参考にならないHow to★作詞家になるには[10]

明日香のマネージャーとして東京と大阪を行き来していた私は、その日も大阪のホテルに1人滞在していた。

ベッドに寝ころんで翌日のスケジュールを確認していると、社長から1通のメールが届いた。
「この曲に歌詞つけてみな」
居酒屋で出逢った可愛いカップルの、彼女の子が作曲した曲が添付されていた。

作詞をしたことがなかったのでどのような形の音楽が流れてくるのか想像もつかなかったけれど、一先ず流してみた。
その曲はアップテンポで明るく、元気いっぱいだった。
居酒屋で出逢った彼女が歌っているであろう歌声が全編「ラララ」で入っている。
彼女はジャンベ&ボーカル、ギター、ギター&ボーカルというスリーピースのガールズバンドのギター&ボーカル担当だったので、演奏はその子達のものだった。

居酒屋で話した時に彼女自身から感じた、元気で明るいイメージ通りの可愛いおもちゃ箱のような歌声。
この世のどんな不条理も違和感も丸ごと包み込んで、笑い飛ばしてくれるみたいだなぁ…
曲を聞いているうちに私の頭の中に「インクないプリンター」や「浮気性の愛妻家」など、憎み切れなけれど良さそうでダメなものが次々と愉快に躍り出て来た。
私は頭の中のそれらを摘まみ上げて、流れてくる歌に合わせて文字にして社長に送った。

その時に私は生まれてメロディに合わせて言葉を書いた。作詞をした。
生みの苦しみというものは一切なかった。
流れていた歌声は「ラララ」と歌っていたはずなのに、言葉がもうあるように聞こえて来たのでそれを慌てて書き留めた、という感覚に近かった。

書き終わってから書いていた時間を思い返すと、ずっと昔から知っている大好きな友達と一緒に遊んでいたような楽しさが残っていて、心の中は思い切り泣いた後のように気持ちが良かった。

数日後社長からメールが届いた。
「歌詞、いいよ。これでいこう。
でも他の曲に似た表現があるから1Aの2行目だけ他の言葉にして」

私はすぐに返信した。

「1Aってなんですか」

…皆は知っているのだろうか。
大体J-POPは基本的に、歌の始まり部分「Aメロ」、Aメロとは違うメロディでサビまでを繋ぐ「Bメロ」、そしてサビの部分「Cメロ」で構成されていることを。
その3部をもう1度繰り返して2番となり、その後に全く今まで出てこなかった「Dメロ」と呼ばれるメロディが入ってきたりこなかったして、最後にまた「Cメロ」つまりサビを繰り返すのがJ-POPの基本的な形なのである。

それは何となくカラオケなどで感覚的に分かっていたとしても、それぞれの部分を「Aメロ」「Bメロ」「Cメロ」「Dメロ」、1番のAメロを「1A」、2番のBメロを「2B」などと言うことなど、当時の私が知る由もなかった。

「お前、なんでそんなことも知らないのに作詞はできるんだよ」
社長から「1A」の説明と共に呆れた口調のメールが届いた。


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