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「豊かさ」新興国との逆転は始まっている

※朝日新聞デジタルに投稿したコメントを再編集しました。

【視点】2040年どころかもうすでに、新興国との間で豊かさの逆転は起き始めています。

先日出張でベトナム・ホーチミンを訪問しました。ベトナムはいま、「生産国」から「消費国」へ、技能実習や下請け的な「オフショア開発」から高度人材による対等関係あるいは主導的役割の「リモート業務」へと、移行が進んでいます。

弊社メンバーと10年以上交流のあるベトナム人の34歳男性は日系企業のIT開発に従事し、月給は円安の日本円換算で50万円超。SUV車2台所有し、プール付き新築マンションに暮らしています。

10年前にIT技術の研修で彼が初めて日本を訪れたときは月給5万円程度でしたから、わずか10年で10倍超の伸びです。彼は日本語と英語、そして革新著しいIT技術を駆使し、自らのキャリアを着々と拡張、更新してきています。


滞在中訪問した現地のIT企業には、長年のオフショア開発受注で培われた若い高度IT人材が豊富にいて、つくづく強みだと感じます。

英語は当然ながら、プラスアルファの言語獲得に意欲ある若者も多い。ベトナム戦争時代には「ボートピープル」と呼ばれた難民が世界中に分散し、情報や資金の送金元となって外から自国の家族を支えてきましたが、それがいまや「ベトナム華僑ネットワーク」としてビジネスに欠かせない人的資産の網の目を張り巡らせています。彼らが今後狙える海外市場の選択の幅においても、日本人との差は明らかです。

ビジネスの現場では人手不足に喘ぐ日本企業が、ベトナム企業に開発を依存する度合いはますます高まっていて、完全なる売り手市場の様相。

賃金の割安感を目的にした外国企業の拠点化戦略は政治の荒波にも揉まれ、早晩、期待通りには機能しなくなるものと思われます。

どの国の、どの産業を受け入れるかは、“生産国”にとって経済・外交戦略そのものです。ベトナムは共産・民主主義を問わず、国際関係における大国間の緩衝地帯としての機能を担おうとしています。各国からお金も技術も巧みに引き出しつつ、人材育成を基礎に産業育成へとつなげていく。逞しく強かな戦略として成果が発揮されてくるのではないかと思います。

ベトナム戦争終結から50年。かつての日本のような発展段階を歩んでいる最中だとしても、過去にはロシア語までも義務教育の中で学んだ彼らが、テクノロジーの技術革新と多言語コミュニケーション力を武器に、日本を軽々と飛び超えていくのは必至です。

日本企業はベトナムで鉄道や都市開発などの事業に関わっていますが、ODAを絡めたような従来型の「技術協力」という観点ではなく、現地の人と共に学び、ともにビジネスをつくっていくパートナーとなれるよう、腰を据えた深い関係づくりが必要だと感じます。


エネルギー資源や水不足の問題のほかに、政治的な問題も絶えないようですが、昨今は利権絡みの汚職に容赦なくメスを入れているようで、国際的な経済成長を見据えたさらなる改革の意思表示にも見えます。

片や、日本はどうでしょうか。政治は汚職・裏金問題で沈下し、少子化や円安をコントロールできず、企業の人手不足に拍車がかかり、国民の生活の質の低下に対処できない事態です。

海外に出て特に痛感するのは過度な円安がもたらす「萎縮」の連鎖です。たった数日間ベトナムに滞在し、現地の実業家の皆さんと対話するだけで、この記事で語られる表現よりもっと厳しい、日本の抱える危機の外観がはっきりと見えてくるようでした。

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