参考にならないHow to★作詞家になるには[16]

後日スマイルカンパニーの事務所で部長さんとの面談があり、明日香に提供していた歌詞をネットで事前に見てくれていた部長さんは2つ返事で「是非うちに所属してください」と言ってくれた。

社長とは契約書を交わしていたわけではなかったしほぼほぼ仕事ももらっていなかったので軽い気持ちで、いや、私を作詞家にしようとしていたのだから、どちらかと言えば喜んでくれるかも知れないとすら思いながら「スマイルカンパニーと作家契約をすることになりました」と報告すると、社長は苦虫を嚙み潰したような顔をして「恩知らずめ」と吐き捨てた。

けれど、それで傷付くほど社長と過ごした時間は短くなかった。
社長は採掘が趣味である。
明日香がダイヤモンドだとしたら、私は雨に濡れて透明度が増しただけの庭の小石のようなものであったが、社長にとってはぜんぶ「オレが見つけたもの」であった。
居酒屋にベロベロになりながらもカップルを迎えに来た時も
「ウチのがよ~、いるだろ~、ウチんとこのがよ~」
と言っていた。

ウチの子達。
オレの子達。
彼なりに、愛情深い人だった。

恩返しをするのは、私が一人前の作詞家になったらでも遅くない。
そう思った私は「今までありがとうございました」と言って、社長の元を離れた。

それから間もなく、スマイルカンパニーと契約書を交わした。

さて。
ここまで長々と書いてきたこの文章を読んでくださっている方に、この文章が終わる前にどこかでこの言葉を言うなれば。
ようやくここで言えるだろうか。

「こうして、私は作詞家になった」

肩書きだけで言えば、
きっとこのタイミングで言うのが正しいのではなかろうか。

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