ATP2019シーズン スタッツ賞
2019年シーズンが終わったので、今年1年間かき集めたデータをもとに、ATPツアーレベルの選手たちがどんなパフォーマンスだったのかを発表します。
集計対象
集計対象は今季GS4大会とマスターズ9大会のうち、詳細なデータが収集できた計875試合。いずれの大会も棄権試合は除外した。ランキング対象選手は、集計対象の試合が7試合以上ある84人。7試合を基準としたのは、GS4+MS9の13大会中、平均して過半数で1試合以上戦ったことになるため。各大会の集計対象試合は以下のとおり。
グランドスラム
- 全豪:大会公式サイトにスタッツが掲載された全試合
- 全仏:大会公式サイトにスタッツが掲載された試合のうち、ホークアイ未設置のコートで行われた試合を除外(ATP250程度のデータしかないため)
- ウィンブルドン:大会公式サイトにスタッツが掲載された全試合
- 全米:大会公式サイトにスタッツが掲載された全試合
マスターズ
TennisTVによるマッチサマリーの画像が3枚組で、かつATP公式サイトの「2ndスクリーン」にデータが存在する試合(2ndスクリーンの部分的なデータ欠損は許容)
サーブ部門
(1)アンリターンド率
サーブが入ったときに、相手のリターンが成立しなかった割合。サーブ単体の質を表す指標。
サーブ総合
1位 カルロビッチ(54.9%)🥇
2位 イズナー(51.4%)🥈
3位 ラオニッチ(47.2%)🥉
⋮
66位 錦織(25.0%)
1stサーブ
1位 カルロビッチ(60.8%)
2位 ラオニッチ(56.6%)
3位 イズナー(55.4%)
⋮
73位 錦織(27.1%)
2ndサーブ
1位 イズナー(31.4%)
2位 カルロビッチ(29.7%)
3位 ラオニッチ(26.9%)
⋮
40位 錦織(17.5%)
基本的に上位はビッグサーバーだらけです。錦織は2ndサーブに限ればツアー平均レベルで、意外と健闘しています。ムテは2nd > 1stなので、数字のうえでは“ダブル2nd”を打ったほうが効果的ということになります。
(2)実質アンリターンド率
サーブのIN率を考慮したアンリターンド率。上記のアンリターンド率に各サーブIN率を掛けた値。
アンリターンド率はサーブの質を測る指標として有効ですが、IN率を無視するため、入れば絶対に返されないけれど1%の確率でしか入らないサーブであっても満点になってしまいます。現実的にはそんな極端な選手はいませんが、DFだらけで返されないサーブが優秀かというとそうとも考えにくいため、IN率を考慮した指標も算出してみました。
サーブ総合
1位 カルロビッチ(52.8%)🥇
2位 イズナー(50.5%)🥈
3位 ラオニッチ(45.2%)🥉
⋮
63位 錦織(24.3%)
1stサーブ
1位 カルロビッチ(42.2%)
2位 イズナー(40.3%)
3位 ラオニッチ(36.2%)
⋮
69位 錦織(17.3%)
2ndサーブ
1位 イズナー(29.3%)
2位 カルロビッチ(26.1%)
3位 オペルカ(24.0%)
⋮
33位 錦織(16.1%)
ビッグサーバーが強いことに変わりありませんが、2ndでラオニッチに代わってオペルカがランクイン。ラオニッチの2ndアンリターンド率は、オペルカに比べるとDF覚悟の強気の攻めによって担保されていることがわかります。ズベレフは予想どおりDFを差し引くとガタ落ち。
(3)サーブ球速
サーブの平均球速。
サーブ総合
1位 イズナー(198.7km/h)🥇
2位 カルロビッチ(196.5km/h)🥈
3位 A. ズベレフ(194.2 km/h)🥉
⋮
78位 錦織(162.8km/h)
1stサーブ
1位 A. ズベレフ(207.3km/h)
2位 イズナー(205.1km/h)
3位 オペルカ(204.2km/h)
⋮
78位 錦織(172.5km/h)
2ndサーブ
1位 カルロビッチ(182.4km/h)
2位 イズナー(180.4km/h)
3位 ラオニッチ(174.0km/h)
⋮
70位 錦織(144.3km/h)
おおむね背の順で、1stサーブの km/h を cm に置き換えればほぼ身長どおりの結果です。そんな中、1st平均最速はズベレフ。身長からするとかなり飛ばしてスピード重視で打っていそうです。ただしアンリターンド率では他のビッグサーバーに水をあけられているので、制球等に難があることがうかがえます。
BIG3の面々は、実は球速ではほとんど差がないのですが、アンリターンド率や実質アンリターンド率ではフェデラーが抜きんでており、球速以外のスキル(制球、配球、フォームの再現性など)の高さを物語っていますね。
(4)被リターン球速
サーブを返されたときの、相手のリターンの球速。遅いほど返せてもコントロールしづらいサーブで、速いほど叩きやすいサーブと言える。
平均被リターン球速
1位 カルロビッチ(86.6km/h)🥇
2位 イズナー(90.7km/h)🥈
3位 アンダーソン(93.1km/h)🥉
⋮
50位 錦織(107.2km/h)
やはり上位陣はビッグサーバー。速いサーブほど強いリターンをしにくいのは、直感的にも納得できますね。
FHとBHで分かれたデータしかないため1stと2ndを合算した球速しか不明ですが、通常は2ndサーブのほうがBH側に配球が偏るので、FHに対してBHでの被リターン球速が高い選手ほど2ndサーブが叩かれやすい傾向はあると思います。
リターン部門
(1)リターン成功率
返球率。相手のサーブが入ったときに、相手コートへボールを返せた割合。リターンゲームの一番の基礎となる、返球能力を表す指標。
リターン総合
1位 フチョビッチ(80.5%)🥇
2位 モンフィス(77.8%)🥈
3位 メドベーデフ(77.7%)🥉
⋮
72位 錦織(66.6%)
1stリターン
1位 ムテ(76.5%)
2位 フチョビッチ(76.2%)
3位 モンフィス(74.0%)
⋮
61位 錦織(61.7%)
2ndリターン
1位 サングレン(92.0%)
2位 西岡(91.5%)
3位 ペラ(89.8%)
⋮
77位 錦織(74.7%)
サーブのアンリターンド率はTOP10でも平均値程度でしたが、こちらは上位ほど平均よりも高いパフォーマンスを発揮しているので、自分のサーブを返されないよりも相手のサーブを返せるかのほうが試合に勝つうえでは重要なようです。考えてみれば当たり前のことで、自分のサーブは返されてもラリーに勝てばポイントを取れますが、相手のサーブは返さなければポイントの取りようがないので、返されないことよりも返すことのほうに意味があります。
サーブ系のスタッツは調べる前から候補が数名に絞れて、実際にそのとおりの結果でしたが、返球率は伏兵が続々とランクインしました。西岡もあれだけリーチが短いのによく返していますね。錦織の返球能力が低いのは意外かもしれませんが、最初の記事で書いたように、錦織はリターンが得意なわけではありません。
(2)リターン深部率
リターン成功時の着弾点が“DEEP”の範囲内に収まる割合。DEEPとは、サービスラインとベースラインの中間よりもベースライン側の範囲を指す。この値が大きいほど、深いリターンができている。
※ セカンドスクリーンではなく「サーブ&リターントラッカー」からデータを取ったので(1試合ずつ数えるのは負担が重すぎたので1年分をまとめた)、記事冒頭に記載した集計対象外の試合のデータが含まれていることもある。また、1st返球数150球、2nd返球数100球に満たない選手はデータ不足として除外したため、最下位は84位ではなく77位。
リターン総合
1位 ディミトロフ(31.7%)🥇
2位 コールシュライバー(29.6%)🥈
3位 ラヨビッチ(29.5%)🥉
⋮
31位 錦織(25.0%)
1stリターン
1位 ラヨビッチ(32.1%)
2位 フォニーニ(32.0%)
3位 ムテ(31.3%)
⋮
34位 錦織(25.4%)
2ndリターン
1位 ディミトロフ(35.1%)
2位 エルベール(33.0%)
3位 ベルディヒ(29.0%)
⋮
31位 錦織(24.5%)
1stと2ndの総合ではトップ3人がいずれも片手BH。片手だとスライスリターンを多用する分、威力の代わりに深さを磨いて相手を下げる必要に迫られているのかもしれませんね。
返球率との相関も調べましたが、返すのがうまいなら深くコントロールするのも上手いかというと、そうでもありません。また、1stリターンと2ndリターンに相関がほとんどないので、1stサーブを深く返す能力と2ndサーブを深く返す能力は、別個の技術と考えたほうがよいでしょう。
ベースライン方向だけでなくサイドライン方向も含めた精度(浅く外に打つアングルリターンも効果的なはず)で評価するとまた違った結果になるのかもしれませんが、Infosysは深さしか見せてくれないのではっきりとしたことは分りません。
(3)実質深部リターン率
リターンの丁寧さ。リターン成功率にリターン深部率を掛けた。
リターンは浅くてもとにかく返すタイプの選手もいれば、ミス覚悟で深く打つタイプもいるので、総合的な技術力を表現するために「リターンが成立してかつ深い位置にコントロールできた」割合を算出しました。
リターン総合
1位 ディミトロフ(23.0%)🥇
2位 ラヨビッチ(22.3%)🥈
3位 ムテ(22.0%)🥉
⋮
43位 錦織(16.7%)
1stリターン
1位 ムテ(24.0%)
2位 ラヨビッチ(23.2%)
3位 フォニーニ(22.4%)
⋮
44位 錦織(15.7%)
2ndリターン
1位 ディミトロフ(29.3%)
2位 エルベール(25.3%)
3位 クリザン(23.9%)
⋮
52位 錦織(18.3%)
総合1位はリターン精度に続きディミトロフ。1stは飛び抜けて優れているわけではないものの、2ndが突出しているためそれに引っ張られての1位となりました。1stリターンは成功率派と精度派が入り混じっています。一方、2ndリターンはほとんどの選手が80~90%の成功率なので、精度が高い選手がほぼそのまま上位に来ました。
錦織は、精度は平均的ですが返球率が低いので、下から数えたほうが速い位置にいます。
(4)リターン位置
リターン打点のベースラインからの距離。プラスならベースラインよりもネット側、マイナスなら線審側。
※ 最下位は84位ではなく77位
リターン総合
1位 キリオス(+0.56m)🥇
2位 エルベール(+0.26m)🥈
3位 トンプソン(+0.17m)🥉
⋮
28位 錦織(-0.95m)
1stリターン
1位 キリオス(+0.05m)
2位 デミノー(-0.26m)
3位 トンプソン(-0.29m)
⋮
25位 錦織(-1.14m)
2ndリターン
1位 エルベール(+1.42m)
2位 キリオス(+1.30m)
3位 トンプソン(+0.91m)
⋮
31位 錦織(-0.65m)
キリオスが1st、2ndのどちらも平均ポジションがベースライン前方にある唯一のプレイヤーです。フェデラーもかなり前にいますが、それよりさらに突出しています。トンプソン、エルベールもかなり前寄りで、デミノーはベースライン上で不動の姿勢を貫いています。
基本的には、前に出る選手は1stも2ndも前に出て、下がる選手はどちらも下がる傾向にありますが、ワウリンカやペールのように片方だけ下がるタイプもいるようです。2ndは平均値付近にあまりドットがないので、前に出る派と後ろに下がる派に二極化していると考えられます。前と後ろどちらが有利ということはなく、自分に合った位置は人それぞれということなのでしょう。
錦織は前に出る派ですが、その中では後方寄りです。ベースライン前方で上から叩くBHDTLのリターンエースが代名詞かもしれませんが、錦織はベースライン前方と3mくらい下がった位置の2か所でリターンを打ち分けているので、平均的なポジションはそれほど前ではありません。
(5)リターン球速
1stリターンと2ndリターンを合わせたリターンの球速。速いほど相手のサーブを強く打ち返す傾向が強いと言える。
※ 最下位は77位
平均
1位 バシラシビリ(121.4km/h)🥇
2位 クリザン(120.9km/h)🥈
3位 アンダーソン(119.9km/h)🥉
⋮
5位 錦織(113.3km/h)
FHリターン
1位 クリザン(129.7km/h)
2位 アンダーソン(129.3km/h)
3位 バシラシビリ(123.1km/h)
⋮
9位 錦織(117.5km/h)
BHリターン
1位 バシラシビリ(119.8km/h)
2位 チリッチ(112.22km/h)
3位 クリザン(112.17km/h)
⋮
11位 錦織(109.1km/h)
最速リターナーはバシラシビリ。ラリー戦では常に全力でハードヒットしているイメージがありましたが、リターンもひたすら強打していたんですね。クリザンは自分のサーブが叩かれる代わりに相手のサーブも叩き返す面白いタイプ。アンダーソンはサーブもリターンも超高速のきわめて珍しいビッグサーバーです。
調べていないのではっきりとしたことは言えませんが、近似線の上側のほうが上位選手が多いように見えるので、FHとBHのリターン球速差が小さいほうが有利なのかもしれません(差が大きいとBHを狙えばゆるいリターンを誘いやすい)。
錦織は9項目にして初めて10位以内にランクイン。実はかなり強めにサーブを返す選手です。「もう少しゆっくり返すように心がければ返球率も上がるのでは」と思いましたが、返球速度と返球率に相関関係はありませんでした。
ちなみに、西岡の2ndサーブが平均127km/h程度です。
ラリー部門
(1)長さ別ラリー勝率
ラリーの長さを0~4本(短)・5~9本(中)・10本以上(長)と区切ったときの、帯域別のラリーでのポイント獲得率。
※ 10本以上のラリーはプレー数100ポイント未満の選手を除外したため最下位は56位。それ以外は77位
0~4本のラリー
1位 イズナー(55.3%)🥇
2位 ジョコビッチ(54.7%)🥈
3位 ナダル(54.6%)🥉
⋮
50位 錦織(48.6%)
5本以上のラリー
1位 ナダル(59.2%)🥇
2位 バシラシビリ(56.4%)🥈
3位 フォニーニ(55.8%)🥉
⋮
8位 錦織(53.4%)
5~9本のラリー
1位 ナダル(58.7%)
2位 バシラシビリ(56.6%)
3位 フォニーニ(56.5%)
⋮
10位 錦織(52.8%)
10本以上のラリー
1位 ナダル(60.3%)
2位 西岡(57.7%)
3位 ベレッティーニ(56.7%)
⋮
6位 錦織(55.3%)
どの帯域でも顔を出すナダルが、やはり突出したパフォーマンスを発揮していたことがわかります。ナダルとジョコビッチはストローカーですが、ロングラリーにばかり強いわけではなく、実は短いポイントを多くものにしてその地位を築いている選手です。ジョコビッチに至っては、ロングラリーがそれほど得意ではありません。
10本以上のラリーはそもそもの発生頻度が低く、一部の選手以外は十分な数のデータが揃っていないので、参考程度に思っておいたほうがいいかもしれません。
錦織は5本以上のラリー戦になればTOP10上位と言って差し支えない強さを発揮しているのですが、圧倒的多数を占めるショートラリーで負越し。今季の苦戦のほどがうかがい知れます。
そして西岡。錦織に憧れを抱いているようですが、返球率といい錦織にはない強みを持っているので、これを自信にしてほしいところです(ロングラリーが200回を超えているので、信憑性は一応あるでしょう)。
(2)サーブ後ラリー勝率
サービスゲームのラリー勝率。サーブを返されたときに限ったポイント獲得率を示す。
サーブ後総合
1位 ジョコビッチ(60.8%)🥇
2位 ナダル(60.6%)🥈
3位 フェデラー(58.2%)🥉
⋮
36位 錦織(53.2%)
1stサーブ後
1位 ベルディヒ(69.5%)
2位 ソネゴ(66.8%)
3位 ジョコビッチ(64.1%)
⋮
27位 錦織(58.3%)
2ndサーブ後
1位 ナダル(56.8%)
2位 ジョコビッチ(54.3%)
3位 ラモス=ビノラス(53.4%)
⋮
61位 錦織(44.0%)
総合上位をBIG3が占めました。他の項目ではこのような表彰台の独占は生まれていませんから、BIG3とその他選手の差は、サーブ後の展開に顕著に現れると言えるでしょう。3人の中でも特に優秀なのはジョコビッチ。彼のサーブは年々改良されているという評価も聞きますが、今季は1st、2ndどちらからでも優勢にポイントを取れています。
錦織は、サーブ単体で見れば2nd > 1stですが、返されたあとに限ると1st > 2ndです。錦織はラリーが長いほうが得意で、1stより2ndからのほうがラリーが長引きやすいはず、と考えると不思議なポイント獲得率です。被リターン速度はそれほど高速ではないので、サーブが叩かれ放題ということではないでしょうから、相手リターンの配球や軌道に苦しめられていることが考えられます。
(3)リターン後ラリー勝率
リターンゲームのラリー勝率。サーブを返したときに限ったポイント獲得率を示す。
リターン後総合
1位 錦織(55.4%)🥇
2位 バシラシビリ(54.6%)🥈
3位 ナダル(54.4%)🥉
1stリターン後
1位 バシラシビリ(52.3%)
2位 錦織(50.2%)
3位 コールシュライバー(49.5%)
2ndリターン後
1位 カレーノ=ブスタ(63.7%)
2位 錦織(63.2%)
3位 ナダル(61.8%)
ついに錦織が別立てにしなくてもランクインしました。1st、2nd両方でのTOP3入りは1人だけです。1stリターン後ラリー勝率50%超というのは、リターンされると、たとえそれが1stサーブであっても長期的にはサーブ側が不利ということを意味します。錦織は相手のサーブを返せないけれど返せば世界一獲得率が高い、リターンゲームのラリーに特化した選手と評せそうです(リターン成立時のポイントすべてが対象なので、見かけ上はラリーになっていないリターンウィナーも含む)。
バシラシビリもかなりの勝率です。リターン球速といい、長さ別ラリー勝率といい、意外と錦織と似たところがある選手なんですね。
フォアハンド&バックハンド部門
ウィナー・UEには、グラウンドストロークだけでなく、アプローチ、(グラウンド)スマッシュ、ドロップ、パッシング、(ハーフ)ボレー、リターン、ロブ、背面、股抜きなど各種ショットがすべて含まれている。
(1)FHウィナー&UE率
エース・DFを除いたポイントに占める、FHウィナーとUEの割合。FHショット1回あたりのウィナー・UE率ではない点に注意。
ウィナー-UE率
1位 ラオニッチ(+7.4%)🥇
2位 ベルディヒ(+6.8%)🥈
3位 フェデラー(+6.3%)🥉
⋮
30位 錦織(+1.3%)
ウィナー率
1位 ラオニッチ(24.7%)
2位 ベルダスコ(23.0%)
3位 ベレッティーニ(22.8%)
⋮
41位 錦織(18.3%)
UE率
1位 ファビアーノ(11.5%)
2位 ケマノビッチ(12.5%)
3位 エバンス(12.6%)
⋮
34位 錦織(17.0%)
ラオニッチが飛び抜けたウィナー量で、ウィナーと総合評価でトップに立っています。これだけFHがいいならもっと順位上がれそうな気もしますが、ドットの色を見ると、ウィナーの多さよりもUEの少なさのほうが重要そうです。
フェデラーはFHが不調なときも散見されたものの、通年で見るとかなりの高パフォーマンスです。ナダルは意外とウィナー、UEとも多いところに位置しています。錦織は並より少しいい程度です。
(2)BHウィナー&UE率
エース・DFを除いたポイントに占める、BHウィナーとUEの割合。BHショット1回あたりのウィナー・UE率ではない点に注意。
ウィナー-UE率
1位 ハーセ(-0.8%)🥇
2位 ナダル(-1.0%)🥈
3位 クライノビッチ(-1.3%)🥉
⋮
7位 錦織(-3.1%)
ウィナー率
1位 バブリク(17.01%)
2位 ペール(16.97%)
3位 クライノビッチ(12.9%)
⋮
7位 錦織(10.4%)
UE率
1位 ナダル(8.7%)
2位 ハーセ(9.5%)
3位 ケマノビッチ(10.1%)
⋮
31位 錦織(13.5%)
BHはFHより球速が遅いのが普通で、スマッシュやドライブボレーも打たないのでウィナーはどうしても少なくなります。が、ペールとバブリクの2人だけは異様にウィナーを量産していたようです。指標の計算式上、BHで打てば打つほど数字は伸びやすいですが、それにしてもずいぶんな水準ですね。ペールはある程度高い数字かなと予想していましたが、もう1人いるとはまったく思っていませんでした。ハースとクライノビッチは完全に伏兵です。
FH同様にウィナーよりUEを抑えるほうが重要そうです。中でもナダルはUE量が極小。FHが強すぎて皆BHにボールを集めがちですが、これではほとんどミスは期待できないでしょう。
錦織は今季、BHDTLやアングルが火を噴いていた印象はあまりありませんがなかなかの位置に付けています。ちなみにウィナーUE総合で錦織のすぐ下には、同じくBHで知られるガスケがいます。
(3)総合ウィナー&UE率
エース・DFを除いたポイントに占める、FHとBHのウィナー率からUE率を引いた値。ショット1回あたりのウィナー・UE率ではない点に注意。
総合ウィナー-UE率
1位 ナダル(+4.3%)🥇
2位 ラオニッチ(+4.0%)🥈
3位 フェデラー(+3.1%)🥉
⋮
12位 錦織(-1.7%)
総合ウィナー率
1位 ペール(38.2%)
2位 バブリク(32.5%)
3位 ラオニッチ(32.4%)
⋮
19位 錦織(28.7%)
総合UE率
1位 ファビアーノ(22.3%)
2位 ケマノビッチ(22.6%)
3位 ナダル(23.1%)
⋮
27位 錦織(30.5%)
総合評価では当然、FHでもBHでもウィナーUEのバランスに優れた選手がランクインしました。ランキング上位選手は多ウィナーよりも少UE傾向が強いですね。そんな中、少UEでしかもウィナー>UEのフェデラー、ナダル、ラオニッチはさすがです。ラオニッチはこれだけ良いのだからケガさえなければ上位に戻ってこられそうなものですが、それが一番難しい要求なのでしょうか……。
錦織は、BH重視の多ウィナー寄りで、UEとのバランスも比較的良好。ケガでランキングこそ落としていますが、パフォーマンス自体はTOP10に劣りません。
ネットプレー部門
(1)ネットポイント獲得率
ネット前に出たときのポイント獲得率。浅い返球へのスマッシュや、相手のパスやロブなどでポイントが終わる場合も含むため、必ずしも自分のボレーを伴うわけではない。
ネットポイント獲得率
1位 ナダル(76.7%)🥇
2位 ファビアーノ(74.4%)🥈
3位 トンプソン(72.9%)🥉
4位 フォニーニ(72.8%)
5位 ポピリン(72.3%)
⋮
12位 錦織(69.8%)
ほとんどの選手が65±10%の範囲に収まる中、ナダルだけが獲得率3/4を超えています。頻度が低いのでネットに出る機会を厳選した結果ではありますが、「ナダルのネットプレーはうまい」説は本当でした。ネットプレーが美しいと称えられるフェデラーも獲得率は高いほうですが、ネットによく出る分だけ失うポイントも多いため、突出はしていません。
バブリクはなぜこのパフォーマンスでネットに出たがるのかよく理解できませんね……。
(2)ネットプレー頻度
ネット前に出ることが可能だったポイント数に占めるネットプレー回数。「ネット前に出ることが可能だったポイント」とは、トータルポイントから両者のエース、DF、リターンエラーを引いた数、つまりはリターン成立数。
ネットプレー頻度
1位 カルロビッチ(65.2%)🥇
2位 ラオニッチ(38.0%)🥈
3位 バブリク(35.1%)🥉
4位 F. ロペス(30.7%)
5位 フェデラー(24.7%)
⋮
29位 錦織(17.1%)
20%を境に高頻度の選手が急減する中、カルロビッチが1人振り切れた頻度でネットに出ています。ネットプレー頻度50%超ということは、テニスの基本であるはずのベースラインポイントのほうが少ないということです。あのサーブがあればサービスゲームでは即座にネットへ詰めてポイントを決めるのが効率的と判断するのは理解できますが、ここまでの頻度だとリターンゲームでも相当前に出ているのでしょう。
往年のSVヤー時代を知るフェデラー、フェリロペもかなりの高頻度プレイヤー。フェデラーの場合、かなりきれいに25%に近いので、「4回に1回は前に出る」というイメージをもって試合に臨んでいる可能性もあります。ネクストジェンではチチパスが貴重な選手ですね。
ちなみに、ネットプレー頻度は対数正規分布しているので、対数目盛にするときれいにバラけます。
(3)ネットプレー迎撃率
相手がネットに出てきたときのポイント獲得率(100%-相手ネットポイント獲得率)。ネットプレー潰しのうまさを示す。
ネットプレー迎撃率
1位 ファビアーノ(43.4%)🥇
2位 バシラシビリ(42.6%)🥈
3位 フェデラー(42.1%)🥉
4位 バブリク(40.9%)
5位 フォニーニ(40.6%)
⋮
25位 錦織(37.1%)
上位陣のほうがネットプレーもネットプレー潰しもどっちも上手いだろうと思っていたら、伏兵ファビアーノが優秀という意外な結果になりました。バシラシビリはネットポイント獲得率から大きくジャンプアップ。強打がパッシングによるポイント獲得率に利いていると考えてよさそうです。
フェデラーは「若者はもっと前に出ろ」みたいなことを言っていましたけど、ポジショントーク感がありますね。ヒューイットを先駆けとするニューボールズ世代が90年代のSVヤーを駆逐したと言われていますが、そのころの狩りの記憶を持つ選手からすれば、ネットプレーに不慣れな若手はいい獲物なのかもしれません。
バギーウィップショットで相手を避けながらパスで抜けるナダルはもっと上かと思っていましたが、意外とそうでもありません(それでも十分うまいわけですが)。
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