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鶴澤奏 特別インタビュー

バンクーバー在住のピアニスト鶴澤奏さんが、デビューCD「An die Musik - Kanade Tsurusawa Schubert Album」をソノリテからリリースします。中村香織さんによる美しいMVが完成しましたので、まずはこちらをご覧ください。

ディレクター/プロデューサーとして、こんな素敵な作品を皆さんにご紹介できることをとても幸せに感じています。

CDリリースを控え、鶴澤奏さんに、いま思うことを語ってもらいました。
(訊き手:ソノリテ 内藤 晃)

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コロナ禍での新たな出会い

- コロナ禍だからこそ生まれたCDです!

「まさに、引きこもり生活のなかオンラインで新しい交流が生まれ、内藤さんと知り合い、馬場さん(指揮者の馬場武蔵氏)と知り合ったわけで…。馬場さんの“ピエロ会”(シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」を皆で読譜する会から始まり、その後もさまざまな作品をzoomで一緒に読譜する会として続いている)は刺激的な学びにあふれていました」

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- 馬場さんも鶴澤さんも、僕にとって、このおかしくなってしまった時代を一緒に乗り越えたいと思った、大切な仲間です。そして、コロナが燻っているうちに一緒にCDを制作してしまおう…というプロジェクトをぶち上げ、鶴澤さんのシューベルトアルバムが誕生しました。

「毎週のようにzoomで熱い議論を交わしていたのに、実際にお会いできたのは録音の直前なんですよね(笑)」

- 1年近くしょっちゅう画面越しに会ってたから、まるで初対面な気はしなかったよ。演奏もYouTubeで聴いて大好きだったし。そもそもモイセイヴィッチやカッチェンが好きという話を聞いた時から、シンパシーがすごかったです。

「カッチェンのライヴ、教えてくれてありがとうございました!初めてのヤフオク!(笑)」

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↑内藤が勧めたカッチェン&コンヴィチュニーのライヴ盤(廃盤)
アンコールのモーツァルトが絶品

- そして、馬場さんにもレコーディング前のリハに立ち会ってもらえてよかったね!

「はじめて耳にする曲なのに、楽譜も見ずにあまりにも的確な提案をしてくれて…脱帽でした!」

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↑1年越しの初対面を果たしスイーツに興じる内藤と馬場(撮影:鶴澤)


カナダ留学の実り

- 鶴澤さんのこれまでの録音を聴かせてもらうと、カナダに行ってから劇的に変化したように思います。バンクーバーで師事しているリー・カムシン先生について教えてくれますか?

「まるで哲学者のような、偉大な芸術家で、音楽と人の営みは全て結びついているのだと言われます。たとえば、鍵盤へのタッチを絵筆の太さや強さに喩えられたり、作曲家が話した言語の「音」が持つ重さに着目されたり…、先生の話されることひとつひとつに深く考えさせられます。そしてなにより、敬虔とも言えるほどの、作曲家への献身的な姿勢をもって音楽に向き合っていらっしゃいます」

「リー先生に出会ってから、音楽で“自分を表現しよう”という気持ちがなくなりました。目の前にコンサートがなくても、ただひたむきに音楽と向き合い、作曲家と対話することに幸せを感じるようになりました」

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- 素敵ですね!そして、そのピュアで慎ましいところが、鶴澤さんの音楽の魅力だと感じています。このCDのタイトル「An die Musik」は、僕の提案ですが、シューベルトの名歌曲のタイトルと、鶴澤さんの音楽ポリシー(音楽に寄り添う)をかけたものです。


シューベルトへの特別な感覚

- デビューアルバムをオール・シューベルトで行こうと思ったのは?

「なぜか私の心に“引っかかる”作曲家なんです。さりげない中に人間の心の機微が詰まっていて。ほんのちょっとした転調の瞬間などで、胸が締め付けられそうになる。嬉しい会話のはずなのに一瞬のため息がよぎったり。それは本当に微妙なニュアンスの移ろいで、単に情景とか感情を表現するというよりも、演奏を通じて自分の素の心が露わになってしまう感覚があるんです」

- シューベルトのピュアな音楽が、弾いている自分の心を映し出してしまう、と。

「そうです。だから、心を研ぎ澄まして、音楽にゆだねる。そんな特別な感覚を追いかけてみたくて、シューベルトを選びました」

「CDに収録した初期のソナタ ホ長調 D459は、ほとんど演奏されることのない曲ですが、10代のシューベルトの等身大の心がそのまま表れ出ているような自然さ、ささやかさが大好きです。晩年の3つのピアノ曲 D946では、シューベルト特有のシンプルさがさらに深まり、単純な反復そのものがさまざまな表情を見せてくれます」(収録曲はこちら

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- レコーディングでは、僕の提案で、高木さん(タカギクラヴィア)のスタインウェイを持ち込みました。あの楽器との出会いで、演奏がまた変わったよね!

「本当に敏感な楽器で!なにか特別に音色をつくろうとしなくても、思い描くだけで自然に音になってくれました」

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- 12月13日(月)のリサイタル(19:00- 台東ミレニアムホール)では、そんな鶴澤さん相思相愛の楽器をふたたびホールに持ち込んで開催します。是非とも多くの方に聴いていただきたいですね!

「CDに収録したシューベルトの3つのピアノ曲 D946は、ブラームスが発掘して出版に携わった遺作です。今回のコンサートでは、この2人の作曲家にスポットを当て、シューベルトの3つのピアノ曲とブラームスの3つの間奏曲、シューベルトのレントラーとブラームスのワルツ(愛の歌)を対比させてみました。愛の歌で内藤さんと共演できるのも楽しみです!」

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鶴澤奏ピアノリサイタル「シューベルト、そしてブラームスへ」
12月13日(月)19:00開演 台東ミレニアムホール
一般2,500円 学生1,500円(当日500円増)
チケットのお申し込みはこちら

CDは先行ご予約も受け付けています。

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