参考にならないHow to★作詞家になるには[12]

食事会は進み、お酒も進み、酔っ払った社長が調子に乗ってふいに明日香のことを
「うちの商品が…」
というような言い方をした。

また酔っ払ってる…
明日香のご両親の前でも同じ言い方ができるのだろうか。
社長のお酒の飲み方に対する日ごろの苛立ちがパチンと弾けた。
「社長、明日香は物ではありません」
他社の社長さんの前にも関わらず私はニコリともせず冷たく言った。

社長も社長で私の仕事ぶりに対する日ごろの鬱憤が溜まっていたのだろう。
他の社長の前で社員にそのような扱いを受けた社長は眼鏡の奥からギロリと私を睨んで真っ赤な顔をして、出逢った日のように酔っ払った上半身をグラングランと揺らしながら言った。

「お前なぁ!仕組みが分かってねぇんだよ、仕組みが。
明日香は商品!それを売るのがオレ!」

そこから何か言い合いをしたような気がするけど、最終的に私はおそらく接待でもあったその食事会の途中で帰った。
売り言葉に買い言葉で
「社長と一緒に飲む酒ほどまずいものはない」
くらいは言ったかも知れない。

その数日後、社長に呼び出された。
しぶしぶ行くと、私の顔を見るや否や社長が言った。

「お前、マネージャークビ。
んで、会社もクビ」

仕方がないと思った。
明日香はもう大阪の自宅に住んでいて、夜が怖い心配もない。
私は所属事務所のマネージャーだけれど、レコード会社にも明日香専属のマネージャーさんがいて毎現場同じ人がついていてくれるし、大阪にも大阪担当のマネージャーが新しく雇われてその人もとてもしっかりしたとても良い人で、明日香も頼りにしていた。
私がいなくても現場は滞りなく回る。
明日香とは時間が合えば互いの家に泊まるような関係なので、友人としての関係は続いていくだろう。
もう私が社員である必要はない。

「わかりました」

私が言うと、社長は続けた。

「明日香のマネージャーは、うちの社員。
うちの社員はオレの部下。
でもオレ、お前みたいなヤツを部下にすんの、もう面倒くせぇからヤダ」

「はい。わかります」

「だから社員じゃなくて、作詞家としてうちと契約しろ。
そしたらお前はオレの部下じゃない」

「………はい?」

思いもよらない言葉に私が顔をあげると、社長はニヤリと笑っていた。


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