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○○系エフェクター禁止法

「こんにちは。青井ですが」とある雑居ビルの一室のドアフォンに向かっておれは話しかけた。

「……」

返事はなかったが、およそ30秒待つとドアは開いた。ドアを開けた男は、無言のまま俺に中に入るように手まねきした。

「久しぶりですね、明石さん」と俺は言いながら中に入った。「お願いしたモノはどうですか?オリジナル通りに上がってますか?」

「わたしに再現できないエフェクターはない」

「でも、大変でしょうゲルマニウム・トランジスタの入手とか?」

「つては、ある」

「なるほど、蛇の道は蛇ってわけだ。見せてもらえますか?」

男は隣の部屋に行き、平べったい円形の物体を手に戻ってきた。

「酔狂な話だな。もうこんなエフェクターで演奏なんかできないだろうに」男は俺の顔も見ないで言った。

「俺が使うんじゃないんです。俺がふだんはクリーントーンでジャズしか弾かないのご存じでしょ?演奏できる場所はあるみたいですよ。これを頼んだ俺の友達が言ってましたが」

「アンダーグラウンドのハコか。」

「ま、そんなところです。歪み系エフェクター禁止法が出来てからというものロッカーも命がけだ。脳に影響が出るとか、ウソ臭い話ですが」

「わたしの知ったことではないな」

「まあ、いいや。お約束の代金です」

俺は男に金を渡した。男は金を数え始めた。

「確かに」

そういって男は満足げに自分の手の中の金から俺に目を移した。その途端、その目は大きく見開かれた。

俺の隣に別の男が立っていたからだ。

「明石さん。あなたを歪み系効果装置の製造・利用等を禁止する法律に違反した疑いで逮捕する」

「お前いつから警察の犬になった!」

男は俺に向かって叫んだ。

「すまない、明石さん」

俺は言った。半分嗚咽するような声になっている。

「しかたなかったんだよ」

「まあこの男を恨むな。ジャズギター弾いてるくせに、ちょっとばかりゲインを稼ごうとしてオーバードライブに手を出したところを俺が押えたんでね。オトリになってもらったわけなのさ。あんたの知りあいってことで、前から目をつけてたのさ」

刑事は男の手に手錠をかけようとする。その途端……

男は笑い出した。

「逮捕するのはいいが、刑事さん、そのエフェクターのどこが歪み系なのかね?」

笑いながら男は言う。

刑事の顔色が変わった。刑事はそのエフェクターを持って隣の部屋に行くと、そこにあったギターとアンプにつないで音を出した。

空間系のディレイ・サウンド……

俺は、ぼう然とその音を聞いていた。俺がオトリとなってのこの作戦が失敗したということは、俺とこの刑事との取引はチャラだ。

背中をいやな汗が流れ出した……

好きな音楽を紹介したり、演奏したり、音楽をテーマにした笑えるショートフィクションを書いています。ジャムセッションが好きなので、そのネタが多いです。