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「ママお腹痛いから今日学校行きたくない」と言われた時にほとんどの親がしてしまうNG対応

 産婦人科外来をやっていると、中学生の女の子がお母様に連れられてやってくることがたまにあります。頻回に腹痛を訴えて、学校を休むことが多いというのです。小学校高学年から高校生の女の子に多い主訴です。産婦人科というのはもちろん敷居が高いので、多くのケースでは私の外来にいらっしゃる前に小児科、内科、心療内科など多くの病院を受診されています。

 もちろん体に何らかの問題がある場合もあります。月経周期に伴った痛みであれば、月経困難症(生理痛)の可能性を考えます。現在は副作用を抑えた超低容量ピルが何種類も開発されており、多くの女性の生理痛を救っています。ご本人、お母様と相談の上、小学生でもピルをのんでもらうこともあります。子宮の形に異常があり、月経血が子宮の中に溜まってパンパンになってしまう病気を経験したこともあります。この子は手術で子宮の異常を治してあげる必要がありました。なので頻回に腹痛を訴える場合、特に月経周期と関係がありそうな場合、一度は産婦人科の先生の診察を受けることが大切だと思います。

 しかしこうした病院での治療が必要なケースは稀です。多くの腹痛を訴える女の子の原因は病気ではありません。では仮病なのかというとそれも違います。彼女たちは本当にお腹が痛くて、痛くて、苦しんでいるのです。お腹が痛いから今日は学校に行きたくないと言われた親御さまはパニックに陥ります。自分の出勤時間も迫っているので、何とか「問題を解決しよう」と必死になります。

 最もやってはいけない対応は「また仮病?!いつもいつもお腹が痛いっていい加減にしなさい。学校は行かなくちゃだめ。」とこどもが嘘をついていると決めつけることです。次にやってはいけない対応は「気のせいじゃない?学校行ったら治るよ」とこどもの訴えに取り合わないこと。このような対応をされる親御さまはさすがにあまりいないかもしれません。でも多くの親御さまが良かれと思ってやってしまうNG対応が「原因検索と解決のための提案」です。
 とりあえず市販の痛み止めを飲ませます。何かの病気に違いないと思って小児科を受診します。血液検査や超音波検査で異常はなく、便秘かもしれないですねと言われて整腸剤を出される。それでも良くならないと「精神的なもの」かもしれないと思って心療内科や児童精神科を受診することもあるかもしれません。そういえば夜更かしすることが多くなった。朝眠たいからお腹が痛いとか言って学校を休もうとするのかもしれない。夜早く眠れるように眠剤を出してもらおう、と考えるかもしれません。心療内科では「適応障害」や「不眠症」と診断されて薬を処方されることもあります。しかしおそらく問題が解決することはありません。最終的に親御さまが考えることは、「そうだそういえばこうなったのは生理がきてからだ」「生理も毎月決まった時に来てる訳ではなさそうだし、ホルモンバランスが崩れて体調が悪いのかな」と、最後の望みをかけて人目を忍び、産婦人科の扉を叩かれるわけです。よくよくお話を聞くと、必ずしも腹痛だけが学校に行けない原因ではありません。頭も痛いというし、昼間は眠い、夜は眠れない、いつもだるい、集中できないなど、たくさんの症状を訴えられます。それでも親御さまは、何か体に異常があるに違いないと思い込み、ホルモンの検査をしてほしいとか、薬を出してほしいとおっしゃいます。ちなみに中高生の女子が生理不順なのは異常なことではありません。卵巣機能が未発達なので、毎月決まった時期に排卵をすることができないのです。多くの場合は10代後半になる頃には規則的に生理が来るようになります。

 人間の体は本当に複雑にできています。「痛み」を感じるのは脳です。だから体を調べて「痛み」の原因を医学的に全て解明しようとするのはそもそも無理な話です。大人でも、腹痛を主訴に救急外来を受診される患者さんのうち、「これが原因です」と特定できるケースは実は半分もないと思います。血液検査、超音波検査、レントゲン、CT検査など行っても異常はないので原因はわからない、でも差し当たって手術を要するような状態ではない(虫垂炎や胆嚢炎、腹膜炎など急性腹症と言われるような状態ではない)ことを確認し、結局は「様子をみましょう」となることが多いのです。

 あくまで個人的な考えですが、私はこうした思春期女子の「腹痛」の原因の一つに実は「不安」があるのではないかと思っています。何か不安の原因となる特定の問題がある場合もあるかもしれません。特に原因はなく、漠然と社会と交わることへの不安、その根源となっている自分自身への自信のなさ、かもしれません。であれば解決の方法はだた一つ、痛みに対して親御さまが「共感」することです。どこがどんなふうに痛いのか真剣に聞きます。お腹に手を当てて場所を確認します。そうか、痛いんだね、と共感的な言葉がけをします。人間は共感されることで安心し、前に進むことができます。学校に行くか行かないか、塾に行くか行かないか、習い事に行くか行かないかは、一旦置いておきます。こどもが学校に行かないと困るのはこどもではなく親です。「お腹が痛い」と言われるのは親にとって都合が悪いので、早く解決したいのです。お願いだから治ったと言ってほしい、大丈夫と言って学校に行ってほしい。そこで、「薬飲む?」「暖めてみる?」「トイレ行ってみたら」など解決策を矢継ぎ早に提案することは共感からどんどん離れていきます。あなたが学校に行くか行かないかよりも、あなたの気持ち、痛み、笑顔がママにとってはるかに重要だというメッセージをはっきり伝えてあげてください。

私はまずよく話を聞いてから基本的な診察をします、体に異常がないことを確認したら、こう伝えます。「幸い大きな病気はないと思いますよ。よかったね。でも痛いよね。とっても痛いんだよね。そういう時はゆっくり休んでくださいね。だってお腹が痛いっていうことは、体が休息が必要って言ってるサインかもしれないでしょう。」親御さまにはあまり学校に行くことにこだわらなくてもいいのではとお伝えしています。そうするといつの間にかお腹が痛いとは言わなくなり、学校にも通えるようになる子が多いのです。

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