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でき太くん三澤のひとりごと その141

◇ 対象に自分を置きかえてみる


ようやく暖かくなってきた信州。
桜も咲き、暖房もようやく必要がなくなってきました。
とはいえ、雨が降ったり、ちょっと曇ったりすれば、まだまだ暖房が必要。完全に暖房が必要なくなるには、あともう少しかかりそうです。


さて、私は仕事柄、教育関連の本で何が今一番売れているのかをよくチェックします。そして、売れている本はできるだけ購入し、読むようにしています。

そうすることで、今、親御さんはどういうことに関心があって、何に悩み、何を知りたいのかを掴むことができるからです。

ただ、そういう売れ筋の本を購入しても、ほとんど最後まで読み切ることがありません。その本の雰囲気だけを味わうという感じでしょうか。
半分まで読めば良いほう。
多くが3分の1くらい読んだところで読むのをやめてしまいます。
読んでいるうちに、だんだん読む気力が失われていくからです。

無理して読むこともできますが、無理をして読んだところで内容は一切頭に入ってこないでしょう。多くの本は、読み切ることもなく、ブックオフへと流れていきます。


そもそも、なぜ途中で読む気力が失われていくのでしょうか。

それは、多くの本が私にとってはどこか表面的で、あまり深掘りをしていないといいますか、対処療法で終わっているように感じてしまうからだと思います。もちろん、私も日本中のすべての売れ筋の本を購入できているわけではありませんから、中には本当に価値のあるものもあるでしょう。

でも、そういう価値のあるものにはなかなか出会えていないように思います。

風邪をひいたら、風邪薬を飲む。
胃が痛くなったら、胃薬を飲む。
頭痛がしたら、鎮痛剤を飲む。

こういう対処療法をすれば、確かにその場の苦しみからは解放されます。

でも、そもそも何で私たちは風邪をひいたのか。なぜ胃が痛くなるのか。なぜ頭痛がするのか。そういう根本的なことに深くメスを入れていないように思うのです。

根本的なことが解決されていなければ、必ずまた風邪をひいたり、胃が痛くなったり、同じような問題が起こります。
問題は、原因が解決されなければ、また必ず形を変えて起こってくるでしょう。


私がこの仕事を始めたばかりのころ。

私にこの仕事のノウハウを指導してくれた先生は、そういった教育に関する本は参考程度にして、まずは「対象に自分を置きかえてみること」を重要視していました。

私も最初は、

「対象に自分を置きかえる?どういうこと?」

先生が重要視していることの意味が、よく理解できませんでした。


前回のコラムでは、教室で癇癪を起こしたお子さんのことについてふれましたが、「対象に自分を置きかえる」というのは、私自身がその子になったつもりで、その子が何を感じ、何にイラつき、何にストレスを感じているのかを想像してみるということです。

その子が感じていることを、まるで自分自身が感じているかのように想像してみるということです。

自分の過去の経験や、自分が子どもだったときの感覚を思い出しながら、頭の中でその子になりきってみるのです。

そうすると少しずつ、その子の立ち位置、幼さ、依存度、価値観、感覚といったものが掴めるようになってきます。

その上で相手と向き合うようにすることが、問題を根本から解決していくための第一歩であると教わりました。


また、例えば「うちの子はいつも中途半端で、最後まで物事を取り組むことができない」というお悩みをよく耳にします。

このときも、その子の生活態度、言葉づかい、さまざまなことを材料にして、自分自身がその子になったつもりで、その子が何を感じ、何に不満や不安を抱えているのかを想像してみるのです。

自分がその子になったつもりで、その子自身を感じてみるのです。

そうすると、今その子にどういう声かけをしてあげるべきなのか、どういうサポートをしてあげるべきなのかが見えてきたりします。

私が今でもよく行うのは、テスト内容や、普段取り組んでいるプリントの運筆状況や、ミスの内容、採点の状況などから、その子がどのような意識で学習を進めていたのかということを想像することです。そうすると、その子に今必要なアドバイスが直感的にわかるようになってきます。

この「対象に自分を置きかえた」ことで得た感覚が正しいものなのかどうか。
これは、その対象となっている人に聞いてみないことにはわかりません。
かつて私がそうだったように、最初は「勝手な妄想」ということもあると思います。

その判断に迷ったとき、経験豊富な方が書いた本を参考にしてみる。
あるいは、経験豊富な先生に聞いてみたりする。
こういうアプローチが、子育てには必要なのではないかと思います。

「対象に自分を置きかえる」というのは、最初はむずかしいと感じられるかもしれません。
私もそうでした。

でも、それを簡単にはあきらめずに、ちょっと続けてみてください。
これを繰り返していくうちに、その精度は上がり、概ね正しい感覚となってきます。

様々な本を読み、知識や見識を深めることとあわせて、「対象に自分を置きかえてみる」という取り組みをしてみること。

これが親としての感覚を研ぎ澄まし、親子がともに成長していく道を歩むことにつながっていくように思います。


かつて私にこの仕事のノウハウを教えてくれた先生は言いました。

「三澤くん、もう本は読まなくていいよ。答えはすべて自分の中にある」

これは対象に自分を置きかえ、対象の苦しみ、不安、苛立ちといったものを、完全とはいわないまでも、ほぼ同レベルで共感でき、対象と一体化してしまった人の感覚でしょう。そして、その一体化した自分を俯瞰できる冷静さがある。

私はまだまだその域には達していませんが、先生が言わんとしていたことは、何となくわかるようになってきたかもしれません。

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