グランドスラムのデータでわかるサーフェス特性 (4)ラリーとエラー編
Q. 芝ではウィナーが決まりやすいから、その分エラーは少ないよね?
A. そんなことはない。ウィナーは変わらず、UEが減ってFEが増える。
これまで過去3回の記事で
- サーブが最も強力になるのは全豪で、芝で特に有効なわけではない
- ネットプレーの成功率は芝でもクレーでも一定
- ウィナーの頻度はサーフェスの種類に左右されない
ということを示してきました。なら、エラーはどうなのか? という検証が今回のテーマです。
UE頻度はサーフェスによってバラバラ
大会ごとのエラー頻度を比較するため、ラリーになったとき、ポイントの終わり方がUEだった割合がどれくらいなのかを大会ごとに並べたのが下のヒストグラムです。
ウィンブルドンだけ明らかに左寄りで、UEがあまり発生してないことが読み取れます。
ラリー中のUE発生率 平均値
全豪 19.6%
全仏 18.5%
ウィンブルドン 16.6%
全米 20.5%
全豪・全仏・全米の3大会は平均値が全豪±1%の範囲内にほぼ収まっていますが、ウィンブルドンだけ3大会中最低の全仏から2%ほど離れています。この値が誤差で説明できてしまうのか検定を行うと、有意差があると言えない組合わせは全米と全豪。つまり、ラリーがUEに終わる頻度の序列は
全豪 = 全米 > 全仏 > ウィンブルドン
最もUEが少ないのが芝です。
前回のウィナー編では、ウィナーの頻度はどの大会もほぼ差がない(全米だけわずかに少ない)ことが明らかになりましたから、UEの差はFEの影響が大きいと判断できます。ウィナー、FE、UEのどれでもないポイントは存在しないので、ウィナーが同じでUEが少ないなら、FEが多いのは当然ですね。
UEは少ない。ならばFEは?
そういうわけで、FEがどれくらい発生しているのかも比較してみます。
全豪・全仏・全米は山のピークが60%台前半ですが、ウィンブルドンだけ60%台後半。70%を超える試合の数も多めに見えます。
ラリー中のFE発生率 平均値
全豪 63.7%
全仏 64.4%
ウィンブルドン 66.1%
全米 63.5%
FE頻度の平均値を求めると、全豪・全仏・全米は64%前後に固まっていて、やはりウィンブルドンだけ高め。検定*すると、ウィンブルドンのみ他の3大会と有意差がありました。よって、FE発生頻度はこういう序列です。
ウィンブルドン > 全仏 = 全豪 = 全米
* ウェルチのt検定を採用。95%水準で有意かを検定した
芝は難しいサーフェス?
ウィナーの量はそのままにUEが減り、FEが増えているということは、他サーフェスならミスせず続く(ミスしてもUEとして記録される)ショットが高難度化してFEになっていると考えられます。芝のコート上で起きているのは、言うなればUE→FEのシフトです。
ここで、ラリーではなくサーブに関する芝の特徴を振り返ってみましょう。サーブ編の記事では次の点を指摘しました。
ラケットが届いたときにボールをコントロールするのは芝のほうが難しい
サーブに触れる割には返しにくいサーフェス
エースが特別に多いわけではないのにリターンエラー(リターンエラーはほぼすべてFE)は多いという特徴は、今回検証したラリー面の特徴とも整合的です。
ハードやクレーではミスしてもUEと判定される程度にラリーを続けやすいショットが芝では減るのだとしたら、その難度の高さこそが、ウィンブルドンだけがBIG4以外の優勝を阻み続けている理由なのかもしれません。
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