贈与ではなく、そもそも返礼から始まったこと。
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贈与ではなく、そもそも返礼から始まったこと。

中村安希

一昨年から続く『お肉配り』によって日常的に考えざるを得なくなったのが、「贈与」「返礼」「交換」の意味についてです。ただ、ここで「贈与とはなんぞや」という話を展開しだすと、この記事だけで一万字を超えてしまうので、ここでは「贈与=誰かに物やサービスを無償で贈り与えること」と簡単に定義づけて話を進めます。その定義からしたら「お肉配り」は、表面上は「贈与」に該当する行為と言えるかと思います。ただ、なぜそんなことを、つまりは「肉の贈与」なんてことを始めたのかと聞かれると、それはまあ馬鹿みたいに単純な話ですが、師匠だった栗田さんが「配れ」と言ったからです。でももう少し突き詰めて考えてみると、そもそも論として、このお肉配りって実は「贈与」ではないんですよね。少なくとも「贈与」としては始まっていない。

* ずっと前から贈与されてきたお野菜

お肉配りを始めた当初、押し寄せてくるお肉の山を「とにかく配れ!」と師匠に言われ、真っ先に送ったグループの中に「早川さん家」がありました。早川さんと知り合ったのは10年くらい前になります。きっかけは仕事でしたが、娘さんたちが私と同世代だったこともあり、その後もやりとりが続いていて今に至ります。福井県のお宅に泊めていただいたことも何度かあり、登山に誘ってもらったり、奥さんの畑(家庭菜園の域は完全に超えています)へ収穫に行かせてもらったり、逆に娘さんが家へ遊びにきてくれたこともありました。そんな早川家から、当時は埼玉県にあった私のアパートへ宅配便が届くようになったんです。箱の中身は採れたての野菜。奥さんの畑で収穫した無農薬の野菜や、つきたての餅(ヨモギ餅やトチ餅)、手作りの梅干しや味噌、切干大根や干し芋などがいつもたくさん入っていました。滋賀県に引っ越した後も、お野菜をずっといただいていて、名前を初めて聞くような珍しい葉物野菜から、にんにく、しょうが、秋には大量の里芋、さつま芋、栗、柚子などが届きます。

* やっと少しお返しができる

毎年毎年、しかも多い時には年に数回も贈与されるお野菜……。もちろん、ありがたいことですし、嬉しかったですよ。なんと言っても美味しいですから。でも同時に、こんなにいただいてばかりでいいのか……、という思いもありました。いくら図太さ勝負の私とは言え、ただ無邪気に喜ぶばかりで何も考えずに受け取っていたわけではなかったんですね。ここが贈与の難しくも面白いところ。贈与によって生じる返礼圧力や負債感を巡っては、これまでにも様々な議論がありましたし、『贈与論』のマルセル・モースをはじめ、多くの文化人類学者の興味を引いてきたことにもうなづけるわけです。とまあ、その議論は置いておくとしても、贈与ってそんなに単純なものではないんです。
では私自身が「贈与される野菜」によって何らかの圧力を感じていたかというと、必ずしもそういうことではなかったのですが(早川さんが具体的な返礼を期待していないことは知っていたので)、ただ、「さあ、みんなにお肉を送ろう」と思ったときに、真っ先に頭に浮かんだ宛先の一つが早川家であったことは確かです。そして、やっと少しお返しができるな、とその時に思ったのも事実なわけです。

* そもそも、私が始めたことじゃないから

お肉配りは、私が思いついて始めたことではありませんでした。栗田さんに言われて始めたことです。でも実は栗田さんは、最後に背中を押しただけで、私が「お肉配り」を始める下地はそのずっと前から整えられていたのだと思います。さあ、お肉を配らなくちゃ!となった時に、割とすんなりと始めることができた。先行例があったからです。早川さんがお野菜を箱に詰めて送ってくれていたように、私はお肉を箱に詰めてただ送ればよかっただけでした。栗田さんが近所の人たちにお肉を配り歩いたように、私も近所の人を見つけてお肉を配ればよかったわけです。ね、真似するだけって簡単でしょ?(笑)

そして何より、私には早川さんをはじめとする「すぐにでも送りたい配り先」がありました。あの人も、この人もって、次から次へと見つけられた。あの人にもお世話になったなとか、ずっとできてなかったお礼ができるといいなとか、要するに、お返ししたい人がいっぱいいたんです。だから益々思うわけですよ。お肉配りって、私が始めたことじゃないし、結局のところ贈与じゃないのよねって。ほぼほぼ返礼。返礼から始まって、今もずっと続いているだけ。返礼したい人、まだまだたくさんいますから。
(ただし、鹿肉もらっても迷惑だろうな……と思う人も多いので、なかなか声がかけられない人を多数残したまま今でも悩んでおるわけですけが…)

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