毎朝の"10秒"に感謝と願いを
今年、地味に衝撃だったニュースがある。花王さんのメイクアップブランド「AUBE」の終了である。
私が化粧品について書くなど、後にも先にもこれだけだろう。
そのくらい衝撃だった。いよいよ2024年3月から順次生産が終了されるとのことで、抱えきれない喪失感を残しておきたい。
3つのハードルと虚無感
ところで、私はアイシャドウが苦手だ。アイシャドウの基本は、薄い色から順に何色か重ねていくことだと言う。
そのようにやったらいいじゃんと思われるかもしれないが、私には、これがとてつもなく難しい。
最初のハードルは、色選びだ。化粧品コーナーを見渡すと、数々のブランドが鎮座している。溢れかえる色々に、わくわくするどころかフリーズする。どうしたものか。自分で色を選べないのであれば、セット買いだということで、何色か入っているパレットを購入する。
次の問題は、グラデーションだ。パレットを開き、見よう見まねで色を重ねる。1色目は適度に広げて、2色目でなんとなくこの行為に飽きてきて、3色目に手を伸ばしたときには、どこからどう重ねていたか、現在地を見失う。正解がワカラナイ…。
最後に、かかる手間だ。グラデーションというのが本当に曲者で、濃い色と薄い色とでブラシを変える必要がある。ちょっとサボって、指で塗ろうとすると、いまいちグラデーションできない。悪戦苦闘しているうちに、時間対成果の手応えのなさに悲しくなってくる。
問題はまだある。仮にここまでのハードルを越えたとして、私には、最大の問題がある。頑張って色を重ねたところで、一重であるがゆえに、アイシャドウの半分くらいがまぶたで隠れるのだ。(伝わりますか?)
いやーなにこの競技。みんなどうしているのだろう。
たった10秒で自己肯定感が上がった
メイクを始めた頃は、少しでも上手くなりたいという向上心があったが、3つのハードルと一重の虚無感による浮かばれなさから、毎日をやり過ごしていた。
そんな中で、出会ってしまったのだ。
唯一無二の商品に。
「10秒シャドウ」は、あらかじめアイシャドウがグラデーションに配置されていて、ブラシひと塗りでメイクが完成するという魔法のような商品だ。
何より、色を選ぶ必要がない上に、グラデーション自体をする必要がない。当然、ブラシは1本で終わる。しかも、ベースと締めの色も加えると5色も使っていることになる。
何この解放感。
Canvaを使ったら、外に出しても恥ずかしくないデザインができるようになった。STUDIOを使ったら、満足のいくWebサイトをつくれるようになった。
あの感動なのです。
拳と感謝と願い
その、あの、この10秒シャドウを率いるAUBEが、30年の幕を閉じるのだ。
なんということだろう。ニュースを見てお店に走る。少しの買いだめで、なんとか気持ちを落ち着かせる。
そして、グッと拳を握る。憂鬱な日々が帰ってくる。溢れかえる色の前に立ち尽くし、毎日なんとなくグラデーションが上手くいかず、工数をかけたわりに一重に打ち消される日々が帰ってくる。
天を仰ぎ、しかし、湧き上がってくるのは感謝の気持ちである。私にとって10秒シャドウは、単に楽できる以上に、アイシャドウの苦手意識から救い上げてくれたばかりか、一重の報われなさにも寄り添ってくれた商品だったのだ。
おかげで、人並みにアイシャドウが出来ていると思って生きることができた。
この運命を静かに受け入れ、またいつか、どこかで、違う形ででも、カムバックする日を願おうと思う。
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