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THINK TWICE 20210523-0528

5月24日(火) DYLAN 80

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ボブ・ディランさんが本日24日で80歳を迎えました。日本でいうと傘寿ですね。おめでとうございます、パチパチパチ。

それにちなんで、80人のミュージシャンがそれぞれお気に入りのディランナンバーを挙げるという企画を"Stereogum"がやってました。

ちょっと名前に似たところがあるデヴェンドラ・バンハートとデヴィッド・バーンが、最新アルバム『Rough and Rowdy Ways』(2020年)収録の「Murder Most Foul」(16分以上の長大な曲)をふたりとも選んでかぶっていたり、スザンヌ・ヴェガ、ウェイン・コイン(フレイミング・リップス)、バズ・オズボーン(メルヴィンズ)、エリアス・ベンダー・ロネンフェルト(アイスエイジ)、ブルーズ・ホーンズビー……と、タイプがまったく違うミュージシャンたちが、同じ「It's Alright, Ma (I'm Only Bleeding)」を選曲してるのもかなり興味深かったです。

選曲結果がまとめられたSpotifyのプレイリストには全部で59曲。つまり、参加した約4分の1の選曲がかぶったことになりますね。ぼくもこういう仕事を頼まれることもありますが、自分が好きな曲を素直に選んでるとはいえ、誰かとかぶるのはちょっとだけ恥ずかしいです(にんげんだもの)。

で、このセレクトを精査する前に、自分ならこれ───という1曲を頭のなかで直感的にチョイスしたのですが、誰ともかぶってませんでした。

それは1966年のアルバム『ブロンド・オン・ブロンド』に入っている「5人の信者たち(Obviously 5 Believers)」です。

ニューオリンズ出身のメンフィス・ミニーという女性ブルースマンが、1941年に発表した「Me And My Chauffeur Blues」を下敷きにした曲と言われていて、"AREA CODE 615" *1 の中心メンバーだったドラムスのケネス・バトリー、同じくハーモニカのケニー・モス、リードギターはザ・バンドのロビー・ロバートソン、オルガンはアル・クーパー……といった面々がバックを担当。感電したのかな? と思うくらいテンションの高いロビーのギターがとにかく最高。歌詞はどれだけ読みこんでもまったく意味がわからないけれど、ロックンロールだからね。そこがいいんじゃない!

*1 ディラン、ニール・ヤング、エルヴィスらのレコーディングを支えたナッシュビルのセッションミュージシャンによって結成されたバンド。2枚出ているアルバムはどちらもインストが中心で、ブレイクビーツやサンプリングネタの宝庫として、特にヒップホップ界隈で人気が高いです。バンド名はナッシュビル周辺の市外局番にちなんでいます。

ディランの魅力は文学性の高い歌詞、歌声の魅力、言動、パフォーマンスなど多々ありますが、ぼくが特にすごいと思っているのは、50歳代半ばを過ぎてから出したアルバムもいちいち傑作だというところ。

もちろん初期作品に名作が多いのは言わずもがな、個人的に好きなアルバムとしてパッと頭に浮かぶのは、1997年の『Time Out Of Mind』、2006年の『Modern Times』、2012年の『Tempest』、ビッグバンドを従えた2017年の3枚組『Triplicate』と……近作ばかり。いずれも若作りせず、ありのままのディランをさらけ出すと同時に、心から楽しんで作っていることが伝わってくるような作品ばかりなんですよ。

とは言え、今からディランを聴くならなにかレコードを買うよりも、まず実際に動いてるディランを見るのが手っ取り早いでしょうね。例えばこの1975年のライブ映像なんかいいですよ。当時34歳の白塗りエレキディランは文句無しでかっこいいです。


5月27日(木) LESS IS MORE

昨日ウェブマガジン「ONTOMO」にアップされた、プリンス『パープル・レイン』の国内盤を、発売当時に担当していたレコードディレクター、佐藤淳さんのメモワールが面白かったです。

佐藤さんが初めてプリンスを目撃したという「ベストヒットUSA」。ようやくビデオデッキが我が家にもやってきた頃だったので、ぼくも毎週録画して、熱心に観ていました(松山では火曜深夜だったと記憶しています)。

ぼくが最初に観たのはこの「1999」(1983年)のMV。違和感の塊というか、中学生の頭には「?」が浮かぶことばかり。なにせプリンスはソロアーティストのはずなのに、本人よりも前に「おまえが歌うんかい!」とばかりに、妖艶な女性たち(リサ・コールマンとジル・ジョーンズ)→次にギタリスト(デズ・デッカーソン)がまず歌ってから、最後にようやくプリンスがすべり棒で降りてきてマイクの前に立つ《まどろっこしさ》。ここに衝撃を受けましたね(笑)。

もちろん佐藤さんの手記に書かれている「ビートに抱かれて」もびっくりしました。全裸、バスタブ、飛び立つ鳩という演出はもとより、この曲が映画『パープル・レイン』のサントラとしてリリースされたことをちゃんと理解してなかったので、MVの筋と脈絡なく挿入される映画からのフッテージに強烈な違和感がありました。当時はビデオカメラで撮影されているMVがほとんどだったし、そのなかに35mmフィルムの質感───しかも大映ドラマみたいなシーンがちょいちょい入ってくるのが不思議で、いったいこれはなんなんだ、と首を捻りながら観てました。*1

*1 これがリリースされた頃、中学校の遠足があって、その道すがらに同級生数人と《ボーイ・ジョージとプリンスのどっちがすごいか》という論争が勃発した思い出があります。プリンスのカウンターがMJやマドンナじゃなくて、ボーイ・ジョージだったというところがよい。

この「ビートに抱かれて」や、のちの「KISS」という大ヒットシングルに、ブラックミュージックには不可欠なファンキーなベースラインが入ってない───というか、そもそもベースが入ってないことは、プリンスのサウンド・メイキング術として、今ではよく語られているけれど、当時、そのことを指摘している人は皆無だったと思います。*2

*2 ドアーズとか、ホワイト・ストライプス、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンのようにベーシスト不在のバンドも数多いますが、ギターの低音弦でベースの代わりになるような音を出したり、あるいは打ち込みでベースラインを鳴らしていたりすることがほとんどで、プリンスが曲からベースを抜いてしまっていることとはアプローチが異なります。

プリンスのエンジニアを長年勤めたデヴィッド・Zによると「KISS」はもともと《ストレートなコード進行の曲をアコギで弾き語りしたデモ》が作られ、《ファルセットではなく、普通の音程で歌われていたこともあり、初めて耳にしたときはフォーク・ソングのように聴こえた》うえに《ファンキーさはどこにも感じられず、どう料理して良いのか戸惑った》と述懐しています。
https://www.snrec.jp/entry/column/archives/56120

プリンスはもともとジョニ・ミッチェルがフェイヴァリット・アーティストで、彼の音楽家としてのコアにはどこかそういうフォーキーさがあるような気がしています。

Joni Mitchel "Coyote"
https://www.youtube.com/watch?v=i4KBohkaHDE

ぼくはもちろんそのこと(=ベースの不在)を明確に意識しながら聴いていたわけではなかったけど、全体としてスカスカなのに必要な音が全部入っている感じがする(=LESS IS MORE)のはとても不思議で、自分がプリンスの音楽が好きなことと、クラフトワークを好きなことには通じるものがあるなあ───とは考えていました。中学生のぼく、なかなかやりますね。

ただ、まわりにそんな話が通じる友人がいたわけでもないし、Twitterで呟けるわけでもなかったから、15歳ではなく51歳の今、初めて言葉にしてみたし、今ではこんな話が通じる人が中学生の頃よりはちょっとだけ増えたので、人生捨てたもんじゃないなと思います。


5月29日(土) JUHLAの余談モア

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ムスタキビのnoteでの連載「Return To Sender」が公開されました。

Juhla(ユフラ)は石本さんが1998年にデザインしたシンプルな縦じま模様のテキスタイルです。

ぼくは主に縞の方向性について、あと黒と白の縞模様=鯨幕から考察していったのですが、黒川さんが書いた記事中で触れられている幅の比率や寸法の塩梅に関しては気になっていたので、石本さんの狙いが分かってとても面白かったです。

で、縦縞横縞について考えている時、囚人服が白黒の縞だということも、気になっていました。

ドラマや映画でよく見る現在の囚人服は、鮮やかなオレンジ色ですが(逃亡を防ぐ目的なんでしょうね)、もともとなぜ囚人服に縞模様が採用されていたのか、いろいろ調べてみたけれど、これといって明確な理由(It Mek)は見つけられませんでした。

とはいえ、古くから縞模様に違和感や嫌悪感を感じる人たちが多く、西洋文化の中で忌み嫌われていたのは事実だったようです。たとえば、1945年に公開されたアルフレッド・ヒッチコックの映画『白い恐怖』で、グレゴリー・ペックが演じた主人公は、白地の縞模様を見ると発作を起こす男でした。

ペックが発作を起こしたときに見る幻覚シーケンスは、あのサルバトール・ダリが協力したことでも有名な映画です。

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囚人服の縞模様が転じて、船乗りたちの着るシャツの柄になったり、あるいは水着も昔は太い横縞があしらわれていましたよね。おそらく縞柄に対する視覚的な違和感を利用して、泳いでいて流されたり、溺れたりした時に目立ちやすいので取り入れられたのでしょう。

先週書いたぼくのJuhla(ユフラ)に対する余談(上記リンク参照)でも考察したのですが、なんでこれが縦でこっちが横なのか───逆にしたらどうしてだめなんだろう? ってことは他にもたくさんあって、そのひとつが囚人たちや動物が閉じ込められる檻の向きです。

ほとんどの場合、檻って縦格子ですよね。住宅などに防犯上の理由で付けられる格子も縦。いったいなぜなんでしょう? 横向きの格子のほうが力をかけて曲げやすいから……とかそういう強度的な理由だけでは無いような気がしてるんですけど。詳しい方、誰か教えてください。

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