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酒好きのクリスマス・イブ 樹里奈の場合

2019年12月24日(火)in 東京
朝から雲がほとんどない晴天。
風が強くて、師走らしい肌寒さはあるが、日差しの温もりで少し暖かく感じる。

樹里奈はパソコンに向けていた視線を上げて、軽く周囲を見回してみた。
クリスマスバケーションをとっている社員も多く、不思議と年末の慌ただしさはあまり感じない。
街はクリスマス一色だが、樹里奈にとっては少し良いお酒を呑むくらいしかクリスマスは意識をしない。
自分へのご褒美プレゼントをするような余裕もないし、チキンやケーキも予約はしていない。
自分にとってはそれで十分だと思っている。

仕事が終わり、会社から駅へと向かう道でカップルらしき男女とすれ違う。
男性はクリスマスケーキかオードブルかピザかと思われる、大きめの袋を持っている。
女性は特徴のある紙袋を二つ持って、男性と楽しそうに話しながら歩いていった。

「お酒はいいの?」
「明日も仕事だし、あたし、そんなに呑めないからぁ」

コロコロっと可愛らしい笑い声で答えた女性は、会社の総務で人気者の女性社員と声が似ているなと思った。
確か、彼女は少しだけお酒は呑めると言ってた記憶があるが、彼女くらいの年代の人でお酒が呑める人は少なそうだ。

「ま、こんな時ほど1人で呑むのが一番だからねー」

そう独言て、樹里奈は帰る足を早めた。

家には日本酒しかストックがないので、今日はほんの少しだけ奮発して、フランチャコルタにしようかな。
それともプルセッコのハーフボトルにして、何かおつまみになる一品でも買おうかな。。。
電車の中でニュースサイトのトピックスを流し見しながら考えを巡らす。
そして仲良しの店員がいる酒屋へと向かった。

「こんばんはー」
「樹里奈さん!いらっしゃい!」
店の奥から、元気な声が聞こえた。

「あ、メリー・クリスマスイブ、ですね」

人懐こい笑顔がウリのアルバイトの立川くんが顔を見せてくれた。

「メリー・クリスマスイブ、だね。立川くん、プルセッコかフランチャコルタで冷えてるのありますか?」
「ちょっと待ってくださいね」

立川くんはレジ横の冷蔵スペースに向かうと、商品を選定し始めた。
樹里奈は他の商品を見ながらレジ近くまで足を進めると、立川くんがすでに3本ほどピックアップしてくれていた。

雑談を交えながら立川くんのおすすめコメントの内容から、プルセッコを1本買うことを決めた。

「立川くん、いつも美味しいお酒を選んでくれてありがとう。じゃ来年もよろしくね。良いお年を!」
「こちらこそ、ありがとうございました!良いお年を!」

立川くんが笑顔全開で手を振って見送ってくれるのを会釈で返し、少し気恥ずかしく感じながら店を後にして、近所のスーパーで1人鍋の材料を購入して自宅へと向かった。

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