正確な音程を取ること〜ル・セラフィムのCoachellaを機にして〜
はじめに
SNSで話題のル・セラフィムCoachellaパフォーマンス。
良くも悪くも話題になるのは、人気さゆえでしょうか。
私はK-popについて、超有名どころ女性グループの歌い方をチェック(職業癖だね)するくらいで、特段のK-popファンではない。
なので、彼女たちのCoachellaパフォーマンスについては、SNSで話題となった切抜き動画しか観ていない。
あくまでCoachellaパフォーマンスを機にこのnoteを書いていること、そして切抜き動画を彼女たちの何かを判断する材料にするつもりは全く無いことを事前に断らせて頂きたい。
話題に至った「歌唱力」
さて、今回悪い方向で話題となった中心的ワードは「歌唱力」で間違いないでしょう。
声楽家の私にとって、あれだけのダンスをしながら歌うことは「凄すぎる...私には到底できん。」と感嘆する一方で、韓国の音楽番組の1位を獲った時のアンコール歌唱において、被せ無しの歌声を聴いて、正直むず痒い気持ちになった事もある。
もちろん、サクラはプロデュース101の頃から相当な努力を続けてきたのを知っているし、実際成長している。カズハはバレエっ子で歌の経験が少ないのも知っている。
そんな背景も多くのK-popファンたちは知っていて、良識あるK-popファン達は大っぴらに批判してこなかったのでは無いだろうか?
しかし、今回のCoachellaでは被せ無しな上に、ダンスも激しく、またル・セラフィム本人たちも高揚した事により、発声の技術に関して言えば、「本当に身についているところ」だけが顕著になったのだと感じた。
きっとボーカルラインのメンバーを筆頭に、良い感じに歌えてる箇所はもっとあったと想像するが、この顕著となった部分だけが切抜き動画となり、「今までメンバーそれぞれの背景に気を遣って言わなかったけど、さすがに...!」と言う人たちで溢れ返ってしまったのではないかと思う。
彼女たちの歌唱に足りない要素
私は声楽家なので、歌や発声を成長させることがどれだけ大変なことか良く知っている上で、彼女たちの歌唱力で特に足りない要素は、「音程を正確に取ろうとすること」だと思う。
グループの良いところは、歌が得意なメンバー、ダンスが得意なメンバーなど、お互いに補いながら自分の強みでグループに貢献できるところだ。
しかし、歌に関して言えば、ボーカルラインでないメンバーが、ボーカルラインの様に魅力的な声であったり、声量であったり、高音が出たり、高い発声技術を要さないまでにしても、音程は正確でないと音楽にならない。
そして、例えどんなに良い声をしていても、音程が取れていないと単純に歌が上手に聞こえなくなる。
正しい音程は、音楽をする上で絶対条件。
音楽番組のアンコールで、音程を取れる子や、音程を取ろうと努力している子が、喉や体の不調、技術的に難しく音程が届かないなどは聴いていれば分かるし、そんな日もあるよねと同情する。
しかし、先に書いた「むず痒さ」はこれとは違う。
「音程を取ろうとしていない」あるいは「音程の取り方を知らない」ような歌い方をしている時にむず痒さを感じるのである。
ここで言う正しい音程を取れないは、音痴とは違う。
音程と言うのは、例え同じ音でもキーによってその音が持つ機能が違うし、発声や発語の技術によって音程に幅が出て正しい音程に聞こえなくなるからだ。だから、彼女たちを音痴だと思ったことは一度もない。
低音メロディは落とし穴
ル・セラフィムは、デビュー時から低音を行き来する曲が多い。グループのイメージなのか、歌唱力を解決するためなのか分からないが、これが実は発声的に大変難しいことを分かっていないと落とし穴である。
高音がないから音が届かないと言う心配はないが、高音を歌う時と同じ響きを横隔膜を使って保ちつつ音程を取らなければ、音程に幅が出てしまい、低音の旋律が浮かんでこないのである。くぐもった声とでも言えば良いのかな。
その点は、ユンジンはさすがだなと毎回思う。
本番のアドレナリンの厳しい現実
先に書いた 本人たちも高揚について。
やはり本番と言うのは、冷静さを保とうと思いつつも、観客を目の前にすれば「もっとやってやろう!盛り上げよう!練習を忘れて自分を信じてさあ!」と思うのがパフォーマーとして当たり前である。
本番に風邪を引いていても、アドレナリンで歌い切れてしまう事は私でさえも経験がある。それがCoachellaのステージとなれば、いかがな事だろうか!!!
しかし、この冷静さを少し失ったアドレナリン全開の時に出てくるのが、自分の今の本当の実力と言う厳しい現実なのである。
だから私は本番の録音を聴きたくない。悲しくなるから。
発声技術を成長させる事の難しさ
歌はダンスのように、見て真似ることができない。自分の感覚でしか分からない。
ボーカルトレーナーの声帯写真を見せたところで何も解決しない。だから難しい。トレーナーは生徒と時間をかけて、生徒との共通言語を探し、自分の感覚を言語化して伝える。
究極、生徒に分かる言葉で言葉巧みに伝えることが、素晴らしいトレーナーなんだろうと思う。
これは全ての歌手に言えるが、被せに頼って歌い続けていると、喉がその歌い方を覚えて、一向に成長しないことを断言する。
なぜなら、声帯も筋肉だから。
ダンスで一生懸命に体、筋肉が覚えるまで叩き込むのと同じ様に、ステージと言う緊張感の中で被せに頼らない声帯=筋肉を育てないといけない。
時間はかかるかもしれないが、ボーカルトレーナーが彼女たちを正しい道へ導いてくれることを願うばかり。
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