癌治療への応用がmodRNAワクチンの安全性を支持する根拠にはならない

AKIRAです。
本日は例にもれず、例の記事。


癌治療に応用されている実績があるRNAはmRNAではない

RNA研究は非常に分野が多岐にわたっているため、少々ややこしいのですが、癌治療においてRNA技術が応用されている実績を持っているのは、mRNAではなくmicroRNA(論文ではmiRと略されます)です

「がんの治療に応用されているのに安全でなわけがない」

なんてことをよく聞くので、「は?何それ。どこ情報?w」と思ってしまったのですが、しっかりと調べておられなかったようですね。
まあ、私自身miRの研究に少しばかりかかわったことがあるので、今回はmiRを解説する記事を書きたいと思います。

non-cording RNAという概念

以前、私の記事でちらっとお話ししたのですが、RNAには様々な機能があります。
一般的には、DNA→RNA→タンパクという流れでタンパク質が作られることで遺伝子から読み取られた情報がタンパク質という実働部隊という形で機能します。これをセントラルドグマといって、遺伝子発現の基本的な流れです。

しかし、中には例外というものがあって、DNAからRNAが作られた後、本来行われるRNA→タンパクの翻訳と呼ばれる作業が行われないRNAが存在します
こういったRNAは、タンパク質をコード(cord)しないため、non-cording RNA(以下、ncRNAと略します)と呼ばれます。

では、ncRNAは何をしているかというと、簡潔に言うとセントラルドグマの反応を邪魔する役割があります

なんで邪魔するの?

結論から言うと、遺伝子発現調節のためです。
遺伝子発現のブレーキ役といってもいいでしょう。

ですので、自然発生的に存在するものなので、「自然界に存在しない!」というものではありません。
当たり前のように私たちの体の中にあるものであり、なんなら病理マーカーとしての役割を果たすのではないか、とも期待されるくらいのものです。

遺伝子発現は、厳密にいうとRNAが合成されれば終わりではなく、タンパク質を作るところまでをセットで「遺伝子発現」と表現することもあります。だから、DNAにちょっかいをかけずとも、mRNAを分解するなりmRNAからタンパクを作る機構を阻害したりするだけで遺伝子発現はある程度制御できるのです。

しかも、それを自分自身でやっている部分もあるというのだから驚きですね。

miRの制御する遺伝子は一つとは限らない

miRはmicroRNAというだけあって、小さなRNA断片です。先ほども言ったように、遺伝子発現のブレーキ役と表現しましたが、正確にはRNAの発現を抑制する…RNA→タンパクの反応を阻害する機能があります

どうやって阻害するのか、ということですが、皆さんも近年ではよく聞くmRNA。これと結合することで翻訳阻害を起こします。

遺伝子発現が起こると、まずDNAがmRNAに転写されます。このmRNAにmiRが結合することでRNAの分解機構や翻訳抑制機構にスイッチが入るのです。
しかし、ここに問題があります。

例えば。DNAが採用している塩基はA, T, G, Cの4種類ですが、RNAはA, U, G, Cの4種類です。
仮に。
AUCUACCUAAACという配列のRNAがあったとします。
塩基は、AとU、CとGがそれぞれ結合するようになっているので、この配列に結合するRNA配列はUAGAUGGAUUUGということになります。

生物の教科書でも載っているほどの話ですが、実はここに罠があります。
実は。ここまで完全一致じゃなくても結合できるのです
ここ大事です。

実は、miRはある程度塩基配列が異なっていても、部分的に結合することで翻訳抑制を引き起こすことができるのです。これが非常に厄介で、このことを掘り下げると、例えばですがさっきの配列を持ったmiRがあるとすると、UAGAUGGAUUUGと似た配列であれば、ある程度翻訳抑制を起こせる可能性がある、ということになります。

これはかなり重要な話で、これは一種類のmiRで複数の遺伝子発現を制御することができるということになります。
つまり、miRと制御する遺伝子の組み合わせは一対一対応ではないことになります。

これが、真核生物が複雑な細胞代謝を実施できる理由なのかもしれません。

では本題

さて。ここまでで、私は最初に申し上げましたが、癌治療に利用されている実績を持つのは実際はmiRであるということを説明しました。
ここで問題なのが、modRNAがmiRと同じ挙動を示す可能性がある、ということなのです。
詳しく説明します。

だってあまりにもmodRNAとmicroRNAの条件が似すぎてて

RNAワクチンに使用されているRNAは生体由来のものではありません。先ほども言った通り、RNAはAUGCの4種類の塩基を採用していますが、modRNAでは、U(ウラシル)がシュードウリジンという合成塩基にすり替わっています。当然ながら、人間の細胞はシュードウリジンを採用していないので、人間の細胞がつくる天然のmRNA配列上にシュードウリジンはありません

そうなってくると、さっきのmiRの話とつながってくるのです。miRはmiR自身の配列と似ている配列であれば、遺伝子の翻訳阻害を引き起こすことができます。
一方で、シュードウリジンを持つmodRNAはもとからU(ウラシル)の塩基配列情報が認識されていない状態と一緒です。ということは、先ほどの例で扱った配列、AUCUACCUAAACがmodRNAで、miRのような阻害機構があった場合。miRはウラシルを抜いたACACCAAACという配列に対するmRNAの配列UGUGGUUUを認識しやすくなるということになります。

情報量は、多いほうが一般的には正確なので、認識する文字列が少ないほど誤認が働きやすくなることが考えられます。
…さて。
細胞が、天然で合成しているmiRが制御している遺伝子の数と、modRNAが事故って余計な遺伝子発現を抑制してしまう遺伝子の数

どっちが多いんでしょうね?

ほら、結局遺伝子発現の安全性を保障できてない

miRは本来、複数の遺伝子発現を制御してしまう関係上、どのmiRがどれだけの遺伝子をどんな形で制御するのかを調査する論文が多くあります。
それは、普通に考えれば当たり前の話で、miRが認識する遺伝子配列の当たり所が悪いと、細胞にとんでもない毒性を与えてしまう可能性が高いためです。

それは、実際に細胞に教えてもらうほか、知ることはできない。だから、今すぐできるだけ早くにmodRNAにも同じ検証をするべきであると私は考えています。

「癌治療に応用されてるから大丈夫!」

……こんな話を聞いたら、皆さんも聞き返してあげてください。

「ところで、microRNAって知ってる?」

本日は以上です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?