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介護休暇のパイオニア

コロナの真っ最中
看護師C子は、介護休暇を取得した
コロナのクラスターが各部所で勃発して
えらい騒ぎの中
ぽつねんと、半年姿を消した

聞く中でだが、介護休暇は
うちの職場で初めてだと思う

彼女が介護休暇をとる
きっかけとなったのは

C子の母が亡くなり
父が一人暮らしとなってから
実家に行くと、前と同じ服を着て
よくない臭いがしていたらしいのだ

看護師なので、すぐにピンときたのだろう
それでも気づいたときには
認知症が相当すすんでおり
C子が休暇をとった半年後に、その父も他界した

それとは別の話になるが

C子は、どんな時も
『対外的』にいい話に収めたい
という傾向がある

そんな美学が、いたるところでよく分かる

父の面倒が看れて本当に良かった
父も娘に介護されて、喜んでいたと思う

なんて言えるのは
C子が看護師だからか
娘だからなのかは分からないが

なかなかどうして
その美学が、鼻につく

演技くさいのだ

そのあたりは、同僚S子も察していて
C子は、誰もとったことがない介護休暇をとって
今はこういう時代なのよ
って言いたいだけなんだよね

と、皮肉たっぷりに愚痴っていた

他人がC子のことを
そう言わせるには背景があって
C子の部所では
C子の意見は
まったく通ってなかった、という日常があった

おそらくではあるが
C子の薄っぺらい理想や人情論を聞かされて
同僚たちは辟易していたのだろう

ことごとく私の意見は否定されていた
と、C子はよくここで愚痴っていた

とはいえ
C子はタイミングをつかむ能力に長けていて
この介護休暇の取得の件にしても
実父は本当に介護を必要としていて

亡くなるまで、面倒をみることができた

『対外的』にも完璧な状況だったので
復帰後、誰もがお疲れ様とC子を労った

休暇をあけた時の
C子の晴れ晴れとした表情を
記録に残さなかったのが今でも悔やまれる

きっと、C子の部所の同僚だけは
気味悪がっているだろう
ただでさえ人手不足だと騒いでいたのに
あっさりと半年休んだのだから

実際のところ気がひける産休・育休よりも
介護休暇はもっともっと気が引ける
というのが、現状なのだ

それでもC子は分かりやすい
これでどうだ、と言わんばかりに
自分の正当性を主張していた

まぁ

性根が屈折していつとはいえ
介護休暇という前例ができたので
続く職員たちは休暇が取りやすくなったはずだ

C子はパイオニアなのだ

取得したくても、空気を詠みすぎて
クッタクタになりながら働いている同僚が
たくさんいる

その同僚たちからすると、光を見ただろう

実際、C子の復帰後
他の看護師が介護休暇とりたいのは山々だけど
と、話しているのを聞いた

まだまだ取得のハードルは高いらしいが

C子の美学が
みんなに波紋を広げているのは
確かなようだ

やったではないか

先日それを言ったら
この上ない笑顔で

言わなきゃ、誰も分かってくれないのよ

と、我が部所に、名言を残していった

C子、大概にしろよ

昭和の燃えカスが、ニョキっと顔を出した

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