見出し画像

デカップリングとは?多分野におけるそれぞれの意味

言葉としてのデカップリングは、密接な関係にあるAとBを切り離し、非連動的に扱うという意味だ。現代社会では、とくに環境・金融・農業の分野で「分離」や「切り離し」を表す専門用語として扱われている。

切り離されるものは専門分野によって異なる。環境においては経済成長と天然資源の利用・環境への影響、金融においては先進国経済と新興国経済、農業においては生産と所得がデカップリングの対象だ。

環境分野のデカップリング

環境分野でデカップリングが推進されているものは、経済成長とエネルギー消費である。エネルギー消費は天然資源の利用につながっている。

従来、経済成長とエネルギー消費は比例の関係にあったが、デカップリングは経済成長を推し進めながらも、天然資源や環境の保護を目指す考え方だ。いわば経済成長と環境負荷を切り離したものである。環境分野におけるデカップリングの成果の定義は、「経済成長の伸び率を下回る環境負荷の増加率」となる。

ドイツでは、過去30年の間、日本以上に高い経済成長を続けつつ、一次エネルギー消費や温室効果ガスを減らしている。環境分野におけるデカップリングの実現は、社会の仕組みを変え、経済成長のあり方を改めることに繋がり、グリーンエネルギー革命とも言い換えることができる。

金融分野のデカップリング

金融分野におけるデカップリングは先進国と新興国の経済関係において用いられる。米国で発生したサブプライムローン問題を論じる際に多用され、広く知られるようになった。

金融のデカップリングは、基本的に先進国経済と新興国経済の非連動、つまり切り離された状態を指す。先進国の景気が停滞する一方、新興国が内需によって先進国と無関係に高成長しているような局面のことだ。また、この逆で先進国の好景気が新興国の停滞経済を支える現象を「逆デカップリング」と呼ぶこともある。

金融分野におけるデカップリングが注目を集めたのは、米中対立によるところが大きい。ドナルド・トランプ米大統領(当時)が米中関係のデカップリングを提唱していた。中には「米中のデカップリングは幻想にすぎない」と指摘する人もいる。実際、21年時点でも中国は米国から大量の穀物を輸入しているなど、両国の相互依存度は高い。もはや「デカップリングには手遅れ」であり、現在起きているのはデカップリングではなく「各国が中国への一極依存に伴うリスクに気付いただけ」主張もある。

農業分野のデカップリング

農業分野におけるデカップリングとは、生産が増えれば所得も増加するといった、生産と所得の関係を切り離すことを意味する。

具体的には、本来、農作物の生産に応じて農家が得るはずの所得を、生産とは関係なく政府が直接、農家に支払う制度のことだ。この制度は、1980年代にヨーロッパで深刻化した農作物の過剰生産が原因で、アメリカとの間で貿易摩擦が起きたことに端を発している。

日本では「直接的所得補償政策」とも呼ばれており、政府主導の政策の1つである。わかりやすい例が、米農家の減反に対する奨励金政策だ。稲作を行わない代わりに、その農家に所得を補償するものだ。

市場を通さない直接支払い制は、増収を見込むがゆえの増産に迫られなくてもいいという一面を持っている。世界的に農作物の過剰生産と価格の国際化が進むなか、国内の農作物の価格と農家の収入を保護する性質が特徴的だ。

ただ、農業に対して政府が大きく関与することは、競争の自由を妨げていることにもなる。仮に政府が関与することを辞めて、競争の自由を加速させれば、今よりも品質が良い野菜をより低価で得られるかもしれない。このような問題点とのバランスを見ながら政策を進めていく必要があり、一筋縄ではいかない問題となっている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?