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NHK短歌への投稿作・2月号③

こちらも2月号①の続きです。

選者:川野里子さん 題詠「ケーキ」
キッチンにおむつがでんと座りをるおむつケーキの語感凄まじ
十月はかぼちゃのケーキだらけにて家に帰ればかぼちゃの煮付け
ホットケーキにバターとシロップ塗りたくり今日も元気に朝が始まる


母の母その母の母あつまりてさやさやと愛づ老衰の母  川野里子

母親の臨終の枕元に祖母、曾祖母、高祖母が集まって……巨大な雛壇のような「母の集まり」がそこにあるイメージ。どの人が欠けても自分はこの世に誕生しなかった。そう考えると母とはかけがえのない存在のはずでその臨終を「さやさやと愛づ」と詠めるのは幸せなことだと思う。


選者:山崎聡子さん 題詠「パートナーのこと」
ずんずんと夫婦で歌を詠む人ら傷つけあひて庇ひあひもする
二人しかいないチームでお互いにいいね付けない風通し良き
われと組む人みなわれより賢くてさっさと転職して行きましたとさ

水泳クラブに入れてもらえなかった日がバッジのように光る右胸  
山崎聡子

「水泳クラブ」は過去に叶わなかったことの一つの比喩ですが、過去に「傷ついたこと」があるから今があるのだと、過去も含めて自分を肯定したいように思います。

NHK短歌2月号/「傷」を抱きしめる

こういう事ってありますね。行きたい大学に落ちたから天職に就くことができた。恋人に振られたおかげで最愛の伴侶に巡りあえた。数限りない失敗が創作のタネになっている私、などなど。タネになればそれはもう、傷ではなく宝物です。


選者:吉川宏志さん 題詠「冬の星」
月夜見の恋人いいえ青星はただ偶然にそこにあるだけ
ああ寒い痛い恋しい終電のシリウスに手をかざしたりして

いじめるのが巧い男が上に行く組織とは何か背の冷えて去る  吉川宏志

もうねー、「よくぞ言って下さいました!」と吉川さんに感謝します。職場の上司がまさにこれなんです。おかしな指示にメンタル病んで休む人続出で(なぜか休みは簡単にくれる。そこだけは良し笑)、なるほど、どこの組織でもこんな奴が上に行くんですね。吉川さんはおそらく狡いのがお嫌いで、ために自分が去らねばならなかったのでしょうか。仕事自体は好きだから辞めるとか異動はしたくない。幸い2~3年でトップが変わる課なんでそこまで辛抱することにします。まあ、上司も自分の適正でない職に就かされてストレスかかってるのかもしれません。であれば一刻も早く任を解いてあげてほしい。


選者:岡野大嗣さん 題詠「着る/脱ぐ」
タートルはラウンドよりも独り好き自分をくるむ布多いから
書き上げて三日ほど寝かすバリバリと言葉の厚着を剥ぐ楽しさは
「ビスチェってブラジャーにしか見えんよな」何とも思われてない いいけど

あなたとはハウ・アー・ユーで始めたい百年ぶりに会ったとしても
岡野大嗣

人付き合いのコツに「どんなに腹が立っても、次に会う時は気持ちをまっさらに戻して初めて会う人のように振る舞いなさい」というのがあります。頭では理解できる。しかしこの通りに行動することの何と難しいことか笑。百年ぶりに会ったら双方雲の上にいて、もう遺恨消え去ってしまっているんで「ハウ・アー・ユー」がすんなり言えそう。十年ぶり、とかの方が自分にとっては実感こもってる感じがします。



夫婦で歌人。永田和宏&河野裕子ご夫妻が有名ですが、坂井修一さんと米川千嘉子さんがご夫婦であるのを十年前くらい前に初めて知りました。あまり表に出されないように思うのでぜんぜん知らなくて驚きました。同じ結社で、同じ理系で、歌も巧いしと、共通点が多いと惹かれあうものなんでしょうね。(※訂正します。米川さんは理系卒ではありません。「実験室のむかうの時間と夏樫のかたきひかりを曳きて来るなり」この歌から理系だと思いこんでいました。申し訳ありません。)

すると坂井さんの代表歌、

水族館アカリウムにタカアシガニを見てゐしはいつか誰かの子産む器

これは米川さんを詠んだものだったのか? 米川さんはこう詠まれてどう思われたのでしょうか。「ひどい、冷徹な男」ではなく「アラ、よく詠めているじゃない」くらいに思われたのではないでしょうか、米川さんなら何となく。すると一方、私の大好きな米川さんの代表歌、

氷河期より四国一花しこくいちげは残るといふほのかなり君がふるさとの白

この歌が好きすぎて四国の花といえば四国一花、とパッと浮かび、「ほのかなり君がふるさとの白」で胸がじぃんとなります。人を好きになるとき最初は嵐のような激情がきて、疑念とか嫉妬とかの雑念が落ち着くと、その人を思い浮かべただけで胸がじぃんと温かくなる。米川さんも四国と聞いただけで胸がじぃんときた時期があったのではないでしょうか。

で、この歌、坂井修一の故郷=愛媛県だからなんですね。だいぶ後になってこれ分かったとき「ああっ」と声上げてしまいましたよ。

さっき坂井さんを「ひどい、冷徹な男」と書きました。すみません。若かりし頃にタカアシガニの歌を読んだ時そう思ったんですけど、今読み返すに、作者のゆれる心情も感じる。「君はいま僕のものだけど、永久にそうであるかどうか……いつか僕の元を去って、別の誰かとの子を宿すのではないだろうか」という不安な気持ちが見え隠れする気もします。


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