翔べ君よ大空の彼方へ 4-㉔ 夢の中で
雨はますます大降りとなった。
〝何も円を結ぶ日に雨を降らさなくて
も•••神様も酷な事をしなさる•••〟
時刻は8時半を回った。
確か彼の出立は10時半、一番札所で円を結び、高野山金剛峯寺に戻らねばならない•••と。ん?一度?•••という事は、やはりもう一度遍路を行うという事か。それに、戻る、という表現も気になる。
彼は、何を背負って遍路を続けているのか、その笑顔の裏に一体何があったのだろうか•••貴加志は心を痛めながら、雨が止みますようにと窓の外を眺め、思いに耽っていた。
「パパ、そろそろ起こした方がいいよね
?」加奈は窓の外を眺めていた父に声を掛けた。鳩時計が9時を示していた。
「•••そうだね。加奈、様子を見てきてくれないか?」
加奈は首を縦に振り、リビングを後にした。
「お兄さんおはよう!もう9時やき!ご飯食べよ!」
加奈は襖越しに声を掛けた。
まだ寝ているのだろうか?もう少し寝させてあげた方がいいのかな?加奈はそっと襖を開けて再び声を掛けた。
「お兄さん、おはよう!朝だよ!」
〝ん?〟何か呟く声が加奈の耳に届いた
。加奈は部屋の中に入り、彼の側に近付いた。
顔を歪め、苦しそうな表情で何かを訴えている様子に驚き、加奈は彼の頬に手を当てた。
明らかに高熱を発していた。汗の量も尋常ではない。
加奈は驚き、急いで両親の元へと駆け出して行った。
「お父さん!お母さん!お兄さんが、ショーさんが凄い熱で苦しそうやき!病院連れて行かんと!」
両親はハッと息を呑み、急ぎ、階段を駆け上った。
尋常ではない高熱、とにかく水分を摂取させないとまずい。貴加志は由奈子に診療所に電話をするように、そして加奈にはクローゼットから下着とパジャマの替えを持ってくるように伝えた。
咳き込みながら、途切れ途切れに、彼の呟きが聞こえた。
「•••すいま•••せん」
「大丈夫!今、先生が来てくれるから!少しでも水分を摂りなさい!」
貴加志が体を抱きかかえ、彼の口に経口補水液をゆっくりと含ませる。
彼の身体が発する熱量が貴加志に乗り移るかのような高熱•••診療医が到着するまでの時間が永遠とも思われる程に長く感じた。
ビタミン剤の点滴の効果であろう•••息遣いが安定し、穏やかな表情で彼は眠っていた。
「疲れが、出たんでしょうね。通し遍路を2回続けて行うとは。それなりの事情があるにしても、並外れた精神力、体力がないとできるものではない。無事に終わって、張り詰めていた気持ちが解けてしまったのかもしれません。けれど、2日もすれば回復しますから、見守ってあげて下さい。念の為に、また明日も来ますから」
診療医の言葉に、3人はホッと胸を撫で下ろした。
夢の中でも遍路を続けているのであろうか••• 3人は時折何事かを呟いている彼の寝顔をじっと見つめていた。
PS•••いつもお目に留めていただき、心より感謝いたします🙇🥺次回配信は
、3月9日土曜日午前8時です。翔馬が夢から目覚め•••?それではまた9日にお会いしましょう🙏🙏
AKIRARIKA
まだまだ続くよ馬旅が🤭🤭
AKIRARIKA
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