっと待っている。そんなビジョンを、頭の中に一瞬見ることができた。

そんなクラブになった暁には、この日の国立のような雰囲気が、毎週のように横浜で観られるかもしれない。そんな来たる日のために、また明日からも前に、高みに視線を向けていこう。

そんなことを考えていたら、いつしかベッドの上にたどり着いていた。

おわりに

…ここまで書き殴っただけの文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。どうにもこうにも、あの日のことを文章として組み立てるのがうまくいかず、「それなら思ったことをバーッと書いちゃえ」と思い、このような形になりました。

試合が終わって帰宅して、朝起きたら学校や職場に行って、この時間になってしまえば、昨日あの瞬間に感じていたことというのは、もう80%ぐらいは消えちゃってるだろうと。

でも、それっていちいち綺麗な言葉にしようとするから(そして、そのせいで筆が止まるから)なので、この際だからいっそ書き殴ってしまおうと、そう思ったわけです。得てしてこういう文章のほうが、後々思い出すのにいいフックになったりもしますしね。

ということで、また気が向いたらこういうの書きます!それでは!

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