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【コラム】星のこと②-守り受け継ぐもの-イワシロアヤカさん

2023年9月3日(日)に開催したアキラボ星の観察会の講師・イワシロアヤカさんの星についてのコラムを3話に渡ってご紹介。第2話は、守り受け継ぐもの。


安芸の瞬(またた)き

星の見え方は、環境によって大きく変わります。
 
その日の気温、湿度、空気の流れ、雲の出方、場所の条件などによって、物理的に星の見え方は変わります。海なのか山なのか、風があるのかないのか、場所の高度はどのくらいか、空の広さや暗さはどうか。実に様々な条件が、その場所固有の星空を作り出しています。(コラム「今、ここにしかない星空」
 
私が安芸海岸で見た星は、キラキラと瞬いていました。
 
星が瞬くのは、大気の温度や密度の違いによりゆらぎが生じるからです。
 
地球には大気があるので、地上から見ると必ず大気のフィルターを通して星を見ることになります。温度や密度に差がある大気どうしが触れ合うと、気流が入り乱れて星の光がまっすぐ通過できず、さまざまに屈折しながら私たちの目に届きます。こうして、星が瞬いているように見えるというわけです。
 
星が瞬く様子は小川の底にある小石が、水の流れに合わせてユラユラと揺れて見えることと似ています。これが瞬きのしくみです。
 
きらきらと瞬く星が印象的だったこの日の安芸海岸の上空では、風が強く吹き、星を瞬かせていたのでしょう。太平洋の広大な空の上で、地球の大気と星の光がせめぎ合いながら私たちの目に届くことを想像すると、自然の作り出す美しい光景にただただ純粋に心を動かされます。

光害(ひかりがい)

安芸市は、高知県の県都である高知市から車で約1時間の県東部に位置しています。県東部の中心都市でもあります。
 
南端は土佐湾に面し、北は徳島県との県境に接する、「海」「山」のどちらも持っている市です。私はどちらの環境でも星空を見ましたが、海側では星の瞬きを、山側では、山々で作られた額に飾られた、さながら星粒の絵画を見ることができました。
 
どちらも魅力的ですが、ここで注目したいのは「夜空の暗さ」です。夜空が暗ければ暗いほど星がたくさん見えるという点で、星空環境が大きく左右されます。
 
夜空の暗さに影響を与える一番大きな要因は、人工の光です。街灯、看板、家の明かりが空に漏れ出し夜空を照らしてしまうのです。こうした光による影響を「光害(ひかりがい)」と呼んでいます。
 
安芸市の海側にはまちがあります。看板やコンビニ、住宅の明かり、道路照明など、まちならではの明かりがあります。しかしそれだけではありません、1時間も離れた県都高知市の明かりが、実は安芸の夜空を照らしているのです。西側(高知市側)の空と、東側(室戸岬側)の夜空の暗さを比べるとその違いは一目瞭然です。

(安芸海岸の夜空。写真の左側、高知市の明かりが空を照らしているため少し明るい。Photo by 小松八月)

一方で、山側に行くとその影響はほとんどありません。私が星を見に訪れた畑山という集落は、周囲を山に囲まれた「山間部」です。高知市との間にある山々が都市の光を遮っているのでしょう。住宅の明かりも少なく、見える星の数は山側の方が明らかに多いです。
 
ここまでまちあかりの影響で星が見えづらくなる、と説明してきましたが、実際のところ、安芸市の星空はとてもきれいです。明るいとされている街中でも星の数は多いほうだと思います。環境省が行っている「夜空の明るさ調査」では、安芸市の隣の芸西村(芸西天文学習館)のデータが公表されています。16~22までの数値で評価される指標(等級(mag/□”))があり、数字が大きいほど空が暗いというものです。 

(環境省報道発表資料「令和4年度夏の星空観察 デジタルカメラによる夜空の明るさ調査の結果について」より引用)

それによれば、高知市内で19.01、芸西村では20.92という数値でした。(令和4年度夏)東京都心の空では17~18くらいの数値であることを考えると、高知県は星空環境が良いと言えるのではないでしょうか。 ふと見上げる空に星がたくさん輝いている。ここには、当たり前のようで当たり前ではない恵まれた環境があります。それは、人の営みによって簡単に変化する絶妙なバランスの上に成り立っているのです。 

(野良時計と星空 Photo by 小松八月)

この星空を守っていく責任

あなたは、どんな時に「幸せ」を感じますか?
 
「幸せ」というと旅行や、大きなイベントなど、特別な瞬間を思い起こすかもしれませんが、変わらない日常の中で繰り広げられる営みの中に、些細な、しかし大切な幸せの瞬間は散りばめられているものです。
 
山、空、海、河原など、意識していないけれど背景としてそこにある、「なんでもない景色」を舞台に私たちの日常は繰り広げられています。お父さん、お母さんの世代、おじいちゃん、おばあちゃんの世代、そのまた上の世代‥‥はるか昔から、その舞台の上で歴史が紡がれてきました。
 
あなたも思い出してみてください。些細な「幸せ」の瞬間を。そのときに立っていた舞台はどんなものであったかを。友達と遊んだ夕焼け空?海をながめてぼーっとした砂浜?帰り道ふと見上げた星空?普段は意識していない「なんでもない景色」が、大切な思い出を彩っていることに気付くでしょう。そんな景色を守り受け継ぐことは、次の世代へ、未来へ、今を生きる私たちが「幸せ」を手渡していくことにほかなりません。
 
1人の力はちっぽけですが、不用な灯りを消すことはできます。「舞台」のひとつである星空は、そうやって守ることができるのです。
 
昔も今も、そして未来にも、安芸に降り注ぐ星の光はきらきらと瞬きながら私たちに問いかけています。

(時を超え守り受け継ぐ星空 Photo by 小松八月)


イワシロアヤカさんプロフィール

sorasio/星の案内人
子どもの頃から星や宇宙が好きで、天体望遠鏡メーカーのピクセンに入社。その後、高知に移住し、星や宇宙の魅力を伝えようとsorashiroを設立し、星空体験プロデューサーとして活動。愛媛県出身。

note/https://note.com/sora46design
Instagram/https://www.instagram.com/sora46design/ 


 

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