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深夜食堂に動かされた話。

昨日の夜のこと。
私と彼は夕飯を食べながらネットフリックスで「深夜食堂3」を見ていた。
その中の「何も言わないで」というエピソードだ。登場人物たちの愛する人への気持ちが歌を通して見えてくるというような話だったと思う。

もちろんいい歌だったが、挿入曲なんて普段の私ならなんとなく聞き流していただろう。でも昨日は違った。単純な歌詞がどんどん心に入ってきて、自分の気持ちと混ざり合っていくような感覚だった。ふと隣をみると、字幕を読みながら彼も感慨深そうにしている。
愛情を言葉で伝えない無口な男に、何も言わなくていいと、そんなあなたが好き..という歌だった。

正直にいうと、私はそういうタイプではない。
恋愛でも友人関係でも、家族とだって、”言ってくれないとわからない”主義だ。
だから海外のはっきりパッキリした感じが好き。わかりやすくていい。
今の彼と付き合い始めた頃も、愛情表現がはっきりしているのが楽で好きだった。
彼自身あまり言葉にするのが得意でないと言うが、日本人の私にはあまり気にならなかった。最初のうちは誰でもそうかもしれないが、私の方が言葉にする勇気がなくて彼の対応に随分助けられたものだ。

ところが人間不思議なもので、
元々は赤の他人同士なのに、言葉なしでも察してほしいと思うようになる。
一緒に過ごした時間が長くなると尚更だ。
私たちもきっとそうやってすれ違って来たのだろう。
外国人だって人による。彼はそんなに頻繁に気持ちを伝えてくれない。
どんどん言葉や態度が曖昧になる彼、わからなくなって焦る私。
甘えたくても伝えられない私、どいしたらいいかわからずに戸惑う彼。
言葉の壁も、文化の壁も、育って来た環境や考え方までもが違うのに、私たちはなぜそれを忘れてしまうのだろう。


きっと私の中で、そして彼の中でも、何かが動かされた。

寝る前になって彼は私に言葉で気持ちを伝えてくれた。
口数の少ない彼からは随分聞いていなかった本当の気持ち。
好きだと言ってくれて、嬉しかった。ほっとした。
言葉にして欲しかったのだ。
彼を信じている自分を肯定したかったのだ。
そうやって彼が言ってくれるのをずっと待っていたのかもしれない。

それなのに、しばらくの間があって私の口から出た言葉は
「...知ってた」だった。
はっとした。自分でも気付いていないふりをして、私はわかっていたのだ。彼がずっと愛してくれていることも、気にかけてくれることも、私と別れる気がないことも。”言ってくれないとわからない”主義の私にも伝わっていた。


いつだって言葉は大切。
信じ続けるのは簡単ではないから。わからないことも、誤解してしまうことも、コミュニケーションをとるだけでずっと減る。楽になる。
それに、ほんの少しの言葉でも”相手にもらう言葉”というのは嬉しいものだ。それだけで心が温かくなる。私たち人間の持つ素晴らしい特権だと思う。

けれど、言葉がなくても”伝わってくる気持ち”というのは思いの外多いことに気付かされる。言葉という決定打がないと人は不安になるけれど、確かにそこにある温かさを無視することはできないのだ。相手からの信頼を感じて、自分からの感謝を返せたらどんなにいいだろう。相手の悲しみを感じて何を言っていいかわからない時、うまく配慮することができたらどんなにいいだろう。

私と彼の中はこうしてゆっくり修復しつつあるのだけど、
この関係も、それ以外の関係も、人と関わり合う中で
これからは、そういう第6感なるものを大切にして生きたいと思う。
有効に研ぎ澄まして自分と周りの人にいい影響を与えられるようになりたい。
言葉で伝えてくれる人に対してはより理解を深める努力を、
言葉がない場面ではより感じ取る努力と温かい対応を、
両方を上手く使ってもっと分かり合えるように。
そして魅力的なオーラのある人になりたいと思う。

「言ってくれなきゃわからない」「そんなの聞いてない」ではなく、
「なんとなくそんな気がしてた」と言える側の人間でありたい

と思った日です。

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