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『ゲゲゲの謎』を観た

2023/12/22(金)


『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を観た。
 SNSでの口コミで人気が広がっている映画である。
『ゲゲゲの鬼太郎』アニメ6期のエピソード0でありつつ『墓場鬼太郎』の1話にも繋がるように作ってあり、地方の権力者一族のドロドロした相続争いやおぞましいしきたりを描いた「因習村ホラー」の傑作であり、鬼太郎の父と水木青年が反駁しつつしだいに心を通わせていくブロマンス要素も素晴らしい、という具合だ。
 私は天邪鬼なのでネットの「大げさ感想」にはやや食傷ぎみだけど、交流がある人や好きな人が強火の感想を連打していると「じゃあ観てみるか」となるのも事実である。
 私の小説に、深く思い入れた熱い感想をいただければ、そりゃ部屋の中央でピコピコと踊るほど嬉しいしね……。
 人の「大げさ感想」にウッとなるとき、それは何にひるんでいるのかは、もう少し分解して考えてみる必要があるだろう。どういうはしゃぎ方に抵抗があるのか。それは内容か、態度か、はしゃいでいる人への感情か。

 で、結論から言うと傑作でした。
「大げさ感想」にひるんでしまう、私と同じタイプの困ったやつらも安心して観に行ってください。粗は多いけど突出した魅力があって刺さる人には異常に刺さるという感じでもなく、絵も話も気合いがみなぎっていて普通にすごく面白かった。
 太平洋戦争とは、戦後の高度成長とは、どんな欺瞞と犠牲によって支えられていたのかを、テンポよいアクションとサスペンスの中で辛辣に活写する物語は、大人の鑑賞に見事に堪えうる内容だと思う。
 鬼太郎マニアじゃなくても大丈夫です。私も大してマニアじゃない。やっぱり映画って巨大な博打なので、本当の本当に初見では何もわからず面白くないという作品は作らない……作れないのだと思う。
 人が殺される描写は血がドバー、顔がグチャーとなってちょっとゴアであり、ちびっこは泣くかもしれない。そこだけは気をつけてください。PGー12指定(12歳以下は禁止はしないけど保護者の指導が要る)は納得。

 ゲゲ郎ってネットの人たちがつけた綽名だと思ったら、名乗らない謎の男に劇中で水木青年がつけた公式ネームだと知って笑った。
 この水木、ハードボイルドなキャラで私は好きです。戦場で地獄を味わい、帰ってきて辛酸を舐め、虚無に囚われているゆえの如才なさと適度な道徳心のなさ、そこから発せられる色気……そりゃ、沙代もたちまちすがりついてしまう。
 冒頭で草履を直してもらう沙代が水木にいっきに心を奪われた場面で「ああ……もうこの先には悲劇しか見えない……」と嘆息しましたが、予想を超えて悲劇だったのでビビった。重い。沙代ちゃん重い。物語上の役割も、人物としての性格も、待ち受ける運命も、すべてが重い。激重ヒロイン。
 基本的に女性キャラは悪役か悲劇の人しかおらず、令和の映画としてもう少し何とかならんかったかという批判も聞こえますが……昭和前半とはそういう時代だった、という物語上の必然はあるとは思う。
 説明せずにさりげなく明示された設定や人物描写がたくさんあり、大人っぽい演出でした。私はぜんぜん拾えなかったほうだと思う。複数回観て考察するのがはかどる映画でありましょう。私もかしこい人たちの考察を参考にしてもう一度観てみたい。

 基本的にシニカルで流されがちな水木が、終盤のある場面で「あんた、言うことがつまんねえな」と溌剌とキレるところ、すごく好きです。そこでキレるんだ、そいつにそう言われるのだけは許せないんだ、なるほどな、と。あの場面に水木が本来備えていた勇気と善性が詰まっていて、劇場のシートで微笑みながらちょっと涙ぐんでしまった。

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