リングプル

 学生時代ぐらいだから、ずいぶん以前の話だ。父と一緒に、奈良の田舎の広い何もない丘に行った。なんでも昔の遺跡で、それを示す柱が立っていた。父が歴史好きで、旧跡にいくと、そこの物語をよく説明してくれた。そのうちの一つだが、ある出来事によってまだ覚えている。
 その丘は、深く雑草で覆われていて、全て枯れて薄い茶色だったので、冬のことと思う。
 父と離れ、少し分け入ると、草に紛れて薄茶色の小さな蛇がスルスルと這っていた。大きさは大事で、もう少し大きかったら私はすぐに逃げていたと思う。
 目が合ったわけではないが、蛇はしばらく留まっていて、よく見ると鎌首の後ろあたりに、銀色のリングプルがはまっていた。蛇の気持ちはわからないが、蛇は特に気にする様子もなく、またスルスルと草の間に入っていき、見えなくなった。
 1分にも満たない出来事だった。蛇は手がないから取れなんだな、木の枝にリングをひっかけて、後ずさりすれば取れるかな、などと考えた。大きくなったらリングが首を絞めて、死ぬかもしれない。こんなことで命を落とすなんて、なんかばかな生き物に思えた。
 その時ハッとした。蛇はどのくらいの昔から生存してきた種だろう。人間よりも長いかもしれない。様々な環境の変化に順応して、いままで生き残ってきたのである。自然界ではあのような不滅の金属はあり得ないのだ。
 ああ、これが環境問題なんだ。人間が造り、捨てた不滅の金属が、あの蛇を殺してしまうのだ。人間の存在の奥深さ、そして罪深さを垣間見たような気がした。

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