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デザインアプローチという考え方

この内容は、2021年7月8日(木)に開催された、株式会社セミナーインフォ様が主催されるFINANCE FORUM「テクノロジーを駆使した顧客接点の構築」にて、発表した内容を抜粋して「デザインアプローチ」という考え方に関して焦点を当てまとめた内容です。

イベント公式のアフターレポートは、以下からご覧になることができます。


「デザインアプローチ」とは何か?

皆さんは、「デザイン」という言葉を聞いた時にどのようなものを想像されるでしょうか?Googleの画像検索で「デザイン」と入力してみるとこのような結果が返ってきます。


検索結果をみるとカラフルな色や特徴的な文字、グラフィックの画像が多く見られます。ここでは少し私がどのような意味合いで「デザイン」という言葉を使っているかについてご紹介いたします。

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私は、デザインとは人間が生まれながらにもつ本質的な営みであると考えています。こちらの図にあるように、様々な外部要因や内部要因から生み出された目的や意味に応じて新しい道具を生み出したり、すでに存在する道具を活用したりして、それを達成しようとする。この一通りの循環がデザインそのものの本質だと考えています [1][2][3]。

料理をするために火を使ったり、柔らかい足の裏を守りながら、長距離移動しても疲れないようにするために靴を履いたり、ある目的地に素早く移動するために車を使ったりと、私たち人間の活動は、試行錯誤とその歴史が持つ知恵の塊です。

そして、今回の話の中では「デザインアプローチ」という造語を勝手に使わせていただいております。デザインアプローチとは、先程ご紹介した「デザイン」という行為を意図的に事業活動全体において実践することを意味しています。これは、Nielsen Norman Groupが今年公開した「The 6 Levels of UX Maturity」という記事における「組織全体でUXに取り組む必要がある」[4]という大きな目標に対する行動の方向性として定めています。


「デザイン思考」と呼ばない理由

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ところで皆さんは「デザイン思考」という言葉をご存知でしょうか?もしご存知の方がいらっしゃる場合は、おそらく私が今話している内容は「デザイン思考」のことではないのか?と疑問に思われているかもしれません。

私は今回意図的にデザイン思考という言葉を利用しませんでした。理由としては、デザイン思考は、こちらのダブルダイアモンドモデルでも示されるように、「問題定義」と「問題解決」という2つのフェーズに区切られるある種の特別なプロセスや工程的なイメージが染み付いていると考えているからです。

今回ご紹介している「デザインアプローチ」とは、いわば事業における「デザイン」への取り組みの姿勢を示したものです。それはつまり、日々の業務の中で息をするようにそこに関わる全ての人によって取り組まれるべき活動です。工程としてデザインを捉えるのか、または、姿勢としてデザインを捉えるのかという着眼点に部分に大きな違いがあります。


工程としてのデザインとデザインアプローチ

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工程としてのデザインと、姿勢としてのデザインアプローチは、組織内で行われる事業活用のあり方に大きな違いがあります[5]。

工程やプロセスとしてのデザインにおいては、デザインは、その中の一工程を担う活動としてしか役割を果たしません。こちらのモデルはシステム開発のプロセスを簡略化したもので表現しておりますが、基本的にデザインは、要件定義の前段階の工程として存在するだけなのです。さらに、数十年ちょっとぐらい遡れば、デザインは、開発直前の「見た目」の部分だけを担う活動だった時代もありました[6]。

一方、デザインアプローチでは、全ての工程にデザインが活用されることを目指しています。細部を作り込んだり、ユーザーインタフェースを設計するといった具体的な制作の部分はもとより、リサーチ、要件定義、設計・開発、運用・改善の全ての段階において、幅広い意味における利用者の文脈を想像した活動を行なっていくこと期待しています。これは、各工程の中にデザイナーが参加することで実現する場合もあります。または、各工程における専門家ひとりひとりが真に利用者目線であるとはどういうことか、デザインとはどういう活動なのかを理解した上で活動することで、結果として全体の体験を向上させていくことを志向しているのです。


デザインアプローチのコアバリュー

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さて、ここまで、工程としてのデザインとデザインアプローチの違いについてご説明してきましたが、ここからは少しデザインアプローチについての解像度をあげていきたいと思っています。


デザインアプローチは大きく三つのコアバリュー、または、原則があります。その3つとは「ユーザーと対話すること」「正しいものを正しく作ること」「見て感じられるようにすること」です。

まず、「ユーザーと対話すること」とは、文字通り、会議室や定量的なデータだけを見るのではなく、実際にサービスを利用している人たちと直接対話をしてみようということです。私たちは一般的にこれをユーザーインタビューや観察などいう手法で説明しますが、要はユーザーはなぜ、どのように、どんなタイミングで、何を使って、どんなことを達成しようとしているのかについて、きちんと解像度をあげて、そこから得ることができる発見を利用者の体験に活かしていこうということです[7]。

次に「正しいものを正しくつくる」とは、デザインアプローチにおける試行錯誤、または、プロトタイピングの2つの方向性を示しています。デザインに取り組む際には、設定した問題に対しての解決策を探索していく可能性の幅を探る「正しいものをつくる」という段階と、もっとも効果がある解決策を見出した後に反復を繰り返すことでより洗練させていく「正しくつくる」という縦と横の両方への広がりを持っているのです。この両方がしっかり機能しなければ試行錯誤の結果、効果のある成果にたどり着くことはできません[8]。

最後が、「見て感じられるようにすること」で、これはつまり頭の中にあるものを可視化するということです。可視化の手法は、付箋でも、議事録でも、ホワイトボードでの落書きでも、スライドのポンチ絵でもぶっちゃけ構いません。個人、または、チームの頭の中にあるものを可視化し、お互いの共有理解を図ること、想像している未来を見えるようにすることができるということが、デザインアプローチのコアバリューです[9]。


デザインアプローチのコアスキルマップ

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先ほど紹介したの3つのコアバリューを持ちながら、デザインアプローチにおける具体的な活動、または、コアスキルを定義したのがこちらのコアスキルマップになります。

これは5つの大きな取り組みからなり、もともとInVisionというアメリカのデジタルプロダクトデザインをサポートするツールを提供している企業が2019年に実施した企業におけるデザイン活用の習熟度に関する調査から得られた結果を元に作成したものです[10]。

InVisionにおける調査では、このモデルは前段で紹介したUX Maturity Modelのように階段の構造になっていたのですが、それをオランダのデザインストラテジストであるデニス・ハンベーカーさんがネットワーク型のモデルにしてまとめられていたものをさらに参考にしています。一応、上から下に行くに向かって組織におけるデザインアプローチの習熟度が、上がっていくような構造となっています[11]。

1つ目は「制作」です。これまで一般的に「デザイン」と言われた時に行われていた領域です。ワイヤーフレームや、デザインカンプ、紙芝居型のプロトタイプなどといったデザイナーが実際に作業し生み出すアウトプットが紐づきます。

2つ目は「共創」です。これは、ワークショップやサービスやプロダクトの関係者を巻き込んで、適切な問いを立てながら一緒にデザインの方向性についての議論をしたり、プロトタイピングしていく活動です。近年のデザインツールが、特性として複数人でのコラボレーションを前提として設計になっていることもこのスキルの重要性と呼応しているように感じます。

3つ目は「スケール可能なプロセス」です。これは、スクラムなどのフレームワークで利用されているデイリーや一定の期間が経過したプロジェクトにおける定期的な振り返り、各種フレームワークの整備など、デザインアプローチを組織全体でシステマチックに実践・浸透させていくために必要なツールキットを整備して導入する活動になります。

4つ目が、「データ駆動・仮説検証」というスキルです。これは、デザインアプローチが持つさまざまな検証手法、蓄積された顧客行動データを元にした仮説検証を行うアプローチです。今でもデザインの評価は、個人の主観的な意見をベースに行われる場面が多々あります。しかしながら、「データは21世紀における石油資源」とも言われる時代に、個人の感性だけで評価することには少し違和感を覚えます。デザインの品質に関する評価軸を設定し、実際のユーザーからのフィードバックや客観的データを元にした、仮説検証サイクルを回せる体制の構築と実践ができるている状態を目指していくことが求められています。

5つ目が、「ビジネス戦略」というもので、実践し続けることがもっとも難易度が高いスキルです。未来志向やビジョン志向と呼ばれる企業のこれまでの歴史を振り返り、未来に向けたどのような目標・パーパスを掲げ、そこから社会との関わり方や現在の行動を導きだし、事業として成立させていくということを目的としたスキルです。

この星形でお互いに相互作用的なモデルを選択したのには明確な理由があります。なぜならデザインアプローチにおいては、どのコアスキルから強化してもいいと考えているからです。また、デザイナー以外の方々もデザインを活用していくということは、「制作」以外のスキルにおいて既に高いスキルや経験を保有している可能性があり、「デザインだから」という理由で「制作」から始めなくてもいいということです。5つのうちいずれかのスキルから始めることで近接したスキルも次第に強化され、ネットワークのように強固なデザインアプローチの実践が組織内で確立していくと考えています。


デザインをアプローチとして捉える

デザインという営みを調べていく中で、デザインは私たちの日常の中で当たり前に存在しているとても素朴な活動であるということに気が付きました [12]。デザインは私たちと、私たちを含めた周囲の環境との最も自然な関わりかたとして捉えることができます。

「デザインアプローチ」という造語は、ビジネスや企業活動におけるあらゆる行為をデザインというフレームから捉え直してみようという試みです。この記事の中で紹介したコアバリューやコアスキルは、デザイナー発想の活動を列挙したものとなっています。一方でもしも今後、他の仕事を専門とする人々が、彼ら自身の活動をデザインというフレームから捉え直した時には、また別のものがコアバリューやコアスキルとして取り入れられるの可能性が大いにあると考えています。

最近少しずつですが、この記事で紹介した内容をチェックシート的に利用しながら、組織内におけるいわゆるデザインの活用度合いを評価してみる活動を始めてみています。ここで示している内容はあくまできっかけであり、企業活動においてデザインという営みを導入する入り口でしかありません。

しかしながら、「デザインをアプローチとして捉える」ことは、デザインをより多くの人にとって「手に届くもの」としてひらくことにつながると考えます。つまり、より多くの人がデザインの力を借りて、仕事に向き合い、これまでとは違った成果を達成することができるようになる可能性を秘めているということなのです。

このような考え方は、サービスデザインを通り越して、コミュニティのためのデザイン、社会のためのデザインといったそこに参加する全ての人々が、能動的な主体としてデザインを活用できるようになることを志向しています[13]。まだまだ知識も経験も道半ばですが、デザインをアプローチとして捉えることで、今後私自身が関わっていく人々と彼らの文脈に適した活用方法を見出していけると信じています。


公開後の発見

こちらの記事を書いた後で、関連するテーマの記事が他にも出てきましたがそれらと比較した時に今回の私の記事の中で紹介したアプローチはかなりボトムアップ型だと感じました。

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参考・引用文献

[1]
ハーバード・サイモン.
『システムの科学』稲葉元吉、吉原英樹、訳、パーソナルメディア、1999.

https://amzn.to/3l6rgNX

[2]
クラウス・クリペンドルフ.
『意味論的転回 — デザインの新しい基礎理論』小林昭世 他 訳、エスアイピーアクセス、2009.

https://amzn.to/3FazxZv

[3]
上平 崇仁.
『コ・デザインーデザインすることをみんなの手に』、NTT出版、2020.

https://amzn.to/3uAXYuc

[4]
   Kara Pernice, Sarah Gibbons, Kate Moran, & Kathryn Whitenton.,
“The 6 Levels of UX Maturity.”, Nielsen Norman Group, 2021. 

https://www.nngroup.com/articles/ux-maturity-model/

[5]
ピーター・メルホルツ (著), クリスティン・スキナー (著), 長谷川敦士 (監修), 安藤貴子 (翻訳)、『デザイン組織のつくりかた デザイン思考を駆動させるインハウスチームの構築&運用ガイド』、2017.
https://amzn.to/3uHzZJY

[6]
Alan Cooper,  Robert Reimann, David Cronin,  &Christopher Noessel. 
"About Face: The Essentials of Interaction Design.", 2014.

https://www.amazon.co.jp/About-Face-Essentials-Interaction-Design/dp/1118766571

[7]
Hugh Dubberly. 
"Conversations and models: Secrets to designing great products.", 2016.

http://presentations.dubberly.com/conversations_and_models.pdf

[8]
Nicolai Marquardt. 
“Sketching User Experiences: The Workshop”, Interaction Design Guest Lecture at LMU."

https://www.medien.ifi.lmu.de/lehre/ss14/id/Day%202%20Sketching%20IxD.pdf

[9]
Lucy Kimbell.
"Insights From Service Design Practice (2009)"

http://www.lucykimbell.com/stuff/EAD_kimbell_final.pdf

[10]
InVision.
"The New Design Frontier: The widest-ranging report to date examining design’s impact on business.”, Design Better.,  2019.

https://www.invisionapp.com/design-better/design-maturity-model/

[11]
Dennis Hambeukers. 
“The Design Maturity Model And The Five Disciplines of The Learning Organization.”, 2019.

https://medium.com/design-leadership-notebook/the-design-maturity-model-and-the-five-disciplines-of-the-learning-organization-20220faedfb3

[12]
本村章.
デザインという営みの本質を探る2

https://note.com/akiramotomura/n/nb8fbef9c1437

[13]
須永剛司.
デザインの知恵 情報デザインから社会のかたちづくりへ、2019.

https://amzn.to/30093tz






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