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  3-⑲ 幻夜

〝翔馬君おめでとう!やったね!〟

 すみれは、友人達と別れてからLINEを送った。すき焼きのスタンプを添えて。
 そして、ホテルから歩いて5分程の場所にある大型スーパーで食材の買い出しをした。メインのすき焼き用の近江牛をこれでもかと。
 食材をトランクに積み込み、自宅マンションに到着したのは午後16時半、ようやく太陽が沈む気配を見せていた。

 ベランダからは、たくさんの親子連れが湖面に面する公園で憩いのひとときを過ごす様子が見て取れる。遠くには遊覧船ビアンカの姿も確認できた。
 天気の良い日曜の、いつもの景色だった。

「さて、そろそろ始めようかな!」
すみれは気合を入れてキッチンへ向かった。

 確かに存在している、小さな鼓動を繰り返す、その命を感じながら。


〝キンコン♪〟
稲荷寿司が完成し、すき焼き用の野菜の下拵えを終えた頃、すみれのスマホがLINEの着信を知らせた。

〝ありがとう!近江牛のすき焼きよろしく🤭あと、アップルパイが食べたいんだけど、りんごあったかな?〟すみれは思わず微笑んだ。

 ちょうど彼女も食べたいと思っていたのだった。無性にパイナップルやりんご
、酸っぱいものが食べたい今日この頃•••理由はわかっている。

〝翔馬君、実はgoodな報告があるんだけどね!〟
〝ん?なんだろう?〟
〝う〜ん、やっぱり帰ってきたら話そうかな?〟
〝何だよそれ、あ、良いニュースがあるよ!〟
〝えっ?〟〝帰ってからのお楽しみですww〟

 すみれはりんごでスマホの画面が埋め尽くされるスタンプを送った。
〝あとどれぐらいで着く?〟
〝ん〜•••あと40分位かな?〟
〝了解!とりあえず他の準備はできたから、りんご買ってくるね🍎🍎〟
 幸いにも、徒歩5分の場所に高級フルーツ店があるから何て事は無いのだ。
 翔馬からは謝罪のポーズを示すスタンプが送られてきた。

〝じゃあ行ってくるね!〟
すみれは財布を持って玄関に向かった。


「もういいかい?」「まあだだよ〜!」
小さな子供達が公園でかくれんぼをしているのだろうか?薄暗くなった公園では
、花火をしている子供達も散見された。
 まるで、夏休みのようであった。

 フルーツ店で一通りフルーツをチェックして、りんごを4個、バナナを2房、そして本日入荷したという沖縄産の手でちぎれるスナックパインを1つ購入し、自宅へ戻る道を歩き出した。
 帰り際、
「すみれさんの退職祝いと、翔馬君の勝利記念だよ!」と、女性オーナーが高級苺をプレゼントしてくれた。真っ白な超高級苺に恐れを成したすみれは、丁重に辞退をしたものの、
「いつもお世話になってるんだから!」と言う彼女に押し切られ、結局持ち帰ることになってしまった。

〝翔馬君、喜ぶだろうなあ〜大好物だもんね!ちょっと練乳かけすぎだけど!〟

 子供達のかくれんぼの声は聞こえなかった。公園はあっという間に静寂に包まれたようであった。

 明日は学校があるもんね!そんな私達も明日の深夜でフランスへ出発だ。荷物は大丈夫だろうか?
 歩道を歩きながら、頭の中でキャリーケースの中身を一つ一つ確認していく。

〝帰ったらチェックしなきゃね!翔馬君の赤のパンツの枚数とかww〟すみれは思わずほくそ笑む。

 この横断歩道を渡れば、自宅マンションはもう目の前だ。
 すみれは横断歩道の信号を確認した。


 一歩一歩、自宅へと歩みを進める。

 その一歩一歩が、幸せへの道のはずであった。それなのに•••。



 彼女は、その信号を渡り切ることができなかった。


 まるで、スローモーションのように、大切な思い出が次々と、走馬灯のように

〝ああ、翔馬君••••••。〟
声なき声が、世界で1番大切な、愛する人へと流れてゆく。

 刹那•••激しい衝撃とともに、彼女の体が軽々と、宙へと投げ出されてしまった

 路上に散らばった、たくさんの幸せの証が、運命の残酷さを物語っていた。



 翔馬はハッと目を覚ました。
疲れからか、少し眠ったようであった。
「もう少しだってさ!」
口取り式に乗り込んだ親友が声をかけた

「ああ」
いつもすみれが買い物に行くフルーツ店の手前だろう•••どうやら渋滞が起こっているようだった。珍しいな•••この道は、平坦で見通しも良く、事故が起こった事はほとんどないはずだけど。
 規制線が張られているのか?車列は完全に停止してしまった。

〝何か事故があったみたい。もうすぐそこなんだけどね〟
 翔馬はすみれにLINEを送ったものの、返信はなかった。

 パトカーと救急車のサイレンが、否が応にも耳に届く。
 まるで、自身の内なる鼓動のように。

「先輩、時間がかかりそうです。歩いて行ってください。荷物は僕が持っていきますから」歩夢が言った。
 翔馬は頷いて、自宅への道を歩き出した。いや、数歩歩いたところで、突然翔馬は走り出した。

「おい!どうした⁉︎」
親友は助手席から飛び出し、その背を追った。


 自宅マンション前の横断歩道•••無惨にも散らばったフルーツに、翔馬は戦慄を覚えた。

 見覚えのあるロゴ入りの手提げ袋、スナックパイン、バナナ、苺のパック、そして、道路に転がり落ちているいくつものリンゴ•••翔馬は瞬時に何があったのかを悟った。

 世界はあまりにも残酷であった。

 彼の前に落ちていた悲しみの種•••深淵の闇が、彼を覗き込んでいた。


 翔馬はただただ、呆然と立ち尽くすのみであった。

あまりにも悲しい出来事が翔馬を暗闇へと•••



 PS•••大切な彼女を失ってしまった翔馬。これから一体どうするのか😢そんな翔馬が決心した事とは⁉︎次回配信は、12月13日水曜日午前8時です。大空翔馬の運命や如何に⁉︎それではまたお会いしましょう🙇🙏
          AKIRARIKA

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