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夏の夕ぐれ #エッセイ

二十年ほど前、当時飼っていた犬を連れて、夕方、散歩をしていた。
いつものように村の周囲をぐるっとまわって、いつもの竹藪の手前まできた。

竹藪の前は農道を挟んで田んぼになっている。
農道のきわには大きめの石が置かれている。
そこに、小さなおばあさんが座っていた。

普通に洋服をきているが、その姿をみた瞬間、全身総毛だった。
このおばあさん知らない。村の人じゃない。
というか、なんだか違和感があって、たぶん

――生きている人じゃない――

恐怖で硬直して、足が進まない。
犬も、吠えもせずその場にうずくまっている。

どうしようどうしよう。
とうとう私、幽霊みちゃったよ。
一度くらいみてみたいと思ってたけど、とんでもなく怖い。

なんとか気合いで足を動かし、少しづつ後退ると、
うつむいていたおばあさんが、顔をあげ、私をゆっくりとみた。

そうして、口をひらいた。

「みよこ、け?」


犬をひっぱって、後をふりかえらず猛ダッシュして家に戻った。
そうして母に、一部始終を話した。
すると、

「ああ、竹藪のそばの、〇〇さんとこのおばあちゃんや。呆けてはるんや。
そこの娘さんと間違えてはんねんやろ」


なあんだ。
ついに幽霊みたと思ったのに、残念。
そんな夏の夕ぐれでした。