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【緊急事態宣言】JR品川駅は本当に混雑しているのか?【新型コロナ】

政府が緊急事態宣言を発令して、今日(4月19日)で12日目です。この間、テレビや新聞で毎日のように「緊急事態宣言が出ているのに、人が減らない!」の代表例として扱われているのが、上の画像にあるJR品川駅の自由通路です。この写真だけ見れば、緊急事態宣言の前と変わらない通勤風景だと思っても無理はない。

この写真は4月9日に撮影した。朝8時20分頃です。緊急事態宣言から2日後。この人の群を見るとゾッとしますよね。

しかし、次の画像を見てみてください。

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品川駅の港南口、先ほどの自由通路を抜けた場所です。こうやって見ると、人はまばらだと分かります。こちらの画像を使うと、「緊急事態宣言で人が減っている」という趣旨の記事ができる。

何が言いたいかと言うと、たった1枚の写真でも写す場所やタイミングによって、伝えることが変わってしまうということです。

品川駅構内図

上記は品川駅の構内図です。上は高輪口、下は港南口です。報道でも混雑が有名な通路は中央に上から下にかけて通っています。この駅は、改札口を出て港南口に向かおうとすると、この自由通路しか選択肢がありません。元々、人が密集する構造になっているのです。

このため、港南口をいったん出てしまえば、人は分散します。

近年、港南口では大規模な再開発が行われ、高層のオフィスビルがたくさん建ち並びました。このため、元々働いている人は多い。だから、時差通勤やテレワークで駅を利用する人が減ったとしても、朝のピーク時の自由通路は相変わらず混雑してしまうのです。

次の画像は、渋谷区の表参道ヒルズの前の歩道です。これも4月9日に撮影しています。

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表参道ヒルズは休業しています。にもかかわらず、ものすごく人が多いです。この画像を見る限りにおいては。

では、次の画像を見てください。

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同じ時間の表参道ヒルズ前です。人が少ない。数えるほどしかいません。

上の画像でたくさん歩いていた人はどこへ消えたのか。もちろん、画像処理はしていません。デジタルカメラのSDカードからそのまま抜いた画像を編集なしに貼り付けています。

上の画像を使えば、「緊急事態宣言でも人出が多い」というキャプションが付きます。下の画像を使えば、「緊急事態宣言が出て、閑散としている」というキャプションになります。

からくりは簡単です。上の画像は望遠を使っています。下の画像は望遠を使っていません。

写真というのは、撮影した人の意図から逃れることはできません。客観的な写真など無理だと思っています。記者の仕事をしていると、記事の内容に合わせて、こういう写真を撮ろうと思って、被写体に臨みます。記者に限らず、カメラマンは無心で写真を撮影することはあまりないのではないでしょうか。もちろん、偶然撮影された奇跡のような画像がないわけではありませんが。

そのことを踏まえた上で、次の写真を見てください。豊島区の巣鴨地蔵通り商店街です。9日の正午頃です。

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この1枚の写真で、買い物客で賑わっているのが分かります。この商店街に限らず、どこの商店街も緊急事態宣言下でも人で賑わっています。食料品をはじめ、生活必需品が揃っているから、当然、人は集まります。

テレビや新聞報道で、商店街の混雑が大きく取り上げられました。それが間違っているわけではありませんが、生活に密着した商品を売っている店には人が来るのは当然です。人が密集しないよう感染防止対策が必要なことは確かですが、ネットでことさらに騒いで、商店会の事務所やお店に抗議の電話をするのは、単なる迷惑行為ではないでしょうか。

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さて、同じ地蔵通り商店街を、異なる視点から写してみましょう。これを見ると、人はいますが、さほど密集しているようには見えません。店にはシャッターが閉まっています。この商店街では多くの店が営業を自粛していました。人が集まっていることは報じられても、ひっそりとシャッターを閉めているお店が多いことは誰も触れません。

ちょっと視点を変えると、印象が全く変わります。

ちなみに、巣鴨地蔵通り商店街も、上は望遠、下は望遠なしで撮影しています。

望遠ありと望遠なしでは、なぜ印象が変わるのでしょうか。

人の流れには、必ずムラがあるからです。例えば、信号が青になると待っていた人たちが一斉に歩き出します。赤になると、その流れは止まります。人の歩く速度にはそんなに差はありませんから、歩道の人の流れには自然に濃淡が出るのです。

緊急事態宣言下で歩行者が多い場面を撮りたいカメラマンは、目の前の人通りが少なくても、人の流れが濃い場所を望遠で狙えばいい。その逆で閑散とした街を撮りたいカメラマンは、ありのまま目の前の情景を撮影すればいいのです。

つまり、新聞の写真やテレビの映像は、その記事やリポートが何を伝えたいのかを読者や視聴者が理解した上で、どう受け止めるのかを考えた方がいいのです。脊髄反射で、「品川駅、ひでえなあー」とSNSでつぶやくのは自由ですが、その混雑には理由があるし、特に品川駅だけに人が集まっているわけではありません。

下は、安倍首相の緊急事態宣言から一夜明けた8日の毎日新聞です。

毎日新聞記事

見覚えがある方もいらっしゃると思います。この記事に使われている写真は当初、丸の内の写真と誤解されていました。それは、ネットメディアが転載する際に見出しに「丸の内」と入れていたからです。確かに記事は前半に丸の内の通勤風景について書いていますが、後半は中央区勝どきのことを書いています。写真は中央区勝どきとキャプションが入っています。

記事を読んでも、人が増えたのか減ったのか分かりにくい下手な記事ですが(笑)、写真のインパクトは強かったです。

この勝どきの混雑も、品川駅自由通路と同じです。都営大江戸線の勝どき駅から、晴海のトリトンスクエアまでの歩道は通勤時間帯には大変混雑します。通勤経路がここしかないからです。確かにここに来れば、混雑した写真を写せます。

新聞の写真やテレビの映像を否定するつもりはありません。記事やニュースの内容を読者や視聴者に分かりやすく伝えるには、写真や映像が理解の助けになります。文字ばかりの新聞は読もうと思わないし、アナウンサーがしゃべっているだけのテレビは見ようと思いません。しかし、写真や映像には必ず、伝える側の意図が反映されていることを意識する必要があります。たった1枚の写真、たった数秒の映像に騙されることもあります。

厚生労働省クラスター対策班の西浦博北海道大学教授は、「人との接触」を8割減らそうと呼び掛けています。朝の通勤風景や、週末の観光地のにぎわいを見ると、8割減らすのは相当大変だと感じます。私みたいに新聞記者が人との接触を減らしていたら、仕事になりません(実際、仕事になっていないわけですが…w)

そういう焦りがあるのでしょうか、新聞やテレビの写真や映像に一喜一憂している人たちをたくさん見掛けます。

その写真や映像の意図を見抜いて下さい。どういうシチュエーションで撮影されているのかを想像してみてください。

特に、カメラの望遠で撮影した写真というのは、実際の見た目よりバイアスをかけてしまうことがあります。

人流の減少率や人口変動の分析、駅の改札の通過人数の推移などは、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策のHPで確認することができます。

https://corona.go.jp/

コロナサイト画像

新聞の混雑した写真で怒り狂うより、この具体的な数字を見た方が現実を冷静に受け止めることができます。

私自身も時差出勤とテレワークを活用して仕事をしている一人です。乗る電車を変えたり、通勤経路を少しだけ変更して、ようやく落ち着いて通勤できる経路を見つけました。

この12日間で分かったのは、人の流れには濃淡がある、ということです。首都圏民は皆さん頑張っていて、朝の通勤時間帯はかなり電車が空いてきました。しかし、乗車する時間帯やタイミング、車両によって人の濃淡があります。一つの車両の中でも、濃淡があります。

自分で言えば、新宿よりの車両には乗りません。電車の中で人が溜まっていたら、人がいないエリアに脱出します。駅では、人が集まる改札口や経路は避けます。混雑しているカフェには入りません。

他人がどうこうではなく、自分を主語にして、自分はこうすると考えてみませんか。

そして、マスコミはいい加減、品川駅自由通路の混雑写真・映像で何かを伝えた気になるのはやめたらどうでしょうか。確かにあれは日本の通勤風景を代表する象徴的な光景ではありますが、あれを100回続けたとしても、人の移動が減ることはないと思います。都民の危機感が増すこともないと思います。

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