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「緊急事態宣言の夜に」を読んで

 さだまさし著「緊急事態宣言の夜に」(発行所:株式会社幻冬舎)を読んでみた。シンガーソング・ライターで小説家。ほかにもいろんな事をやってる多才な芸能人。
 コロナ禍の事は、どう理解したらいいのか、自分の中では未消化ことのひとつで、今でも「コロナ後の世界」、「不要不急」、「ポストコロナの生命哲学」等々、読み漁っている。本書も、そのひとつ。
 エンタメは、コロナ禍の時、不要不急と言われ、たぶん、著者は自分自身の人生を否定されるような辛い目にあったのだろう。そんな事を想像しながら本書を読んだけど、流石に才能のある人は違うな、と思わせてくれた。

還暦過ぎにつくった「風に立つライオン基金」

 著者が、音楽だけでなく、いろんなことをやってることは知ってたけど、ボランティアもやってたんだな。被災地や弱者に向き合い、個人的な支援を続けてきたそうだ。その限界を感じたのか、基金を立てた。
 「風に立つライオン基金」は、「著者が柴田紘一郎医師と出会い、現地で献身的に働く日本人の女性医師との邂逅などが契機となって」設立したようだ。支援活動を、全国的に、継続的に実施するには法人化が有効な手段。お手軽な手段は、NPO法人や一般社団法人。一定要件を満たせは私でも簡単に設立出来る。

 でも、風に立つライオン基金は、「公益財団法人」。公益法人法に基づき設立し、学術・文化、福祉などの専門的な知見を活かした社会貢献を目的とした公益事業を行う法人だ。結構、まともな組織で認可を得るには苦労する。
 創設は2015年で、著者が還暦を過ぎてからの設立。ふつうは、そんな歳頃になったら、単発の寄付や募金、誰かに賛同して出資・出捐するくらいだけど。凄いね。情熱というか気力。
 著者の取り組みで感心したことは、自分がトップに立たないこと。基金の組織概要を見ると、理事長も副理事長も常務理事も著者ではない。名誉理事長等にもなっていない。ただの理事。つまり、組織運営は専門家にお任せし、著者自身は事が起きた時だけ動く形だ。
 どんな背景があったのか知らないけど、私だったら、少しは名誉も欲しいと思ってしまう。前に出てしまうだろう。それを抑えて、後方支援に回るのだから。著者にリスペクト。

チャリティ文化の醸成

 大規模災害があるつど、被災地支援のために義援金や寄付金を出す芸能人がいる。これを売名行為や偽善と揶揄する輩もいるけど、お金がある人が、お金を出す。身体的に余力がある人がボランティアに行く。それでいいじゃないか。
 イギリスのチャリティ機関(CEF)によると、2021年度の国別チャリティ金額ランキングは、アメリカが3位、イギリスは22位で、日本は108位だそうだ。どうやって算定したのか知らないが、2021年当時のアメリカの寄付額は35兆円ほど。この金額は、日本の社会保障関係予算とほぼ同額。アメリカの経済規模が大きいとは言え、日本の社会福祉の予算規模と同額をチャリティで集められる国って、やっぱりすごい。
 翻って日本の寄付額は1兆2千億円ほどだそうで、足元にも及ばない。
 ってことは、「もっと寄付(チャリティ)を増やしていく余地がある」とも言える。日本にも、チャリティ文化を醸成して、寄付を財源にした活動が本格化するといい。

緊急事態下での取り組み

 著者は、群を抜いて数多くのコンサートを開催してるアーティストで、2022年時点で、既に4,500回を超える開催日数。日本記録認定協会のHPでは、「単独アーティストによる日本最多累計コンサート数」の日本記録保持者として紹介されている。

 そんな著者が、コロナ禍でコンサートを開催出来ない、開催出来ても無観客等々の事態は、辛かったろうな。

 あの頃、コロナウイルス対策として発出された緊急事態宣言は、2020年4月7日を最初に都合5回。「発出」なんて言葉に出会ったのも、この時だ。
 まだ治療法が見つからず、かつ、感染力が高い「未知の病」で、不気味さを感じた頃。
 コンサートが出来ずに辛かったろうが、得体の知れない病との闘いでもあり、コンサート開催も恐かったろう。 
 本書では、そんな著者の悩みや苦労が綴られている。ネタバレになるので、詳述できないけど。
 著者の卓越してるところは、コロナ禍でコンサートが出来なくても、風に立つライオン基金で、人助けに尽力しているところ。そして、その取り組みで得たコロナ対策の知見を活かしつつ、いち早くコンサートを再開したこと。本書は、そんな奮闘記でもある。

                              (敬称略)

 

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