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THINK TWICE 20201220-1226

12月20日(日) M-1雑感

何が正統か邪道か語れるほど、演芸の歴史に通じるわけでもないのに、日本でいちばん有名な漫才の大会で優勝した人たちに対して「あれは漫才じゃない」なんてケチつける風潮……いい加減、聞き飽きたな。

これが芸人のあいだから上がってる声だったり、100,000歩譲って「〇〇は邪道だから負けた」といった具合に、敗者への批評として言ってるならまだわかるけどさ。そんなに古式ゆかしい漫才が見たいなら、わが町に伝わる伊予萬歳でも見てればいいよ。

それにしても───霜降りが優勝した2018年あたりから、審査員向けの漫才、決勝で高得点を取るためのお受験的な漫才が減って、目の前のお客さんを純粋に笑わせたコンビに点数が入る傾向が強くなったのはうれしいですね。自分の中の採点表(実際につけてはないですが)と、決勝3組に残るコンビがほぼ一致するので単純に感情移入できるし、視聴率も比例しているのも、ぼくのように感じる視聴者が多いからでしょうね。

マヂカルラブリーを初めて認識したのは───たぶん2014年11月の「いろはに千鳥」大宮よしもと特集。ちゃんと注目したのは2017年のあらびき団のスペシャルで披露した、ラッパーネタがきっかけ。天才肌なんだけど、やや不器用な野田、これと言って目立った個性のない村上。けっして平場のトークに強いコンビじゃないから、野爆やザコシのように《芸人に愛される芸人》という立ち位置で、まずはがんばってほしいです。あと、おいでやす小田さんも「座王」や「霜降りバラエティ」以外の番組で見かける機会が増えてほしいなあ。


12月21日(月) 思わぬ拾いもの

『富士日記』関連の改稿作業を粛々と進めています。手を入れている一番古い原稿が2年以上前に書いたものなので、今の自分の気分とズレているところを調整したり、以前はぼんやりしていて、掴まえきれてなかったところまで言葉が届いたり───直せば直すほど原稿はどんどん良くなっていくし、こういう作業は性に合ってて楽しいのです。

時間と手間が必要なのは執筆そのものより、気になった箇所を調べたり、関連書を読み込んだりすることです。たった数十文字のセンテンスのために、図書館で資料を何冊も漁り、古書店を探し回って、やっとのことで本を取り寄せる。それをまた数日かけて読みこんで、ようやく自信を持って書くことができる。満員電車で通勤するような苦労じゃないけれど、それなりに大変です。

でもそういうプロセスをとおしてまた新しい出会いがあったりするわけで、最近なら武田泰淳の盟友だった椎名麟三の奥さんの名前を調べているうち、ポプラ社が刊行している《百年文庫》シリーズの1冊『店』にたどりつき、ついでに1冊まるまる読みました。

《百年文庫》シリーズは全部で100巻、3編ずつテーマに沿って選ばれた短編小説が収録されていて、VOl.27にあたる『店』は、小さな店で働く若い労働者を主人公にした小説がまとめられています。作者は椎名麟三、石坂洋次郎、和田芳恵。いずれも読むのは初めてで、和田芳恵にいたっては名前も知りませんでした。

時代設定はすべて戦後の高度経済成長期でしたが、椎名麟三はやや暗い影があり、石坂と和田の小説はいかにも今井正あたりが監督しそうな、若者特有の不器用さ、愚直な青春模様をテーマに描いた良作で、読後はとても爽やかな気分でした。*1

*1 実際に石坂の小説「婦人靴」は、松山善三が脚色、音楽を服部良一が担当し、江利チエミ主演で1956年に映画化されているそうです。江利チエミが演じたヒロインは、けっして容姿端麗ではない、いや、むしろ愛嬌はあるけれど───という役なんだけど、よく引き受けたなあと思います。

《百年文庫》シリーズは文字組みもすっきりして読みやすく、まとめて何冊か取り組んでみたいなと思いましたが『富士日記』本を脱稿してからの話だなあ。

で、ほんとにどうでもいい話なんですけど、最初に入っていた石坂洋次郎の小説の主人公の名前が〈又吉〉といい、椎名麟三の作品の主役が〈若林〉。これで最後の和田芳恵の作品の主人公が〈綾部〉か〈春日〉か〈升野〉だったら面白かったんだけど、残念ながら〈仙一〉でした。*2

*2 ちなみに〈又吉〉の読み方も「またよし」ではなく「またきち」なんですけどね。そのへんはどうか大目に見てください。


12月22日(火) GET BACK IN LOVE

ぼくのTwitterのタイムラインでは50歳以上の音楽関係者のあいだで大騒ぎになっていたこの動画。

今春、こういうアナウンスがあり、9月に劇場公開されるはずだったのが、COVID-19の影響で編集作業が滞って延期に。来年8月27日(ぼくの妹の誕生日)に公開決定とのこと。

予告編を見た人たちの多数意見は「昔、俺らが見た映画『レット・イット・ビー』といえば、解散寸前でメンバー同士がバチバチに対立してて、向いている方向はバラバラ、いかにもバンド末期の暗澹たる空気……だったはずなのに、めちゃくちゃみんな楽しそうじゃん!」ってこと。

たまたま先々週、まるでこの事態を予言したかのような文章を書いたんですけどね。

同じ映像素材に悲しい音楽が付けば悲しく見え、楽しい音楽が付けばコメディに見える。発信者のスタンス如何でいくらでも見せ方は恣意的にコントロールできるのです。結局、送り手も受け手も訴えたいように訴えるし、見たいように見るし、感じたいように感じているにすぎません。

ピージャクは近作『彼らは生きていた』で、第一次世界大戦で撮影されたボロボロの白黒フィルムを、超鮮明なカラーに復元した男なので、これくらいのことは朝飯前なのでしょう。画質のすばらしさは言うまでもありません。それでもあまりに美しすぎて、ビートルズの4人、ビリー・プレストン、ジョージ・マーティン、小野洋子をすべてPJ作品でおなじみのアンディ・サーキスに、モーションキャプチャーで演じさせたのかと思ったくらいです。

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特別映像の口上の最後にピーターはこんなふうに語っています。

"We hope it will bring a smile to everyone’s faces and some much-needed joy at this difficult time"

「このきわめて困難な時代にみなさんがもっとも切望している喜び、あるいは笑顔が届けられるとうれしいな」

これが見られるように、来年までがんばって生きよう。


12月23日(水) 誰も傷つけない笑い

───と言っても、ぺこぱではなく、昨日Netflixで見た映画『ブックスマート』のこと。うちの地元では上映もなく、評判になっていることも知らず、バナーに惹かれて観たんだけど、すごく良かったです。

〈あらすじ〉成績優秀な優等生であることを誇っていた親友同士のエイミーとモリー。しかし、卒業前夜、遊んでばかりいたはずの同級生もハイレベルな進路を歩むことを知り自信喪失。二人は失った時間を取り戻すべく卒業パーティーに乗り込むことを決意する。果たして、二人を待ち受ける怒涛の一夜の冒険とは? そして、無事に卒業式を迎えることができるのだろうか!?

学園モノの定番設定といえば、冴えない見た目や発達しすぎた自我、オタク趣味などが原因でスクールカーストの底辺にいる主人公が、その頂点に君臨するマッチョなアメフト部の男ども、チアガール、理解のない教師や両親とぶつかりあうことで成長し、ご褒美に学校一の美少女をオトして、おしまい───みたいな感じですよね。

ところが『ブックスマート』は一見そういう映画なんだけど、さっき挙げたような連中が、みんなそれぞれ陰ではイケてないところを抱えていたり、単なるヤリマンのパーティガールに見えた女の子がちゃんと一流大学に合格していたり、ひとりずつよくよく観察すると、嫌なやつがひとりもいない───という世界観なんですよね。

じゃあ、権威の象徴たる教師や両親たちはどうかといえば、なんとなくみんな大人になりきれてない人たちばかりで、こちらも若者たちの仮想敵になりえない。じゃあ、この映画で主人公たちが戦ってるのは誰か?

あるシーンで、主人公のモーリーが自分を卑下するような言葉を吐いた時、もうひとりの主役のエイミーが彼女を思いっきりビンタして「あたしの心友の悪口は許さない!」って怒るんだけど、つまり、彼女たちが戦ってるのは昨日までの自分、なんですよね。この"敵"との戦いは誰しも経験があるからこそ、心に響くのだろうし、だからこそリアルで普遍的な作品になってるんじゃないかな。

あと、映画の中盤に出てくる水中撮影シーンは見事。主人公の恋愛に対する不安、揺れる想いを美しくも切なく表現していて、映画史に残る……とまで風呂敷を広げちゃうのは大袈裟かもしれませんが、少なくとも21世紀以降につくられた映画史には残る名ショットだと思いました。

いっぽうで作品全体に既視感もあって、そのひとつは『サウスパーク』だったんですが笑)もうひとつが『スーパーバッド 童貞ウォーズ』。じつはモーリー役を演じていたビーニー・フェルドスタインは『スーパーバッド〜』の主演をしていたジョナ・ヒルの実の妹。まったく予備知識なく観てたので、あとから調べて驚きました。そして監督はイーストウッドの『リチャード・ジュエル』で枕営業も辞さないイケイケの美人女性記者を演じていた女優のオリヴィア・ワイルド。で、ジョナ・ヒルは『リチャード・ジュエル』のプロデューサーのひとりでもある───既視感あって当然ですね。

ダイアナ監督の最新作はヒューレット・パッカードのウェブCM(と言っても11分もある)。主演は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で裸足のマンソンガールを演じていたマーガレット・クアリー。すでに長編映画が2本も決まっていて、そのうち1本はなんとマーヴェル作品らしいです。

また音楽監督はハンサムボーイ・モデリング・スクールのダン・ジ・オートメーター。先週おすすめした『ダッシュ&リリー』も彼がオリジナルスコアを担当してました。


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主役ふたりのクラスメートとして、NetflixのSFドラマ「スペースフォース」にも出てたダイアナ・シルヴァーズが♡

12月24日(木) Return To Sender

毎月MUSTAKIVIのnoteで連載している『Return To Sender』を本日更新。

ああ、今回こそダメだ! 石本さんとくっつかないかも! と一瞬あきらめかけましたが、ゴールはまたも指先が教えてくれました。


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