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翔べ君よ大空の彼方へ     1-㉔ 金色の光

 陽子がホカホカの焼き芋をテーブルに広げた。

「わあ〜お芋さん!ショーマ、ママの焼き芋めっちゃ美味しいの!食べて!」
 焼き芋は翔馬の大好物である。
早速頂く事にしようと手に取り、半分に割ってみた。
 ありゃ?真っ黒な焼き芋だ。
ねっとりとした蜜が溢れ出す。あ・・・美味しい!
「美味しい?」エリーが尋ねた。
「うん!甘くてすっごく美味しい!でもね・・・昔、こんな焼き芋食べた事ある様な気がするんだけど・・・」隣で陽子がにっこりと微笑んでいる。

 翔馬は思い出した。
施設の近くの農業試験場で年に2、3回、農園での収穫を手伝いに行った時、必ず最後に1人2本の焼き芋をもらった事。いつも翼と一緒に行った事、お姉さんが翼と翔馬にはいつも3本ずつ手渡してくれた事・・・。

「翔馬君、私、翔馬君の事昔から知ってるのよ!」
「え?僕の事を?」
エリー以外はこの話を既に知っているのだろう、皆大いに頷いている。
「うん。翔馬君ともう1人の男の子に、いつも3本ずつ焼き芋をあげたでしょう?いつもたくさん働いていたからね」
「え?」翔馬は頭が混乱している。
え~と…フランスにいる陽子さんが僕と翼に焼き芋を3本あげた・・・。陽子さん、陽子・・・。
「あ!」
「思い出した?」
「え~⁉あの農業試験場のお姉さん⁉」
「何?何?教えてよ~!」
エリーが席を立って陽子に詰め寄っている。陽子がエリーに詳しく事情を話すと、真ん丸の瞳を更に大きくして驚き、そして言った。

「21世紀最大のニュースだわ、パパ!」

 翼が見た夢の事を話すと、皆腹を抱えて大笑いし、既に父親になった事、3ショットの写真を見せると、ロッシも、バルザも、ローザも、ウッドも、もちろん陽子も、
「それは大変めでたい!何か贈りましょう!」と、緊急会議を始めてしまった。異国でこんなに話題になっている翼は、夏の北海道で今頃風邪を引いて寝込んでいるのではないだろうか?

 取り残されたエリーは翔馬に耳打ちした。「?」
にっこりと微笑んだ少女に翔馬は手を引かれ、リビングを出て玄関に向かった。

「White horse?」  


 8月17日正午、翔馬の姿はシャルルドゴール国際空港の搭乗カウンター前にあった。

 たくさんのことを学んだ。
騎手としての心構え、命の大切さ、そして、人々の温かさを。
 フランスの風を、匂いを感じた。熱気を、鼓動を感じた。二度と忘れる事のないであろう、貴重な経験・・・。

「翔馬君、フランスに来てくれてありがとう。また、来年会いましょう」
 森永師。

「来年、ウチの牧場の期待馬にぜひ乗ってください!」バルザ。

「来年の夏もたくさん料理を作ってお待ちしてますわ。ショーマの大好きなタルトタタンもね」ローザ。

「エリーにたくさんの思い出を与えてくれてありがとう。また来年フランスに来てください」ウッド。

「翔馬君、怪我には気をつけてね。年末、北海道に帰った時に、両親と翼くんによろしく伝えておいてね」陽子。

「いつも君のことを見守っているよ。幸運を!」ロッシ。


 終わりは始まりのために訪れるもの。
別れは再会のために、そして人として成長するために不可欠なもの。
 翔馬は一人一人と挨拶を交わした。

 少女は泣いていた。
翔馬は少女の前に屈んで、彼女の髪の毛を優しく撫でながら言った。

「来年また来るよ!フェニックス、乗せてくれるんだろ?」エリーは顔を上げ涙を拭き、精一杯の笑顔を作った。

「うん!ショーマ以外は絶対乗せないもん」ロッシが同意する。
「そりゃそうだ!あの馬は絶対に誰にも渡さん!それがたとえドバイの皇太子であってもだ!」
 ロッシの豪快な宣言に一同は笑いに包まれた。

「ショーマ、これあげる!」
エリーは翔馬に1通の封筒を渡した。
「手紙?」
「うん。写真も入ってるの!」
「ありがとう!じゃあ僕もエリーみたいに、部屋に飾ろうかな!」
エリーは顔を真っ赤にして翔馬に抱きついた。


 新なる旅立ちの刻が来た。
翔馬は立ち上がった。またの再会を誓って。

「皆さん、本当にありがとうございました。また来年、フランスに戻ることができるように頑張ります!」

 一行は、別れを惜しむかのように、それでも懸命に笑顔を振り絞り、彼を送り出した。
 彼は、背を向けて数歩歩みを進めた。
すると、突然、後光が差すかのように金色の光が彼を照らした。ロッシは目を瞠った。

 ああ・・・・・・やはり彼は・・・・・・。
騎手ならば、誰もが憧れて止まない、人馬一体の証・・・クラヴアシュドール(黄金のステッキ)、そして、羽をたたんだ黄金の翼が彼の背に・・・・・・。

 彼に栄光あれ。彼を守り給へ。
ロッシは、心から神に祈った。


 一筋のコントレイルが東の空に向かって延びて行く。
 彼らは地上から翔馬を見守った。その飛行機雲が大空と同化し、消えて無くなってしまうまで・・・。

「また来年・・・」エリーがそっと呟いた。

 見守る人達の輪が紡ぎ出す綾糸は、この先、彼にどのような紋様を浮かび上がらせて行くのだろうか・・・。

 翔馬は、遠ざかるパリの街並みを、思い出を見つめていた。

 いつまでも。いつまでも・・・・・・。

いつの日かまた会おう・・・。




 PS・・・第一章、全24話が終わりました。ここまでのお付き合い、心より感謝致します。皆様の心の中に少しでも、サラブレッドの息吹、鼓動、生命の力強さが伝わることができていれば幸いです。

 物語はまだまだ続きます。
私には夢があります。大好きだったお馬さんを天国に見送った時に決めた夢・・・。
《いつか必ず競馬小説を書く。そして、競争生活を終えたサラブレッドの支援をしたい!》

 その為に・・・第2章途中からは有料配信へと切り替えたいと思います。
 1ヶ月500円、毎週水曜日、および日曜日の午前8時に配信、月10回配信します。

 このような拙作ではありますが、もしお付き合いしていただける方がいらっしゃれば、これ以上ない幸いであります。

 7月中旬頃からの有料配信を予定しています。

 皆様方の日々が平安でありますように祈らせて頂き、末筆とさせて頂きます。

 お読み頂き、心より感謝致します。
本当にありがとうございました。

         AKIRARIKA


 この作品を通して、養老牧場への牧草寄付等の引退馬支援を行います。その為のサポートをしていただければ幸いです。この世界に生まれたる、すべてのサラブレッドの命を愛する皆様のサポートをお待ちしております🥹🙇