たましい#エッセイ
頭がふたつある毛虫がおるねん、といって、幼なじみが虫かごを見せに来た。アオイラガの幼虫。近所の神社の桜の木から取ってきたものだ。
桜の葉っぱの上を、二センチほどの青くてずんぐりした毛虫が這っている。細かい毛の下に、わかりにくいが小さい顔がある。よくよくみるとこのアオイラガには両端に同じ顔がついている。そのため移動する際も右へいったり左へいったり、変てこな動きをしている。
だけど桜の葉っぱはちゃんと食べるのだ。
「フンはどこから出るんやろ?」
「さあ……」
ここまで大きくなったのだから排泄機能もあるはずだが、どうやって?
幼なじみと騒いでいると、祖母が虫かごに顔を近づけた。
「たましいや」
宮さんではたまに、顔のふたつある虫が生まれる。たましいといって、神さんの遣いやから殺したらあかんのや。宮さんというのはくだんの神社のことで、地元の年寄りはこう呼ぶ。
怖くなり、私と幼なじみは連れ立ってたましいを神社に戻しにいった。
たまに顔のふたつある虫が生まれるとの祖母の言葉がずっと残っていて、今でも神社に行くと葉っぱにつく毛虫をじっと見てしまう。