固定観を捨てて、素直な生き方を。#3

さて、前回までは私がこの仕事を始めたばかりの頃に経験した生徒とのことを、当クラブの講師でもある松本が客観的に書いてみました。

ここからは、その経験から私がどのように子どもたちと接するようになったのかということや、その当時私がどのように感じていたのかという主観を中心とした内容を書いていってみたいと思います。

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私は仕事柄、多くの子どもたちと接しています。
その際にいつも意識していることは、自分の内面にある心(意識)を常に「自然」な状態にしておくことです。

自分の内面にある心(意識)を「自然」な状態にしておくというのは、どういうことかといいますと、簡単に言えば、偏見や思い込みという「色眼鏡」で子どもを見ないようにするということです。

この「色眼鏡」が心(意識)にあると、自然さがなくなり、子どもとの関係は絶対にうまくいきません。これが私が節ちゃんとの経験から学んだことです。

なぜ、相手には見えることがない自分の心(意識)を、自然な状態にしていなければ、子どもとの関係がうまくいかないのでしょうか?

それは、私たちは心(意識)で会話をしているからです。

言葉巧みに「こんなに算数ができる子みたことがないよ!!すごいね!」とか、「そんなに昆虫のことを知っているなんてすごいね!大人もびっくりだよ!」というように、子どものことを褒めて、褒めて、褒めまくっていれば、子どもとの関係はうまくようなことを言う方もいますが、それだけでは子どもとの関係はうまくはいきません。

子どもとの関係を良好にしていくには、私たちは心(意識)で会話をしていて、心(意識)は言葉以上に力があるということを自覚し、言葉と心(意識)を一致させていく必要があります。


先ほど書いた子どもへの褒め言葉も、本当に心の底からそう思っていれば、子どもとの関係は確かに良好になり、子どもは益々やる気になっていくでしょう。

仕事で毎日忙しく、なかなか子どもと接することができないお母さんでも、子どもに対するあふれんばかりの愛情があり、成長を本当に喜んでいる心があれば、言葉少なに「すごいね」と言うだけでも、子どもはどんどんやる気になり、自分の存在にすら自信が持てるようになってきます。心(意識)には言葉以上に力があるのです。

逆に、「専門家が子どもを徹底して褒めればやる気になると言っていたから、とりあえず褒めてみる」とか、「昆虫なんて将来の役にも立たないことに興味を持つよりも算数の勉強をしてくれないかな、まったく!」と心(意識)の中で思って同じ言葉を言えば、子どもはその心(意識)のメッセージを受け取ります。ですから、同じ褒め言葉でもほとんど効果が出てきません。

効果が出ないと、たいていの人は原因を子どもの個性などの違いと考えるようですが、私はそれが本当の原因であるとは思えません。効果が出ない人の多くは、心(意識)の中で本当に心底褒めてあげたいと思っていないのです。

この現実に隠されている本当に大切なことに気づくまでは、きっと多くの人は、こう思っているかもしれません。

「目に見えない心(意識)は、絶対に相手にはわからない。だから、心でどんな嫌なイメージを持っていても、言葉でうまく装っておけば、相手との関係が崩れることはない」

かくいう私も、実はそう思っていた一人でした。


目に見えない心(意識)が、まさか相手に伝わるはずなどないと思っていました。

ですが、子どもと接するというこの仕事を始めたことによって、心(意識)は相手に伝わっているという大切なことに気づくことができたのです。


私がこの仕事を始めたばかりのころ、節ちゃんという女のお子さんを担当することになりました。私がまだ18歳くらいのころです。

その節ちゃんは、いつも塾を休みがちで、反抗的な態度でちょっと大人をバカにしているようなところがありました。若い私にとってはとても扱いにくい生徒でした。

ですが私は、そんな「扱いにくい」とか「生意気だな」という内面の気持ちは一切表に出さずに、「よくきたね!今日もがんばろう!」とか、「宿題は忘れても大丈夫!教室でまたがんばればいいよ!」と、心とは逆の声かけをしていました。

その言葉に対して、節ちゃんは一向に反応しません。
むしろこちらの話を聞いているのか、いないのか、投げやりな態度で勉強しています。

その態度を見て、私の心の中には・・・

「なんだこの態度は?」

「優しく声かけしているのに、こういう態度をとるなんて最低だな!」

「まったく扱いにくいな~この子は!」

という思いが、さらに膨らんでくるのでした。

そういう気持ちが私の心の中でさらに膨らんできてからは、授業中にこちらが節ちゃんに話かけても、節ちゃんと目が合うこともありません。


完全に私の存在を無視したかのような態度です。


若かった私は、この大人をバカにしたような態度に、心の中では節ちゃんに対するマイナス的な感情がどんどん湧いてくるのでした。

まだこの仕事を始めたばかりの私にとって、この節ちゃんとの問題は、私ひとりで解決できるような問題ではありませんでした。

私と節ちゃんとの目に見えない心での会話は、すでにクラス全体の雰囲気にも影響を与えはじめていたからです。

そこで私は塾長に節ちゃんのことを相談しました。

「塾長が面談して入塾させた、あの節ちゃん。ちょっと態度が悪すぎます。塾は休みがちですし、たまに来たかと思えば、大人をバカにしたような態度で、授業はまともに聞かないし、勉強する気があるんだか、ないんだか・・・。いっそのこと、塾をやめるように言ったほうがいいんじゃないんですか? こちらががんばろうといっても、全くがんばる気がないようですし・・・塾長はどう考えますか?」

すると塾長は、「まず私は、節ちゃんをやめさせるつもりは全くありません。そして、今回の問題の原因は節ちゃんではなく、あなたの中にありますね」と言いました。


「は??私の中にある!?(マジですか?人の話、聞いてました?)」


「塾長、何を言っているのですか?」

「私は何も悪いことはしていませんよ。彼女が塾を2週間もさぼって、久々に来たときには、"よく来たね!がんばろう!”と声かけしてましたし、むしろ彼女を応援していました。そんな私に、彼女との関係を拗らす要因があるとは思えませんけど!!」

「それが問題なのですよ」


「あなたが、いまだに”悪いことはしていない”と思っていることが問題なのです」

「あなたは心の中で節ちゃんに対して、”扱いにくい、生意気だ、自分をバカにしている”というような意識を持っていますね。その意識が、節ちゃんにしっかり伝わっているのです」

「あなたは悪いことはしていないといいますが、節ちゃんに対して、”おまえは私の意にそぐわない人間だ。やる気がないならやめてしまえ!”ということと同じことを心で伝えているのです」

「そういう負の感情を相手に伝えておきながら、”悪いことはしていない”とよく平気で言えますね」

「いわゆる世の中で不良少年、問題児と言われているお子さんたちは、そういう意識を社会から、大人から浴びせられているです。だから、”反抗”するのですよ。自分を否定されて、素直になれる人などこの世の中にはいないのです」


この塾長の話は、当時の私にとっては、受け入れがたい話でした。


当時の私としては、塾長に「君の気持ちはわかるよ。確かに節ちゃんは扱いにくいものな。場合によっては節ちゃんにはやめてもらうしかないかもしれないね」という話を期待していたのですから・・・


それに、目に見えない自分の心(意識)が相手に伝わるなんて、さらに受け入れがたい話です。


世の中では、いくら相手に対する不平不満があっても、問題を起こさないように言葉を装い、表面的な関係を続けていくというのはよくあることです。

影で上司の悪口を言い、いつも不満を持ちながらも、問題を起こさないように、普段の会話や態度ではそういう面は一切出さないようにしているというケースはどこにもである話です。


塾長は、そうやっていくら表面を装っても、心(意識)はしっかり相手に伝わっていると言うのです。


そこで私は「では、どうしたらいいのですか?!」と塾長に尋ねました。


すると塾長は、「それにはまず、あなたの心(意識)をしっかり見つめなさい。あなたは本当は節ちゃんに対してどう思っていますか?」

「たくさんの負の感情がありますよね。自分の思い通りにならない苛立ち、自分の尺度に合わない態度に対する憎悪、様々な思いがありますね」

「それをまずひとつ一つ見つめなさい。そして、そのひとつ一つがすべて伝わっていたとしたら、自分はどう思うのかを想像してみることです」

「そうした上で、節ちゃんに対してこれからどうしていくのか、方向性が決まったら、また来てください」

とのことでした。


次号につづく。


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