「前へ ~夢を追いかけて」 ラグビー花園大会のころに

私は、30数年間務めた公立中学を退職し、今は私立高校に勤務しています。今まで一緒に学び、悩んだり、進路に迷ったりした生徒の皆さんを勇気づけるため、自分が出会った様々な先輩方のことを紹介し、前に進む一助になればと、通信の端に文章を書きなぐってきました。つたない経験ですが、同じ教師の道を歩んでいる皆さんや、悩んでいる生徒さん方の参考になればと思い書き込もうと思います。そして、生徒の皆さん方に、「あきらめないで、前に進もう、前途は必ず開けるよ。」と勇気づけてほしいのです。そんな思いで、今まで通信に載せたものを掲載します。
 かつての通信には勝手ながら、私の尊敬する、星野富弘さんや須永博士さんの素敵な言葉と絵をあわせて紹介しました。著作の関係で絵はご紹介できませんが、ぜひ購入されて、勇気をもらえる言葉の数々もお読みになっていただきたいものだと思います。

◎前へ~夢追追いかけて ラグビー花園大会のころに
 私が持っているネクタイの一つに「ウエールズ&フランス ツアー2000ジャパンハイスクール」と書かれた、日本高校代表のネクタイカがあります。これはある生徒から送られたものです。
 今から20年以上昔、1999年11月23日。私は花園のキップをかけた福岡県代表を決める試合の応援のために、大分県から博多の杜競技場にいました。決勝は名門東福岡高校と古豪東筑高校の対戦でした。
 その3年前の事でした。朝いつものように昇降口で挨拶をしていると、H君が大きな体を縮めて、はにかみながら挨拶を返してくれました。H君は学年が違うので、昇降口で挨拶をする程度だったのですが、体が大きく控え目な生徒さんでした。学校内の生活を見ると、清掃もまじめに取り組んでいる様子でした。部活には所属しておらず、社会体育でラグビーをしているとのことでした。当時、中体連の時期に、急遽生徒を集め相撲競技に参加していましたので、無理やり声をかけ出場してもらいました。
 相撲は、彼の頑張りがほかの生徒にも伝わり、団体で九州大会に進むことができました。
 その後H君はラグビーで有名な県立高校へ進学するとのことで、受験勉強に取り組みました。当時の県立高校は部活での推薦制度がなく、学力試験の身でしたので、勉強が大変そうでした。
 そして、入試を迎えましてが、合格者の名簿に彼の名前がありませんでした。彼が進路をどうするのか気になっていましたが、どうしてもらぐび^がしたいとのことで、浪人することになりました。20年前でも浪人する珍しくなっていたので驚きましたが、体は大きいけれど、心優しい彼の夢が叶ってほしいと思いました。
 その年年末になり様子を聞くと、模擬試験の得点がどうしてもその高校の合格点にとどいてていないことがわかりました。心配しながら年を越しましたが、彼のことを気にかけてくださる先生方が、思い余って、東福岡の監督さんと連絡を取りました。東福岡ではすでに推薦入学試験は終わっていたのですが、その日の夕方、雪の中を監督が福岡からやってこられました。
 H君と会って、二言三言言葉を交わすと、監督はすぐに彼の何事かを見抜いたようで、「この子は、私が育てます。」と言い、そのまま福岡に連れた帰りました。それは、翌日が一般入試の日だったからです。
 それから3年後、H君がキャプテンを務める東福岡高校が決勝に進んだと、新聞の片隅に載っていいました。急遽2人の先生と応援に行くことに決めました。同級生は1年遅れて彼が福岡に行ったことはほとんど知りません。会場で私たちは必死に応援しました。
 「同級生は誰も知らないけれど、苦手なことにも頑張り、不安と戦いながら自分の道を進もうとした、今の君は素晴らしい。」そんな思いをこめて大きな声で声援を送りました。
 試合は手に汗握る接戦で、後半風上に立った東筑が終了3分前にトライを決め逆転。東福岡の花園への夢は消えました。終了後観客席にいる私たちを見つけ、グランドで深々と頭を下げる彼に、「今までよく頑張った。」と声をかけるしかありませんでした。
 全国大会に出場できませんでしたが、その後H君は英国遠征の高校日本代表に選ばれ、明治大学に進み、社会人のトップリーグで活躍し、今は後進の指導に当たっています。
 今年の年賀状には下の娘さんが小学校に入学すると記してありました。彼の進んだ明治大学ラグビー部が大切にする言葉に、「前へ」という言葉があります。彼が娘さん方にいつかこの言葉と、自分の歩んだ奇跡を話す時が来るのかなと思います。
 進路選択をする中高生のこの時期は、年末にかけて、家族で過ごす時間が多くあります。あなた方の保護者の皆さん方も、それぞれ貴重な体験をお持ちです。ぜひ、お話を伺って、あなたの進路の参考にしてほしいと思います。皆さん方が、より良き「前へ」進まれることをお祈りしています。

通信で紹介した須永博士さんの言葉
「この努力が 必ずみたされるときがある この熱意が 必ずつたわるときがある この苦しみが 必ずむくわれるときがある この私の生きていくことに まちがいはない この人生に必ず花ひらくときがある」

あきらじいじ


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