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【森の家④】〜古家をひとつ買いました〜

3年半続いた物件探しは、気がつくと限界集落を中心に最終段階へと向かっていた。別荘地ではなく、置き去りになったニュータウンでもなく、ゆっくりと衰退に向かう昔ながらの里山の集落。まだ重機も何もなかった時代に、手作業で切り拓かれた段々畑があり、自然本来の地形に抗わない謙虚な佇まいが心地よかった。

過疎地の集落を見ていくと、集落(区)にもそれぞれに色があり、どんな集落のどこに住むかで、その後の暮らしのあり方は随分と違うものになりそうだった。たとえば集落内の民家10軒のうち、人が住んでいる家が残り一軒だけの集落(区)もあれば、20ほどある世帯が今でもしっかりと結束し、まだまだ活力を失っていないという集落もある。

同じ地域内にありながら、消滅していく集落と生き残る集落があるのはなぜなのか、何が違うのか。消滅(に向かう)集落の方が、価格交渉はしやすいかもしれないが、暮らしやすさはどうなのか、など。そうした問いに定型的な答えはなく、地元の人の話を聞いたり、周辺を歩き回ったりしながら、私なりいろいろと推測をして、何度も行きつ戻りつしながら考えた末に、ようやく最終目的地へと辿り着くこととなった。

限界集落での物件探しは、結論から言えば、役場から紹介してもらった世話役の方に足がかりを作っていただいた。とはいえ、役場の紹介だからといって何事もすんなりいくわけではなく、また、私が最後に選んだ場所は、結局のところ訪ねたどの役場とも関係がなく、世話役が住んでいる集落(市内)からも外れいた。

私の経験から言うと、世話役の人はありがたい存在であると同時に、場合によっては移住を踏みとどまらせる障壁ともなりうる存在だった。なぜなら彼らは、その地域束ねる人、ある種の権力者であることも多く、ゆえに一歩間違えば、その人の匙加減ひとつで新参者の暮らしなどどうにでもできてしまうからだ。

物件探しを始めて2年が過ぎた頃、私は候補地の一つとしていたある地域の役場で、所長から自治会長さんを紹介してもらったことがあった。大変に礼儀正しく丁寧な方ではあったが、最初にお会いしたときに奇妙な感覚に陥ったことを覚えている。

マシな言い方をすれば「面接を受けている」感じ。悪い言い方をすると「値踏みされている」ような感じがした。

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