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おばあちゃんの梅干し

好きな食べ物を聞かれたら梅干しと答えたりしていたくらいに、小さい頃から梅干しが好きだ。

中学生の時初めて携帯を持たせてもらった。
同級生の女の子たちが、メールアドレスをペットの名前やスイーツ、響がかわいいアドレスにしている中、私のメールアドレスはumeboshi@だった。今思えばなんとも渋い中学生だ。

私をこんなに梅干し好きにしたのは、おばあちゃんの梅干し。

全然酸っぱくもなく、でも甘いわけでもなく、ちょうどいい塩梅。
おばあちゃんの家に遊びに行くたびに瓶でもらってくるその梅干しが、本当に楽しみだった。

おばあちゃんが亡くなってからもう20年ほどが経つ。ついこの間のように感じるし、最後に会った時のことは今も忘れない。

それからずっと一人暮らしをしていたおじいちゃんだったけれど、ついに家を出ることになった。
少しずつ片付けが進んでいる中、「梅干しが見つかった」との知らせがあった。

おじいちゃんに会いに行った時、20年ぶりにおばあちゃんの梅干しと対面した。
そこには、樽いっぱいの梅干しがぎっしりと詰められていた。

正直私はおばあちゃんのことは思い出しても、おばあちゃんの梅干しのことを思い出すことはなかった。

それでも一粒食べると、全部覚えている。

この味のこと。20年以上も経つけれど何も変わらない、いい塩梅。
これをつけたおばあちゃんのこと。この梅干しが、眠っていた思い出を呼び起こしてくれた。
食べ物の味で思い出が蘇るって、こういう感覚は初めてでなんだかしんみりと、感動していた。
その日はおばあちゃんの命日だったから、きっと思い出して欲しかったんだと思う。

保存食である梅干しだからこそ、おばあちゃんが生きていたあの時のまま、あの時の味に出会えた。
私はなんだか感動してしまって、将来梅干しをつけてみようとひそかに思った。この梅干しのレシピはないけれど、おばあちゃんの味に近づけられるように、何十年も残る思い出の味を作ってみたい。

私も少しおすそ分けをしてもらって、おばあちゃんの梅干しは私と一緒に東京にやってきた。
今日も思い出とともに、大事に梅干しを一粒いただく。

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