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らくがき帳(定期購読マガジン)

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#空き家

【森の家④】〜古家をひとつ買いました〜

3年半続いた物件探しは、気がつくと限界集落を中心に最終段階へと向かっていた。別荘地ではなく、置き去りになったニュータウンでもなく、ゆっくりと衰退に向かう昔ながらの里山の集落。まだ重機も何もなかった時代に、手作業で切り拓かれた段々畑があり、自然本来の地形に抗わない謙虚な佇まいが心地よかった。 過疎地の集落を見ていくと、集落(区)にもそれぞれに色があり、どんな集落のどこに住むかで、その後の暮らしのあり方は随分と違うものになりそうだった。たとえば集落内の民家10軒のうち、人が住ん

【森の家③】〜物件探しの長い道のり〜

和歌山の友人宅で目にした「あの日の風景」を追いかけて、私はこの3年半、物件探しを続けてきた。とは言え、初めから「何をどう探せばいいか」が分かっていたわけでは全然なく、遠回りもたくさんしたし、行き詰まったことも何度かあった。 またそれ以前のこととして、私は自分自身が「何を求めているのか」を実は分かっていなかった。当たり前のことではあるが、どんな選択肢があるのかも分からないうちに何かを正しく選び取ることはできないからだ。 過疎地、空き家、地方、田舎、自然豊か、森の暮らし、中山

【森の家②】〜限界集落に住を求めて〜

八月の昼下がり、古い民家の玄関先に雑種犬が腰をおろしている。犬はくつろいでいるが、その鼻は家の前の森から漂う複雑な匂いを嗅ぎ取っている。その耳は辺りに広がる山々から雑多な音を拾い続ける。日に数回だけ、集落の人や郵便屋さんが近くを通りがかったりすると、首を伸ばし、耳を立て、そちらの様子をじっとうかがう。 犬は時々、どこかへ出かける。近所の森の腐葉土の下に小さな獲物を見つけに行ったか、裏の藪のミツバチの巣箱を巡回ついでに嗅ぎに行ったか、何をしてきたかは本人にしか分からない。犬は