あぷりあぷり

あぷりあぷり
 
 ふと電車に乗りますと老いも若きも男の女もケータイに目を落としてばかり。友達と連絡しているのか、ゲームをしているのか、見てる方にはよくわからない物です。
 
 たまに電話しちゃって苦い顔されている方なんかもいらっしゃいますが、あれもあまり気分がよくありませんな。
 
 「お世話になっておりますー、はい、ええ、その件につきましては、はい、はい…」
 
 「あ、もしもし、うぇキョンちゃんのアレだべ?バッカ、おめ、ぎゃははは」
 
 もし江戸時代の人がタイムスリップなんぞしてみたら、随分とイカれた奴が増えたね、なんて思うのかもしれません。
 
 江戸時代でなくとも、ケータイ覗きっぱなしの人をみますと、ひょっとしてケータイを見ているのではなくてケータイに何かを吸われてるのかな?なんておもったりもいたします。
 
 そんな具合にケータイに何かを吸われているかのように画面を覗いては苦い顔をしている若者のお話。
 
 ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
 
 大学生のヤマシタオウイチロウ、顔面のちょいと涼しいいい男。真ん中でぽこっと分けた髪型は今流行りのケーポップ風。人並み以上には目端が利くので、バイトで貯めた金で、希少な靴やらゲームやらを買い漁り、そいつを高値で捌く転売なんかしてるもんで遊ぶ金にはこまらない。
 
 若い盛りに金もあるとなると、自然遊び方も派手になります。入学したばかりのころは隣に座った可愛らしい某と可愛らしくて付き合っていたようですが、てめえが派手になるとどうも普通がつまらねえってんで、それがしなにがしがわたがし、ってな具合で付き合う相手を変えたり重ねたり。
 
 糟糠の妻なんてのは太古の昔の諺か、小銭稼ぎの横流しもどうにもこうにも堂に入ってきた。手口を動画サイトやらに流して、それでまたファンが増えて小銭が増える。なんとも不埒な雪だるま、2人3人の浮気ならいざ知らず、四五六とスゴロクのようにオカズが増えて、七、八と来た頃にゃもう立派なスケコマシの出来上がりだ。
 
 「…はい、というわけでね。今日は○○爆買いしてみた、でした。乗せられちゃいましたよーどーすんのこれ、まぁかっこいいけどさ(笑い声)今月使いすぎだわー。ま、そん感じでーす。この動画が気に入ったら、高評価…」
 
 手にした泡銭を泡沫の動画にあげて、入れ上げてきた女子供を軒並み釣り上げる。竜宮城じゃ鯛や鮃の舞踊りだが、そうはいかないのが人の性。ある日、釣って晩に食っちまった女の子がどうにも手強い。
 
 いつもなら、得意のLINEでの甘い言葉からのフェードアウトを決めたいところだが、喰らい付いて離れない。キャッチアンドリリースはどこへやら、LINEの通知も桁が増えて、二桁三桁とこっちも雪だるまだ。
 
 どうにもこまったヤマシタ君、大学でも一目置かれる変わり者、留年しながら人類を倒したAIを倒すべくチェスに明け暮れるオオヤマミツミというすすけた男を頼った。
 
 キャンパスの外れも外れにある荒屋(あばらや)、近づくにつれ聞こえる凄まじい爆音。この世の終わりのような叫び声の音楽に、台風のようなドラムが鳴り響いている。

ふと入り口に目を向けると
 “対電脳兵器殲滅決戦人類育成機関”
 となんとも凄まじい文言が書かれた卒塔婆が植木鉢にぶっささている。
 
 「うわぁ」
 
 ヤマシタは思わず声を上げてしまったところで、中からオオヤマがドアをガチャリとあげて出てきた。
 
 「いけすかねえ足音だと思ったぜユーチューバー、お前の動画を見たら低評価をつけるようにしてる。その感謝でものたまいにきたのか?」
 
 いつ鍛えてるのか知らないが、血管がオロチのように走った腕をボリボリかきながらオオヤマはヤマシタの目を見ながら言った。
 
 「オオヤマさん変わらないなぁ、今日はちょっと相談にきたんですよ。」
 
 「借りる金はあっても、貸す恩義はないぞ。まさか俺からも課金する気か、スパチャかスパチャ乞食か?」
 
 オオヤマはいつもこうだ。口上がえらく長い。長いがどこか暖かい男で謎の達観からか、ヤマシタの話をよく聞いてくれ、たまにぶっきらぼうに助言をよこす。
 
 そうこうしている間にもLINEの通知が止まらない、開けるのも面倒だが開けたら即返事をしないと大変なことになる。
 
 「まぁ入れよ、聞くだけ聞いてやる。」
 
 「どうも、どうも、どうにもこうにも参りましたよ。うわ、汚ねえ部屋。」
 
 「汚ねえ根性の奴が来る時は汚くするようにしてるんだ、で今度は一体なんだ?」
 
 爆音の音楽が流れる年代もののコンポを止めながらオオヤマは背中から声をかけた。
 
 「毒舌すねえ、いやぁ実は今日はこっち絡みでして。」
 
 そう戯けながらヤマシタは親指と人差し指を交差させてハートの形を作った。
 
 「?なんだ?パチスロか?」
 
 「違いますよ、恋愛がらみ、レ・ン・ア・イ」
 
 「最近は恋愛もボタン操作なんだなぁ、ポチポチポチって寸法…」
 
 無限に続きそうなので会話を遮り、オオヤマに自分のケータイの画面を見せた。LINEアプリの通知の数字がみるみるうちに増えてゆく。画面の上には“会いたい”だの“あいしてる”だのカロリーの高そうな言葉の歯切れが流れていく。
 
 「これ見てください。こないだ仲良くなった子なんですけど…アマノ、だかクサノだか忘れたんですけどナギって娘です。もうこの子の付きまといが半端なくて、今も返信しないとやばいんすよ。」
 
 「羨ましいじゃねえか色男、自慢のケーポップツラでひっかけたのか、まぁいいやとりあえずツラみせな。」
 
 ヤマシタは画像フォルダの中から盛大に加工された顔面の大半が目玉で、山脈のような谷間を見せつけるピンク色の女の子の画像を渡した。
 
 「ほう、これはまた、なんとも、アレだな。」
 
 「SNSのアカウントに直接メッセージくれて、そこから仲良くなったんです。とにかく可愛くて、俺も一瞬本気になったんすけど、、まぁ色々ありまして距離を置こうとしたらですね…」
 
 「まぁ想像通りの展開ですな、西野カナのトリセツを地でいく、メンがこうヘラ散らかした感じだな。」
 
 「へい、、、」
 
 声が小さくなりながらもヤマシタはポチポチと返事を打っている。
 
 「よくわからねえんだが、なんでスパっと切れねえ?お前のことだから、代わりはいくらでもいるだろ…」
 
 「それが、どうにもアッチの相性が良くてですね、それはもう夜にも昼にも、朝にも咲く花は…てな具合でして切るに切れないんですよ。」
 
 「カッー、女を生花みたいに言う奴だ。擦り切れんばかりの有様だな。摩擦熱で発電ができるんじゃないか。ギガソーラーで自家発電てなもんだ。」
 
 「恥ずかしながら、ええ、その通りです。とにかく地下アイドル活動なんかもしてたもんですから…そのファンとのせめぎ合いも、こう燃えちまいまして。」
 
 「ほえーナギ公はそこまでのタマかい。たしかにこいつは前に出るツラだ。有名なの?ちょっとお前のケータイで検索してみて。」
 
 オオヤマはケータイを持っていない。持っていたこともあるらしいが、魂を抜かれるとか何とかでやめたらしい。
 
 ヤマシタがケータイでナギのアイドルアカウントのSNSを表示してオオヤマに突き出す。
 
 「ほうほう、ちゃんとしてるんだなぁ。マメに投稿してる。人気メンバーみてえじゃねえか。」
 
 「一応、センターみたいっす。」
 
 「センターってのは顔なわけだな、それくらいはわかるぞ。でもアタマがユニークな奴なのか、投稿のケツに絶対に016てつくな。」
 
 「…あ、それ匂わせっす。」
 
 「なんだそりゃ?」
 
 「ですからそれがファンへの挑発でして…それ俺の名前っす。」
 
 「ぜろいち、、、あーお前オウイチロウか。くだらねー。バカだねえ。誰も得しないじゃん。」
 
 「でもそれが燃えるんすよ、背徳感てんすかね、ただ…熱心なファンに暴露されちまいまして…どうもこっちもうまくいかず、住所まで特定されたんす。」
 
 「え、じゃあお前どこで寝てるの?」
 
 「友達のウチとか、まぁホテルとか…色々です。これでも多少顔が売れてて、まともに飯も食えねえんすよ。」
 
 「くえねえ、ねれねえ、住めねえ、とワイルドな暮らしなわけか。」
 
 「へい。」
 
 そうこうしてる間にも、信じられないスピードでLINEの返信をするヤマシタを横目に、オオヤマはタバコに火をつけて思いっきり吸い込み、人魂くらいの煙を吐き出した。
 
 「でさ、お前実際のところ何人くらいとよろしくやってるの?」
 
 「え、今っすか、ナギを入れて、八人くらいすかね。」
 
 「は、、八ッ!?八又か。三又ならキングギドラだが、お前何本生えてやがるんだ。とんでもねえな。」
 
 「何言ってるんすか、男の根っこは一輪咲きですよ(キラッ)」
 
 「バカ言ってんじゃねえよ、おめえの男根は椿だ。咲き終わったらポトリと落ちる定めよ。」
 
 「また時代劇みたいなことを…それより続きを聞いてください。ナギ、実はよろしくない筋者とも付き合ってたことあるらしくて、そっちからの圧もやべえんすよ。」
 
 「呆れて声も出ねえや、ヤクザのお手つきに手を出したってことかい。」
 
 「その筋にも明るいんで、アレの扱いにも慣れてまして…アレを入れてのアレは格別なんす…正直それで切るに切れねえというか。」
 
 「は?お前犯罪者じゃん、つまるところヤク乞食だぜ?」
 
 「もう足を洗いますから、足を洗いますから話を聞いてください。」
 
 「まあ俺は困らねえから聞こう。」
 
 「こうしてる今も凄まじいLINE攻撃なわけです。見てください。」
 
 “好き好き好き好き好き好き好き…”
 “私重い?”
 “好き好き…”
 
 唐突にトーク画面に訪れる鮮血の写真
 
 「おい、なんか流血してるぞ、」
 
 「うわぁ、まただ。なんか悪いもの出すとか言って自分の腕切るんですよ。腕見てください、キズだらけでしょ。」
 
 「こいつはアタリメのイカだ、スルメイカみたいじゃねえか。よく見るとたしかによろしくねえ注射器のアトも見えるぜ。」
 
 “スタンプを送信しました”
 
 「うお、おいこいつ同じイラスト連打してやがるぞ、」
 
 「あー、もうスタンプ攻撃っす、そうやって俺の携帯の電池落とすの目的なんすよ。コンセント借りていいっすか。」
 
 「病んでるようで狡猾さもある、、すげえタマだな。お前には勿体ねえよ。」
 
 「はーやっちまいましたよ。どうしようこれから。今日泊めてくださいよ。」
 
 「やだよ厄病神め、しっしっ。」
 
 「そう言うと思いました。けど俺結構真剣に辞めたくて、色々、これを機に生まれ変わりたくて。」
 
 「ほう、雨でも降りそうな殊勝さだな。」
 
 「だからオオヤマさんとこ来たんすよ、なんかズバッと辞めたいんす。オオヤマさんなんか心理学の本読んで論文とか書いて学校に張り出してたじゃないですか。」
 
 「おう、あれな、痛快だったろ?」
 
 「ですから、ね!男オオヤマ、助けてください。」
 
 ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
 
 オオヤマは灰になったタバコをぐしゃりともみ消して2本目のタバコに火をつけて静かに目を閉じた。
 
 またまた大きな煙のカタマリをブウっと吹くと、真面目な顔で語り出した。
 
 「その、お前はLINEとか言うのばっかり見ていてそこに意識を持ってかれてる。今も、俺の話を聞きながらそこに目を落としてやがる。」
 
 痛いところを点かれたのかギョッとするヤマシタ
 
 「無理もねえ、おめえは中毒なのさ。だからなLINEを名前を言いにくいものに変えればいいんだ。頭の中で。」
 
 「と、おっしゃいますと?」
 
 「いいか?LINE、たった三文字だ。それじゃパブロフの犬みてえに、ラインみよ、ライン見なきゃ、ライン返事しなきゃ、ってなるだろ。」
 
 「まぁそうすね。」
 
 「だから俺が別名を授けてやる。これからお前は俺の言った通りのことを覚えないとならない。これは命令じゃない、アタマの整理だ。」
 
 「はい。」
 
 「まず、LINEじゃない。あぷりあぷりだ。」
 
 「なんでですか?」
 
 「繰り返すと間抜けな響きだからだ。」
 
 「あぷり、あぷり、、、、はい。」
 
 「そして、お前の現状は、下ネタの擦り切れだ。」
 
 「ひでえ、ひでえけどそうです。」
 
 ヤマシタはどんどん首を下げていく。
 
 「そんでもって、アイドル崩れのネンゴロ始末、匂わせ不始末、暴露始末だ。」
 
 「崩れではないですけど、まぁそうすね…」
 
 「そうだろ。んで、食う寝るところに不自由する。違うかい?」
 
 「はい、はい、そうです。」
 
 「よしよし、そんでもって、ヤクザお手つきにお手つき袋小路。」
 
 「…」
 
 「パイプ、パイプ、パイプの次はシリンジ、シリンジ飽きてガストーチ、ガストーチ飽きてリストカット。おっちょこちょいのラリパッパの救急搬送手前のヘボ助。てなもんよ。」
 
 「なんなんすか!さっきから。」
 
 「おめえの話をまとめてやってんだよ。だからな、俺の言った言葉を忘れるな。おめえがそのケータイいじるたび、俺の言葉を反芻しろ。すると、『あ、何でバカなことを、オオヤマさんおありがとうございます。』とこうなる。」
 
 「そんなバカな。」
 
 「バカはてめえだ、さっさと選べ好きなの持ってけ。今なら無料だ。」
 
 「さっきから聞いてればジジイ!ひでえにも程がある、ちくしょうこっちも意地ってのがある。この野郎全部ひっくるめて貰おうじゃねえか。」
 
 ヤマシタは急にケータイから目を上げてイキりだした。
 
 「お、いいぞ青筋ばりやがって。若いんだからそうこなくちゃ。で、おめえを縛りつけてるものはなんだ!?言ってみろ!」
 
 ヤマシタは薬が切れたのか汗をだくだくかきながら、その辺にある椅子に片足を引っ掛けて大声で捲し立てた。
 
 「聞け山猿っ!俺を縛り付けるものは…あぷりあぷり下ネタの擦り切れアイドル崩れのネンゴロ始末匂わせ不始末暴露始末、食う寝るところに不自由するヤクザお手つきにお手つき袋小路パイプパイプ、パイプの次はシリンジ、シリンジ飽きてガストーチ、ガストーチ飽きてリフトカットのおっちょこちょいのラリパッパの救急車搬送手前のヘボ助!てことですか!」
 
 
 「いいぞ!ヤマシタお前の携帯から、あぷりあぷり下ネタの擦り切れアイドル崩れのネンゴロ始末匂わせ不始末暴露始末、食う寝るところに不自由するヤクザお手つきにお手つき袋小路パイプパイプ、パイプの次はシリンジ、シリンジ飽きてガストーチ、ガストーチ飽きてリフトカットのおっちょこちょいのラリパッパの救急車搬送手前のヘボ助を削除しちまえ!」
 
 オオヤマも負けじとけしかける。タバコの箱やらライターやらを掲げては机にバンバンやる。バンバンやるたびに狭い部屋が震える。
 
 「この野郎、消して…消してやる…前に最後に別れの口上だけ、あぷりあぷり下ネタの擦り切れアイドル崩れのネンゴロ始末匂わせ不始末暴露始末、食う寝るところに不自由するヤクザお手つきにお手つき袋小路パイプパイプ、パイプの次はシリンジ、シリンジ飽きてガストーチ、ガストーチ飽きてリフトカットのおっちょこちょいのラリパッパの救急車搬送手前のヘボ助にやってもいいですか。」
 
 出し切ってスッキリした顔つきのヤマシタを見てオオヤマは
 
 「おう、構わねえよ。俺も鬼じゃねえ。お前も色男の看板てもんがある。店仕舞いだ。しっかりとやれよ。」
 
 「ありがとうございます!ふむふむ、通知1300…ふーん長くなっちまいましたから随分と溜まりましたね。どれ、最後の文面だけ確認して…なになに、どこにいるの?ってバカな女ですねGPSでわかってるくせにwおそい💢て知るかって!いってやりますよ。」
 
 威勢が良く喚き散らしているヤマシタの背にある窓には曇り空の夕焼けが見えていた。
 
 「おう、随分と日も暮れちまった。おめえのあぷりあぷり下ネタの擦り切れアイドル崩れのネンゴロ始末匂わせ不始末暴露始末、食う寝るところに不自由するヤクザお手つきにお手つき袋小路パイプパイプ、パイプの次はシリンジ、シリンジ飽きてガストーチ、ガストーチ飽きてリフトカットのおっちょこちょいのラリパッパの救急車搬送手前のヘボ助の話を聞いてたら耳が疲れちまった。耳ざわりのいい酒でも奢ってんな。」
 
 「へー調子のよろしいことで、安心してください。稼いでますんで店の一つや二つ貸切で呑みましょう。」
 
 「わーった、わーった。さっさと返信して削除してシケこもうぜ。」
 
 オオヤマがヤマシタの背中をポンと叩いたか叩かないかその瞬間、ガラスの割れる音がした。
 
 さっきまで夕焼け空があった窓は叩き割られ、同じように真っ赤な服を着た女が尋常じゃない目つきで立っている。
 
 手には出刃包丁、口の端は乾いた泡、オオヤマがあっ!と思った時にはすでに遅く一直線にヤマシタの腰の辺りに出刃を突き立てた。
 
 「無視するんだもん、返事遅いんだもん、無視するんだもん…」
 
 ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
 
 数日後
 
 ヤマシタは幸い軽傷だったが随分懲りた様子。ナギはオオヤマに付き添われ警察へ。大事にしたくないヤマシタの意向で、叱られて微罪になるとのこと。
 
 元通り爆音の中チェスを打つオオヤマをヤマシタが訪ねた。
 
 「すみません、いろいろお騒がせしました。」
 
 「おう、色男、背中に穴あけられたんじゃもう八又はできねえな。」
 
 「ひでえこと言う、、、」
 
 「イキって娘8人食い物にするなんてヤマタノオロチだ。オチに刺されて大人しくなる。スサノオノミコトのオロチ退治ってな。」
 
 「なんすかそれ」
 
 「まぁ後でググっとけ、退治したオロチからは草薙の剣ていう宝ものが出てきたんだが、まぁお前の場合は草薙の剣にブッ刺されたてことにしとこうか。」
 
 「なんとも酷いオチですけど、俺が悪いんで…」
 
 「おう、立派な縮み方だ。八雲立つ、出雲八重垣、妻籠みに、八重垣作る、その八重垣を、なんてな。」
 
 「なんすかそれ。」
 
 「無学な野郎だな。まぁお前さんもこれからは八雲立つとはいかねえが世間様の役に立つ人間になれや。」
 
 「よく知らないですけど、オオヤマさんには世話になりました。」
 
 そういってヤマシタはふっと手を差し出して握手を求めた。
 
 「うぇーやめろやめろ、俺はチェス打ちだから、悪手(あくしゅ)はしねえんだ。」
 
 おしまい
 
 
 
 あとがき
 
 スピード感で書き上げた、言ってしまえば創作落語というか改変落語です。八又のヤマシタ君もそうですし、オオヤマ、ナギ、登場人物は日本書紀の伝説からとりました。話の筋も八又を退治する話にしたかったので拝借してます。興味があったらそっちも読んでください。そしてもう一つの本筋はみんなが知ってるあの落語です。“長名”て名前で慣れ親しまれてるんで、きっと知ってると思います。あれなんかは文で読んでも面白くないので、今回のお話も音読すると滑稽になるように書きました。偉大な文化に敬意を表しつつ〆させていただきます。最後まで読んでくださりありがとうございました。

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